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黄昏のアルタイル  作者: さっく
第一章 王立魔術学園編
7/10

第七話

 実技演習場の喧騒が、まだ耳の奥に残っている。


 ――深紅の火球。


 初級魔術と呼ばれていたそれは、どう見ても違った。

 威力の問題ではない。

 術式の密度、魔力の流れ、その在り方そのものが、段階を逸脱していた。


 (あれを、本人が“初級”だと思っているのが、何より厄介だ)


 レオニスは小さく息を吐く。

 力を持つ者は多い。

 だが、自覚なく持っている者は少ない。

 しかも――測定晶が反応不能を示した存在。

 学園にとっては才能であり、

 王家にとっては、扱いを誤れば火種にもなりうる。

 視線を巡らせると、カイロスが苛立ちを隠さず立っていた。

 力は確かだが、ああいう者ほど「分かりやすい力」しか信じない。


 (……ノア・ヴァリオン・リオナス)


 名を思い出しながら、レオニスは心の中で線を引く。

 まだ、踏み込む段階ではない。

 だが――目を離すべきでもない。

 それだけを胸に留め、彼は歩き出した。

___


 放課後の校舎は、昼間よりも少し静かだった。


 「こっちが図書棟で、あっちは実技演習場につながってる廊下だよ」


 隣を歩きながら、ルナが説明してくれる。

 入学したばかりだというのに、彼女はもう校舎の構造を把握しているらしい。


 「さすがだな」


 「そんなことないよ。ただ歩いてただけ」


 そう言って、柔らかく笑う。

 学園の建物は古く、石造りの壁にはところどころ魔術的な補強跡が見える。

 歴史の重みと、実用性が同居している場所だ。


 「ね……さっきの魔術」


 少しだけ声を落として、ルナが言った。


 「やっぱり、すごかったと思う」


 「そうか?」


 自分では、家でやっていたのと何も変わらないつもりだった。

 ただ、周囲の反応を見る限り、どうやらそうでもないらしい。


 「……ノアくんって、自分のこと分かってないよね」


 冗談めかした言い方だったが、どこか本気が混じっていた。

 その時、廊下の窓ガラスに、自分の姿が映った。

 黒に近い髪、切りそろえただけの前髪。

 表情が乏しいせいか、少し冷たく見える目つき。


 貴族の家に生まれた割には、派手さのない顔立ちだと自分では思っている。

 ただ、こうして見ると――近寄りがたいと思われても不思議ではない。


 「……普通だろ」


 ぽつりとそう言うと、ルナは少し困ったように笑った。


 「うん。ノアくんは、ノアくんだよ」


 その言葉に、胸の奥がわずかに緩む。

 だが同時に、演習場で向けられた視線が脳裏をよぎった。

 好奇、警戒、疑念。

 この学園は、思っていたよりも多くの目がある。

 生徒だけではない。

 教師、貴族、王族――

 それぞれが、それぞれの立場で、生徒を見ている。


 (……少し、目立ちすぎたか)


 そう思いはしたが、不思議と後悔はなかった。

 あれは、ただいつも通り魔術を発動しただけだ。


 「ノアくん?」


 呼ばれて、はっと顔を上げる。


 「ごめん、なんでもない」


 歩きながら、石畳を踏みしめる。

 この場所で、これから何を学び、何を知らされるのか。

 まだ、何も分からない。

 一つだけ、確かなことがあった。

 この学園は――

 自分が思っていたよりも、ずっと広く、ずっと深い。

 でも俺はこの学園でなくともルナと一緒にいられればいいと、そう思った。

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