零話:シロかクロか
暇な時間にテキトーに書いていきます。文章が拙いところもあると思いますが、温かい目で見てください。
「罪人————を死刑とする!」
それが私、————に課せられた刑でした。
数日の拘束の後、私はとある崖へと連れていかれ、そのふちに立たされました。その崖の下を覗いてみると、その穴に降り注ぐ光を遮るものは何もないというのに、底が見えない暗闇が広がっていました。その不可思議でゾッとするような事象に、思わず私はそれにたじろぎ、二歩後ろに下がってしまいました。
数か月前までは早く死んでしまいたいと思えるほどの生活を過ごしていたのに、いざ死を目の前にすると、「死にたくない」と思ってしまうのです。どうやって本当に「死にたい」と思えるのでしょうか。その方法があるとするならば、今すぐに教えてほしい。と、そんなことを考えていた時でした。
「やれ」
その一言が、私の耳に届きました。その瞬間、私の背中に衝撃が走ります。けっして強くはない衝撃。しかし、私がよろめいてしまうほどの衝撃。
それは、私の重心を前に押し出すのには十分で……
「ぁ」
私の体がその穴に吸い込まれるのには十分で……
私の体から血の気が引くのには十分で……
私に走馬灯を見せるのには十分で……
そして、私をあきらめさせるのには十分でした。
数分?いや、数十秒?それとも数秒?わかりません。それほど私には長い時間に思えました。空中で何度私の頭がどうやれば助かるか考えたのかもわかりません。そんな長いと感じた空中での時間は突然終わりました。
「あ……」
体に激痛が走りました。運がよかったから、いや、"悪かったから"、私は体中の骨が折れただけで、即死しませんでした。どうして生きているのか、すぐに死なないのか。死ねないのなら、私の頭は生きるための方法を探してしまう。だからすぐに死にたかった。
(本当に、嫌な人生)
暗い暗いその場所で、おそらく今ここで一番明るい私の金髪には、べったりと私の血がついているような気がしました。もう、感覚などほとんど機能はしていないというのに。
—生きたい
(やめて)
あぁ、心が叫んでいます。頭は拒んでも、一番正直な心が叫んでいるのです。どれだけ私の頭が心の口をふさいでも、縫い付けても、それを取り払ってまた叫び始めるのです。頭が嫌だと言ってもやめてくれないのです。
—生きた……い
(あぁ、よかった)
体がぼろぼろなせいで、心の叫びはどんどん弱くなっています。やっと諦められたんです。これ以上、もう聞きたくない言葉を聞かなくて済む。よかった。本当に良かった。もう、意識も遠くなってきました。ようやく逝けるのですね。
〈人の子…か?〉
その声で私の意識はなぜか引き戻されました。そのせいで、再び心の声が聞こえてしまいます。
〈生きてこの場所に落ちて…いや、堕ちてくるとは……ごほっ、ごほっ。運が良い〉
(だ…れ?)
〈おぬし、生きたいか?〉
—生きたい
(生き、たくない)
〈そうか……なんとも天邪鬼じゃの。ごほっ……〉
(もう、嫌だ)
〈心は大事じゃ。よく耳を傾けよ〉
誰かが話しかけてきた時から、いろいろと聞きたいことが頭を駆け巡りました。しかし、その言葉を聞いて、疑問のほとんどを押しのけて頭に浮かんできた言葉は……
(やっぱり……生きたい……死ぬのは怖い。幸せに生きたい……)
心だけじゃなく、頭も生きたいと言いました。それから、誰かはごほっと咳をしてから言いました。
〈ちょうどいい。ワシはじき死ぬ。が、最後におぬしを助けてやる〉
(助けて…くれる?)
〈しかし、条件と代償がある〉
(条…件……代、償?)
〈条件は、どのような苦痛を受けようと、どのような困難が立ちはだかろうと、不幸を受け入れよ。しかし、死んではならぬ。天寿を全うせよ。そして代償は、おぬしの記憶だ〉
(どう、いう……)
〈あまり説明している暇はない。ごほっ。ワシの時間も少ない。ごほっごほっ!!おぬしが意識を保っておるのも、ワシのおかげなのだからな。ワシが死ねばおぬしも、ごほっ、死ぬ〉
そう言って誰かは何かをべしゃりと地面に吐き捨てました。ほんの少し鉄臭いにおいが、私の鼻孔を刺激します。
〈おぬしの今までの知人、友人、想い人、肉親、それらの姿名前。それから、すべての思い出までもがすべて消える。言葉などの知識は残るがな。ごほっごほっ、ごほっ!〉
(それが、消えるだけで……私は……生きれるのですか?)
〈そうじゃな〉
(だったら、答えは一つ…です)
〈なるほど。ごほっ…それでは……〉
その時、キラリと何かが光りました。感覚がほとんど残っていない今の体に染み渡る暖かい光。
〈火は適度な距離を保てば温かいが、触れれば人体には害をなすぞ〉
誰かがそう言ったとき、温かい光が私に触れました。
「え゛あ゛っ、ぐっ…!!」
その光は熱く、私を体内から切り刻むかのような激痛を私にもたらしてきました。こんな苦痛を受けるのならば、今すぐにでも死んだ方がましなのではないかとも思いました。そんな私に、誰かはおそらく、最後になるであろう言葉をかけてきました。それが最後だと言っていないのにもかかわらず、なぜか、私が勝手にそう思ってしまったのです。
〈おぬしがシロかクロか。ワシは知っておる。よく、頑張ったな〉
一瞬時間が止まった気がしました。それからどうしてか涙があふれてしまいました。「頑張ったな」なんて、いつぶりに言われたでしょうか?こんなに温かい言葉でしたでしょうか?
「ありがとう、ございます……」
それから、私の意識はこの暗い場所よりも暗い場所に落ちていきました。




