一話:猫と猫獣人
リスタがレピファと出会って約2日が経った日。約束通り、リスタとレピファはともに依頼を受けていた。依頼のランクはE。内容は魔獣の討伐だ。魔獣と言っても弱い魔獣を10匹倒す程度なのでそこまで心配はいらない。武器を持った平民の大人3人もいれば難なく倒せる程度。ましてや、魔法を使うことができ、人間族よりも高い身体能力を持つ猫の獣人族であるレピファがいるとなると全く問題はないだろう。
「ファイア・アロー!」
リスタが鎖で魔獣を拘束し、それをレピファの魔法で討伐する。そうして魔獣の心臓部位にある魔石というものを集めていく。
「本当に助かります!今回の魔獣はすばしっこくて狙いづらくて…でも、リスタさんのおかげで当てやすかったです!!」
「いやいや、私、攻撃はできないですし……この鎌や、前に見せた槍だって少し特殊で、当たってもすり抜けてしまうので……ですから私だけいても何もできないんです。レピファさんがいるからですよ」
「そ、そうですか?え、えへへ」
真面目だったレピファの顔が誉め言葉によってふにゃりと崩れる。魔獣が生息している場所に来るまでに色々と自分たちの話をしていてわかったことだが、レピファは14歳にしてはずいぶん大人びている人だとリスタは思っていた。だが、こうしてみると年相応の女の子だ。
「あっ、もう10個集まりましたね。それじゃあいったん戻りますかリスタさん」
「そうですね」
そうして2人は目標の物を集め終わり、冒険者ギルドへと帰る。その最中のことだ。
「そう言えばリスタさんは記憶喪失なんですよね?」
「そうですが……なにか?」
「いや、親とか、友達とか心配してるんじゃないのかなぁと思いまして」
「ん~……いや、そんなことはないと思います」
「それは……なんでですか?」
「なんでかと言われると……」
自分はおそらく大罪人だった。なんて言えるわけもない。ただ、その理由一つにしても親や友人が心配してない理由にはならないとリスタは思うのだ。だから、大罪人という一つの理由は言わずに、もう一つのそう思う理由を口にする。
「心が言うんです。『自由に生きたい』って」
「心……ですか?」
「ええ。心です」
「む、難しいですね……」
「まぁ……そうですね。でもとりあえず言えることは、心が言うことには素直に従っておいた方がいい時があります。なので私は自由に生きるんです」
「へぇ~」
「レピファさんの親や友達はどうなんですか?」
「私ですか?冒険者になるって言ったら、両親にもお兄ちゃんにも大反対されました。友達には応援されましたけどね」
「レピファさんは今14歳ですよね?それはいつで?」
「1年前ですね。13歳です」
「なぜ反対されたんですか?」
「えっと……お恥ずかしながら、まだ離れたくない…と……」
「……」
13歳。人間にしたらまだ子供。しかし、猫の獣人族は10歳で成人。立派な大人だと認められるというのだ。ただ、レピファの両親や兄はレピファのことを溺愛していたため、冒険者になって実家を出ていくというレピファの判断に大反対されたわけだ。
「愛されてますね……ふふっ」
「ちょ、ちょっと!笑わないでくださいよ!確かに猫の獣人族で子供に自立してほしくない!なんて親は珍しいですけど!」
「ま、まぁまぁ。人間ならまだそんな感じの時期ですから」
「私は獣人なんです!む~!」
ぷく~とレピファはかわいらしく頬を膨らませる。それを見てリスタはさらに笑ってしまい、結局またレピファは拗ねてしまった。
* * *
「落ち着きました?」
「落ち着きましたけど……リスタさんも悪いですからね!」
「ふふっ…ごめんなさい」
「反省してくださいね」
「はい、反省します」
「ならいいです。あ、そろそろ着きますよ。魔石の入った袋ください。私が換金してきますので」
「わかりました。おねがいしますね」
そう言ってリスタはレピファに依頼で討伐した魔獣の魔石の入った袋を渡した。その後ギルドの中に入ったレピファは換金のために受付へ行き、リスタはレピファが換金している最中に、今出ている依頼を見ているときだった。
「ニャ~オ」
そんな声とともに、リスタの肩にずっしりとした重みを感じた。
「っメア?!なんでここに……」
自分の肩を見たリスタは危うく大声を出すところだった。なにせいきなりメアが自分のもとにやってきたのだから。
「どうやってここに……と言っても私はメアの言うことはちゃんと理解できないので意味ないですよね……どうしましょうか…」
色々とリスタが独り言をつぶやいていると、後ろからレピファに声を掛けられる。
「リスタさん。換金終わりました。ところでその子は?」
「あぁ、この子は……」
「シャー!フシャー!!ニ゛ャー!」
リスタがレピファにメアのことを説明しようとすると、急にメアがレピファに威嚇し始める。
「ひゃぁ?!ごめんなさい~!そんなんじゃないんですよ~!」
すると、威嚇に対してレピファは謝り始めた。
「私リスタさんに助けてもらっただけです~!」
猫に対してそんなことを言うレピファ。少し声が大きめだったせいで注目がリスタたちに集まる。
「あ~……レピファさん。少し外に出ましょう」
そうしてリスタはレピファとメアを連れて外に出る。その時にリスタがレピファの手をつかんだのだが、それに対してなのか、メアはまたもや威嚇を始めた。
「とりあえず外に来ましたけど……レピファさんどうしたんですか?」
「えっと……私、猫の獣人なので、本物の猫が言うことも分かるんですよ……」
「ニャー」
「わかってますよぉ……えっと……まず、その黒猫さんに出会って言われたのが、『2日前の匂いはお前か!メス猫!近寄るな!』と……」
「2日前……あ~……だから、私に助けてもらっただけ。って言ってたんですね?そう言えばあの時レピファさんのこと抱えて逃げてましたから」
そうリスタが言うと、メアは少し不満そうな目でリスタを見た。
「それから、さっきリスタさんが私を連れて外に行くときも手が触れてたので……」
「いや、それは私から触ったんだから許してあげてほしいんですが……」
「ニャ。ミャウ」
「『主様だから、許す』らしいです」
「よかった。ありがとう」
そう言ってリスタがメアの頭をなでると、メアがリスタの頬に自分の頬を擦り付けてくる。その間にメアがレピファに冷たい視線を送っていることをリスタは知らない。
「ミャ~ウ」
「ん?何?レピファさん。メアが……あ、この子の名前言ってませんでしたね。メアです。仲良く……で、できそうですか?」
「な、仲良くしたいですけど……メア、さん?いいですか?」
「ニャ」
「……」
しょんぼりとしているレピファを見る限り、いい反応ではないのだろう。
「あの、それで、メアの名前を言う前に何か言ってましたよね。それはなんと?」
「え?」
「ほら、さっき私がメアの頭を撫でた時に何か言ってたじゃないですか」
「え?あ、その……何も、言ってません、よ?」
レピファはそう言っているが、目は泳ぎまくっているので、嘘をついていることは明らかだ。リスタがそんなことを考えていると、レピファの顔がどんどん赤くなっていく。
「レピファさん?!ど、どうしました?!熱でもあるんですか?!」
「ミ゛ャ~!!」
「うわぁっ!ごめんなさい!ないですないです!熱ないですからリスタさんは触らないで~!メアさんに殺されちゃいます!」
「そこまで?!メア、流石にそれはダメだよ!?」
「ミャウ……ニャーオ♪」
「へ?な、なんですかそれ?!」
「ニャ、ミャウ、ミャーウ」
「ひゃぁ……」
「え?な、なんて言ってたんですか?」
「ミャウ」
「『言わないで』とのことなので言うのは無理です……」
「え~……?」
最後の会話の翻訳です。
リスタ「レピファさん?!ど、どうしました?!熱でもあるんですか?!」
メア「ミ゛ャ~!!(触られたら殺す)」
レピファ「うわぁっ!ごめんなさい!ないですないです!熱ないですからリスタさんは触らないで~!メアさんに殺されちゃいます!」
リスタ「そこまで?!メア、流石にそれはダメだよ!?」
メア「ミャウ……ニャーオ♪(冗談だから……面白いからからかっただけ♪)」
レピファ「へ?な、なんですかそれ?!」
メア「ニャ、ミャウ、ミャーウ(でも、お前から近づいたら殺す)」
レピファ「ひゃぁ……」
リスタ「え?な、なんて言ってたんですか?」
メア「ミャウ(言わないで)」
レピファ「『言わないで』とのことなので言うのは無理です……」
リスタ「え~……?」




