十話:心器の紋章
リスタはレピファの身に起こっていた出来事を聞きながら、冒険者ギルドへと帰っていた。簡単にまとめると、レピファはEランク冒険者らしく、弱い魔獣を2体ほど討伐する依頼を受けていたとのこと。しかし、その弱い魔獣を見つける前にワーウルフという狼の魔獣に見つかり、苦戦を強いられていたとのことだった。
ワーウルフの厄介なところは集団で行動するというところだ。そのせいで、一人では対処しきれなかったのだろうと、リスタは考える。
「ほんとに危なかったんですよ……リスタさんが来てくれなかったら今頃は……うぅ……」
そう言いながらレピファは身震いをした。
「それにしてもリスタさんの光の槍と影の鎌。すごかったですね!私、火属性しか適性がないから……2属性扱える人には憧れがあるんですよ……」
「あぁ、いや、あれは2属性じゃなくて、心器なんですよ」
「え?」
「私、2つ心器を持ってるんです」
リスタがそう言うと、レピファはその場で固まってしまう。
「あれ?レピファさ~ん?」
リスタがレピファに呼びかけるが全くうごかない。目の前で手を振ってもまったく反応がなく、仕方なくリスタはレピファの肩を揺らす。
「……はっ!ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって……そ、それにしても心器を2つ持ってるって…すごいじゃないですか!」
「そう、らしいですね。私はまだあまり実感はないのですが……」
記憶を失った状態で目を覚まして、外の日を初めて浴びてから約2日ほど。知識は失っていないとはいえ、心器のことをほとんど知らず目を覚ましたので、心器を2つ持つことのすごさはあまり実感できていない。ただ、改めてレピファの反応を見るに、本当に稀なことなのだと改めて思い知らされる。と、そんなことをリスタが考えていると、さっきまで明るかったレピファの顔が、どんどん暗くなっていく。
「ど、どうしましたか?顔色がよくないですけれど……どこか体調が悪いとか?あっ!もしかして怪我を……」
「あ、いや、違うんです……今回の依頼まだできてないなぁと思いまして……今月の稼ぎに計画に不備が……」
レピファはそう言いながら何やらメモ帳を取り出した。どうやらそこに月ごとの計画を記しているようだった。
「……あっ、レピファさん」
「は、はい?」
「もしよかったら私の依頼の賞金。あなたに譲ります」
「いやいや、大丈夫です!今回は私の運が悪かっただけですので……」
「でも……」
「大丈夫です。依頼失敗くらい、普通にありますから。ですから大丈夫です!」
「そう、ですか……」
「あっ、でも……一つ我儘を言わせてもらっていいですか?」
レピファはリスタの目をまっすぐと見る。が、それは恥ずかしかったのか、すぐに目線をそらし、恥ずかしそうに言った。
「次、一緒に依頼受けませんか?」
「……ふふっ」
「んなっ!?なんで笑って……」
「い、いや、あまりにも必死そうに言うものですから。かわいらしくて」
あまりにも必死そうなレピファをみて、リスタは笑ってしまう。それがさらに恥ずかしかったのか、レピファはかぶっていた魔女帽子をさらに深くかぶった。
「もちろんいいですよ。次からよろしくお願いしますね?」
「リスタさんは意地悪です。意地悪な人とはやっぱり組みません!」
「あ~ごめんなさい!!謝りますから!」
その後、なんとかレピファに許しをもらったリスタは、明後日に一緒に依頼を受けることとなった。
* * *
依頼の賞金をもらってからリスタはレピファと別れ、ジェーンの屋敷へと戻ってきていた。時間は夕方。昨日テューネが言っていた、ジェーンの実験に協力する時間の予想がこの時間帯だ。
「ロマ、メア。ただいま戻りました」
リスタがそう言いながら自分が借りている部屋に入る。そこには、メアは窓際で日光を浴びながら眠っているが、ロマはいなかった。散歩でも行っているのだろうかと思い、リスタはメアを連れていったん外に出ようとすると……
「失礼します」
そう言って入ってきたのはテューネだった。首にはロマが巻き付いている。
「ロマ!テューネさんが見ててくれたんですね、ありがとうございます!」
「いえ、お礼をされるほどではございません。それに、わたくしが率先してみていたわけではなく、ロマ様がわたくしについてくるものですから……」
「いやいや、それでもですよ。ロマもメアも私以外が触ろうとしたら威嚇するんですよ。ジェーンさんもロマに噛まれてメアにはひっかかれてましたから……」
「そう、ですか……ですからジェーン様の手に傷があったのですね」
「あ、その件はすみません……」
「いいえ、あの方は治そうと思えばすぐに治せます。残していた理由はおそらく、ロマ様の毒の分析かと……」
そんなことを話していると、ロマがリスタのほうへと顔を伸ばしてくる。それを見てリスタはテューネの首に巻き付いているロマをほどき、自分の首に巻き付けた。
「それで、テューネさんがここに来た理由は……」
「あぁ、そうでした。ジェーン様がお呼びです。ロマ様とメア様を連れてついてきてください」
そうしてテューネは先導してジェーンがいる部屋へと向かう。
「こちらです…ジェーン様、リスタ様、ロマ様、メア様をお連れしました」
とある部屋の扉の前に着いたテューネはそう言って、扉をノックした。中から「入っていいよ~」という声が聞こえ、テューネは扉を開けてリスタを中に入れた。自分はどうやら中に入ってこないらしい。
中は貴族の屋敷らしい豪華な装飾は全くなく、シンプルな床や壁、そして壁には一瞬そう言う模様かと思えるほどの量の研究資料の紙であろうものが留められていた。
「ごめんね~急に呼び出しちゃって。さ、そこ座って」
「あ、はい……」
「よし、それじゃあ昨日言った通り、ちょっと実験に協力してもらうから」
そう言ってジェーンはリスタにお皿の上に乗った生肉を2つ渡した。
「それ食べてロマちゃんとメアちゃんには待ってもらってて」
「あ、はい。ロマ、メア。こっちでこれ食べてて」
リスタがそう言うと、2匹は命令通りにもらった餌を食べ始める。その間にジェーンはリスタの体を調べ始めた。
「……今触って確信したけど、リスタちゃんってやっぱり筋肉少ない?」
「そうですね……筋肉が少ないというべきなのか……」
「ん?それってどういうこと?」
「今は筋肉も少ないですし、心肺機能も低いので走ればすぐ疲れますが…心器を使えばそれが嘘のようになくなるんですよね……」
「ふ~ん、なるほどね……ちょっとメモさせてもらうね………よし、次。体のどこかに紋章はある?」
「そんなものは自分では確認できませんね……背中とかは……」
「ちょっと見てもいい?」
「はい、どうぞ」
そうしてリスタはジェーンに背中を見せる。すると、小さく「あった」というジェーンの声が聞こえた。
「もう服を降ろしてもいいよ。あ、これ、君の背中の紋章ね」
そう言ってジェーンが見せてきたメモ帳には、蛇の体に槍を突き刺している絵と、黒猫の首に鎌をかけられている絵が描かれていた。
「うん。君は紋章がある人だったみたいだね」
「ある人?ない人もいるんですか?」
「うん。一応この帝国に正式に登録されている心器を持つ者は5人。ちなみにリスタちゃんはこの中に入ってないよ。まぁ、話を戻すけど、5人中2人は紋章がある。だけど3人はない。これに何の共通点があるのかはまだわからないから、今ちょっとでも手がかりを探すために調べさせてもらったって感じかな。それにしても……うん、君は槍と鎌を使うんだね」
「!」
「あははっ、なんとなく君もわかるでしょ?紋章として浮き上がっている道具が心器の形だってこと」
「まぁ、そうですよね」
「うん……それにしても、道具以外に動物もいるね……やっぱり心獣がいると紋章にも心獣が描かれるんだ」
そうしてジェーンはぶつぶつと何かを言い、壁に留めてあった資料の中の一つに目を通し始めた。
「う~ん……もうちょっと調べてみないと……今日はもういいよ。ロマちゃんとメアちゃんも食べ終わったらしいし。協力ありがとね」
リスタはそう言われ、2匹を連れて部屋を出る。部屋の前にはテューネが待機しており、リスタたちを食堂に連れていく。ただ、ロマとメアは食べ物をもらったので、夕食を減らしてもらうようにリスタはテューネに言ったのだった。




