二話:白の魔力、黒の魔力
レピファとメアとの間で一悶着があってからしばらく経ち、あたりはもう夕方。朝にテューネから伝えられていた、”ジェーンが研究していることへの協力”をする時間になった。リスタは「予定がある」と言ってジェーンの家にメアとともに帰ってきた。今日もロマとメアを連れてジェーンの元へ行かなければならないので、リスタはロマを探すために、一旦自分が借りている部屋に入る。
「あぁ、よかった。すぐに見つかった……」
どうやら今日はテューネの首に巻き付いているロマを見ることができなかったらしい。リスタはそんなロマを見れずに少しがっかりする反面、すぐに見つかったロマに安心もした。
「ロマ。今日もジェーンさんのところに行きましょう」
リスタがそう言ってロマの目の前に手を出すと、それを伝ってロマはすぐにリスタの肩まで登ってきた。
そうしてロマとメアを肩に乗せた状態でリスタはジェーンのいる部屋へと向かう。ちなみにロマとメア、特にメアのほうが重く、重心が偏るようなこの状況は心器を出していないリスタにとっては割ときつい。
そんなこんなでジェーンのいる部屋の前までリスタはたどり着き、ドアをノックする。そして「どうぞ~」とジェーンの声が聞こえてきた。
「失礼します」
「あっ、来たね。とりあえず今日もこれ。2匹にあげて。それと、今日は君じゃなくて、そっちの2匹に用があるんだよね。協力してくれるかな?」
ジェーンがそう言うと、しぶしぶ……リスタの主観だが、本当にしぶしぶ2匹はジェーンの元に行く。
「おっ、ちょっとは私に慣れてきたかな?うん、偉い偉い」
そう言ってジェーンは2匹の頭を撫でようとするが……
「あっ……」
「う~ん……撫でるのはダメなのか~……」
2匹により撫でようとしていたジェーンの手が噛まれ、引っかかれの状況に陥ってしまった。ただ、やはり出会ったときと同じようにその状況でもいつも通りのジェーンの姿にリスタはただただ困惑してしまう。
「あの、痛くないんですか?」
「ん?あぁ、まぁね。子供のころは痛かったかもしれないけど」
「…ジェーンさんの子供って……いつごろですか?」
「う~ん……ざっと50歳くらい?その後はだんだん慣れてきたって感じかな。ま、そんな話は置いといて、とりあえず君たちのことよく調べたいからそろそろ手を解放してほしいんだけど……」
ジェーンがそう言うと、しぶしぶ2匹は牙を抜き、爪を引っ込める。
「うん。いい子たち。それじゃあ、さっき撫でようとしたら噛まれたりひっかかれたりしたけど、今から触るよ?いい?」
「シュルル…」
「ニャウ……」
「いいのかな?まぁいいって思っておくね」
そうしてジェーンはその2匹の体を触った。そのまま数秒経過するが、特に何かをしているような感覚はリスタは感じられない。ただ、2匹は何かを感じ取っているのか、体を少しくねらせたり、自分の体を掻いたりしている。いや、ただ単にジェーンに触られるのが嫌だけなのかもしれないが、それは少し違うような気がしたのだ。
「うん。大体知りたいことはわかった」
「なんですか?」
「まずは……そうだね~……魔力感知って魔法は知ってる?」
「はい。その名前の通り魔力を感知する魔法で、魔法を扱う人や魔獣の得意属性もわかったりするんですよね?」
「そう。それで、昨日心獣と君との魔力的なつながりがないかなぁ?って思って見て見たんだけど、特になかった。だけどね、触れてみてわかった。一応魔力的なつながりはある。だけど、それはあと付けの魔力じゃない」
「えっと?」
「あ~……使い魔ってわかる?心を通わせた動物に自分の魔力とのつながりを作って、ある程度こっちからの要望を伝えられる存在。魔力をちゃんと扱う頭のいい種族とのつながりができるから、普通の動物と違って頭がいいんだよ。で、その子たちって頭いいでしょ?」
「まぁ、そうですね。私の言うこともたぶん理解してますし……」
「うん。ロマちゃんがテューネと話せるのは知ってる?」
「あ、昨日聞きました」
「なら話が速い。本来、竜人が蛇とまともに会話できるのなんて珍しいらしくて、単語での会話でしかできないらしいんだ。でも、ロマちゃんとテューネはしっかり会話してる」
「そこから心獣は使い魔のような存在だと考えたわけですね?」
「うん。だけど、さっきも言った通り、使い魔には主人の魔力が与えられている。この状態の使い魔を魔力探知で見ると、その使い魔と主人が魔力のリボンでつながっているように見える。だけど、何もせずに見るだけなら|ロマちゃんとメアちゃん《この子たち》には主人とつながっている魔力のリボンが見えない」
「ならなぜもう一度見たんですか?」
リスタがそう言うと、ジェーンは人差し指を立てる。
「1つ。昨日と違うことがある。それはこの子たちに触れているということ」
「触れている……」
「魔力感知って生物に触れるとその生物の中で循環してる魔力を見ることができるの」
「触れてないと見えないんですか?」
「そう。だから、今回は”見ることができた”。この私の目にはっきりと映る、リスタちゃんの白と黒の魔力が」
「え?」
「心獣は外付けじゃない。君のその目や、手、足、心器の所有者が生まれた時に持っていたものと同じもの。そうだなぁ……使い魔がカツラだとするなら、心獣は地毛ってところかな?」
「なるほど……」
「だから君の背中にあった紋章には心獣と同じ動物が描かれていたんだ……と、私は思うんだけど……君はどう思う?」
「どう思う……と言われましても……そうなんじゃないでしょうか?」
「まぁ、そうだよね。素人に急にそんなこと言っても。それにまだ仮定の段階だし。あ、ロマちゃんとメアちゃんにはご褒美ね」
そう言ってジェーンはロマとメアにそれぞれおやつを渡す。それを2匹ともぺろりと平らげ、それぞれリスタの首に巻き付いたり、膝の上に乗ったりした。
「うん。今日は一応終わりかな~。何か質問ある?」
「えっと……それじゃあ一つ」
「どうぞ」
「白と黒の魔力って言ってましたけど、心器の所有者は魔法を使えないんですよね?」
「うん」
「でも、私に魔力があるのなら、何かしら魔法が使えるんじゃないですか?それに、歴代の心器を持っていた人も……」
「あ、それね。そこを詳しく説明したら長くなっちゃうけど……とりあえず、魔力があることと、魔法が使えることは別って覚えておいた方がいい。それに、そもそも所有魔力が低かったり、魔法を扱うことが苦手な人もいるだろうし」
「ちなみに私の魔力量は……」
魔法が使えないとわかっていてもどうしても気になってしまう。まぁ、聞かなくてもいいわけだが……
「う~ん……中くらい。魔法師にもランクがあって、下級、中級、上級みたいに別れてるんだけど、それぞれの階級に行くために、実力ももちろん必要なんだけど、魔力量も必要なんだよね。だから、今の君だったら、中級魔法師くらいにならなれるんじゃない?魔力量だけで言えばだけど」
「なるほど。わかりました」
「うん。あと質問はない?」
「はい。大丈夫です。それじゃあありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ」
「それじゃあ、失礼しました」
そう言ってリスタはロマとメアを連れて部屋を出ていく。部屋を出るとそこにはいつの間にかテューネが待機していた。そうしてリスタたちは夕食をとることとなるのだった。
* * *
「それじゃあ、失礼しました」
そう言ってリスタはジェーンの部屋から去っていく。その部屋に一人残されたジェーンは先ほどまで見せていた笑顔が一変し、焦りと不安、そして恐怖に染まった表情へと変化していた。
「……あの時の魔力……どっちだ……どっちだった?白か?黒か?」
—どっちが魔王と同じものだった?




