お姉ちゃんがプリンを食べた。許すまじ
「お姉ちゃん、私のプリン食べたでしょ」
私が楽しみにしていたプリンが消えていた。
冷蔵庫の奥底に隠した上、私の名前まで蓋にマジックペンで書いていたにも関わらず、だ。
「いやあ、あれは事故なんだよね」
苦し紛れな言い訳も飽き飽き、そのプリンとの謎事故は今日で三回目。
レッドカードだよ。
「事故るも何も、一番奥に押し込んで置いたんだから、間違えて食べちゃったわけないでしょ」
「プリンがまさか逆走してくるとは……保険に入っておいて正解だったよ」
「うわっ、前からプリンが!! じゃないんだよ! 私はプリンの保険にでも入りたいよ!」
私が逆走してお姉ちゃんに頭突きでもしてやろうか?
当たり屋してプリン請求してやろうか?
お姉ちゃんは舌を出して、てへっとして言う。
「だってプリンが寂しいって言うから」
反省の欠片もないこの態度、天国にいるプリン達はさぞお怒りだろう。
「寂しいからってお姉ちゃんの胃の中に自ら消えて逝きたいとでも?」
「ふふっお姉ちゃんの胃の中にドロンっとね」
「ドロンと言うか、ドロドロだよ! 胃の中でドロッドロに溶けちゃってるよ!」
お姉ちゃんは指パッチンして、「これは一本取られたわ」とかウインク混じりに言ってくる。
何が一本だ。
私は「プリンが取られたわ」なんだけど。
ソファに背を預けていたお姉ちゃんは、ソファの肘掛けにもたれこみ。
「プリンも温泉気分で極楽極楽~ってしてたに違いない」
カポーンっとセルフで付け加えて言う。
「極楽じゃなくて、それはもう地獄だよ」
お姉ちゃんはプリンを盗った罪で、地獄の釜で極楽極楽~すると良いよ。
「はあ、もういいよ。お姉ちゃんが食べたプリンは怒っても戻って来ないし、私は昨日買ってきたアイスでも食べるから」
「ふふっプンプンプリプリ怒っても仕方ないよね。プリンだけに。ふふっ……」
冷凍庫に向かう私の後ろでおじさんが何か言ってる。
プリンプリン怒っているのは誰のせいだと思っているんだ。
私が買ってきたアイスはハーゲンのダッツ、ラムレーズン味だ。
ラムレーズンが2020年に限定から定番になってから、毎週日曜日に食べているのだ。
これで明日から学校の授業を頑張れるってもんよ!
冷凍庫の奥底にしまって置いたのはプリン同様。
名前ももちろん記入済みなので安心安心……あれ、冷凍庫の中がブロックアイストレーしか無いんだけど。
お姉ちゃんの方を振り向いた時、ドアを開けてリビングから立ち去ろうとする後ろ姿が。
「てらああああァァ!!!」
「おわッ!?」
私は野球のスライディングのようにしてお姉ちゃんの足に蹴りをお見舞いした。
倒れ込んだお姉ちゃんはむくっと起き上がって。
「知ってた? プリンとラムレーズンのアイスって意外に合うんだよ? 私、びっくりしちゃった」
人差し指をピンと立てて、今日学んだであろう新たな豆知識を披露した。
「知らないよ! 私もこんなお姉ちゃんにびっくり仰天だよ!」
「じゃあじゃあ、ウニに醤油をかけるとプリンになるって知ってた?」
「それはプリンに醤油をかけるとウニになるの間違いだよ! ウニに醤油をかけても、もはやただのウニだよ!!!」
この天然アマがあ!
お姉ちゃんはなんだ、寿司屋でウニが出てきても醤油をかけずに食べるの?
プリン寿司でも食べてたって言うの?
そっかあ~っと分かったのか分かってないのか曖昧な返事をしたお姉ちゃん。
ふーんとひと置きしてから私に問いかける。
「アイスに醤油かけたらどうなっちゃうんだろうね~」
「知らないよ」
バニラアイスはキャラメルっぽくなるって聞いた事あるけど、ラズベリーの場合は知らないし、アイス泥棒にアイス新豆知識を渡したくもないから知らんぷりだ。
「じゃ買ってきたアイスで試してみてみてっ」
「もうお姉ちゃんの胃の中にドロンしたよ!」
「そっか、私が今から醤油を飲めば胃の中でブレンドされて、何味になるか分かるかも!」
「勝手に飲めやい!」
私はガニ股になって足を踏み鳴らし、自室で宿題を終わらせる為リビングを出ようとする。
醤油アイス~と口ずさむお姉ちゃん。
流石にド天然でも醤油を飲み物のようにして飲んだりしないよね?
チラリと横目で確認した時、ボトルを両手でつかみ、口を上に向けてあーんと飲もうとしている姉の姿が。
「てらああああァァ!!!」
「おわッ!?」
二度目のスライディングをかました私は、空中浮遊するボトルを素早くキャッチし難を逃れる。
「何考えてるのお姉ちゃん! こんなの自殺行為だよ!」
床に仰向けで伸びているお姉ちゃんは、寝返りを打った後むくっと起き上がり、顔を膨らまして言う。
「流石の私もビールの一気飲みみたいなことはしないよ~。ほんのちょっぽりだよ~」
ちょっぽり言うなし。
どこかのえせ方言やめろし。
あんな飲み方普通しないし、なんならごぽって多めに出ちゃうかもしれないし。
ほんと、ほんとに……
「心配かけんなし……ぅっ」
「え!? ちょ、泣かないで! あ、あわわわ」
天然あわわなお姉ちゃんがボトルを抱える私の上からさらに抱え込んで来る。
頭を優しく撫でられ、温もりがじんわりと伝わって来た。
「ごめんね、もうプリン食べたりしないから。どうしても食べたい時は事前に食べるよって言うから……」
「違うの……違わないけど……お姉ちゃん死んじゃ嫌だよ……」
「あれくらいで死なないよ~。ほら、この醤油、薄口醤油だし……ってあれ、このボトル醤油じゃなくてポン酢だった! あっはっは~」
「……ふ、もう」
笑いごとじゃないのに、お姉ちゃんのアホ全開な笑みを見てしまうと、不思議と釣られて笑ってしまう。
妹のプリンをうっかり食べちゃうお姉ちゃんを、毎度許してしまうのはどうしてだろうか。
「お姉ちゃん、食べたい時は食べてもいいけどさ、その分後で返してよね」
私をよしよしとするお姉ちゃんは。
「じゃ今返すよ!」
「え?」
てってと鞄に手を突っ込みゴソゴソとお返しを探り始めた。
なんだ、最初っから私のプリンを買った上で食べてたのか。
それはそれで謎だけど、お姉ちゃんのことだからお茶目なイタズラだったのだろう。
ふんすーと自信に満ちたお姉ちゃんは、鞄から取り出したプリンを私に渡してきた。
「はいっ、お返しの仲直りプリンだよ!」
「お、お姉ちゃん……!」
トゥンク……
……
私に渡されたプリンは、黄色くて四角い形をした食べ物。
端にタレが付いているものだった。
「これプリンじゃなくて卵豆腐じゃん! 喧嘩売ってんのか我ええええええ!!!」
「卵豆腐も美味しいから! 醤油かけたらプリンになるかもだから!」
「だからそれはただの卵豆腐だろうが!!!」
テーブルの周りを円を描いて追いかけ回す私は、今日も明日も姉に世話を焼く。
せめて、卵豆腐じゃなくて杏仁豆腐だろうがってしたかったな……デザート食いてえよお姉ちゃん。




