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黄昏のアルタイル  作者: さっく
第一章 王立魔術学園編
4/10

第四話

 「次、ルナ・ミレーヌ」


 名前を呼ばれると、ルナは小さく息を吸い、前へと進み出た。

 その背中を見送りながら、さっきまで自分に向けられていた視線が、今度は彼女へと移っていくのを感じる。

 ルナは測定晶の前に立った。


 「利き手を添えるのじゃ。魔力は意識しすぎんでよい」


 「はい」


 静かな返事とともに、彼女はそっと手を伸ばした。

 次の瞬間、測定晶がはっきりとした光を放つ。


 まず水色の光。

 澄んだ青が水晶の内部を満たした。


 「水属性……」


 誰かが小さく呟いた。

 それだけでも、周囲がざわつくには十分だった。

 だが、光はそれで終わらなかった。


 水色の奥から、もう一つの光がにじむように現れる。

 淡く、柔らかく――白に近い輝き。


 「……光属性じゃな」


 そうエルドが言うと、教室がざわめいた。


 「二属性……?」


 「しかも光……」


 測定晶は安定したまま、二つの光を同時に宿している。

 さっきの俺の時とは、あまりにも対照的だった。


 「水と光。二属性適正じゃ」


 エルド先生はそう告げ、満足そうにうなずいた。


 「どちらも相性がよい。魔力量も平均以上。十分に優秀じゃな」


 ルナは安堵した顔をし、それから小さく頭を下げた。


 「ありがとうございます」


 席へ戻る途中、彼女はちらりと俺を見て、いつものように柔らかく微笑んだ。


 「……ふん」


 鼻で笑う音が、静まりかけた空気を切り裂く。

 視線を向けると、カイロスが腕を組み、興味なさそうにルナを見ていた。


 「平民にしては出来すぎだ。二属性に、光まで――笑えない話だな」


 その声は、感心と侮蔑が混ざった、いやに不快な響きを帯びていた。

 カイロスの言葉に、教室の空気がわずかに張り詰めた。


 だが――


 「……はぁ」


 短く、静かなため息がひとつ。


 視線を向けると、レオニスが小さく首を振っていた。

 それ以上、何も言わない。ただ、興味を失ったように前を向く。

 それだけで十分だった。

 カイロスは舌打ちこそしなかったものの、それ以上口を開くことはなく、教室の空気も自然と元に戻っていった。


 「次の者、前へ」


 エルド先生の声で、測定は続行される。


 俺はルナが席に戻るのを確認してから、ようやく息を吐いた。



 測定と簡単な説明が終わり、解散の指示が出る。


 廊下へ出ると、さっきまでのざわめきが嘘のように、少し静かだった。


 「レオニス殿下」


 呼び止めると、彼はすぐに振り返った。


 「どうしたのかな?」


 相変わらず穏やかな声。

 さっき壇上で挨拶をしていた時と、何も変わらない。


 「すぐ言えなくて申し訳ございません。魔術適正測定前に教室で庇ってくださってありがとうございました。」


 真正面から言うと、少しだけ照れくさくなる。


 彼は一瞬きょとんとした顔をしてから、ふっと小さく笑った。


 「気にしなくていい。ああいうのは、見過ごすほうがよくないからね。あと互いに敬語はやめよう。俺のことはレオニスと呼んでくれ、俺もノアと呼ばせてくれないか?」


 思いがけない言葉になんと答えたらいいものか一瞬迷ったが、俺はすぐに答えた。

 

 「正直、助かるよ。俺、実は敬語苦手なんだ。もちろん俺のことはノアと呼んでくれ。ほんとにさっきは助かった。ありがとう、レオニス」


 改めて礼を伝えるとレオニスは


 「立場があるからこそ、言うべきこともある」


 淡々とした口調で返した。


 「それに――」


 一拍置いて、続ける。


 「ノアはこの学園の生徒だ。ということは実力があると言うことでもある。侮られていいような実力ではないことはわかるよ」


 それだけ言い残し、今度こそ廊下の向こうへ去っていった。


 ……本当に、不思議な王子だ。



 放課後。

 教室に残っていた生徒たちも次々と帰り、廊下はすっかり静かになっていた。


 「ノアくん、気をつけてね」


 ルナが心配そうに言う。


 「大丈夫だよ。ただの再測定だろ」


 そう答えたものの、胸の奥に小さな違和感が残っている。

 測定晶が揺らいだ瞬間。

 色が混ざり、消えたあの感覚。


 あれは、ただの機械の不調だったのか――。


 「じゃあ、行ってくる」


 ルナに手を振り、俺は職員棟へ向かった。

 古い石造りの廊下を進み、突き当たりの扉の前で立ち止まる。

 ノックをしようとした、その瞬間。


 「……入っておるぞ」


 中から、すでに気づいていたかのような声がした。

 俺は一度、深呼吸をしてから、扉を開けた。

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