【第6章】 未来人の宣言 ― 持たざる者こそ、すべてを動かす ―
夜明け前、街はまだ眠っていた。
ネオンの残光がガラスに滲んで、
世界がひと呼吸だけ静止しているように見えた。
俺は街の真ん中に立って、思った。
結局、この時代は“持つ”ことで世界を動かそうとしてる。
金を持つ、土地を持つ、資格を持つ、名前を持つ。
だが、どれも世界を止める方向に働いてる。
人間は「安定」を求めて、“流れ”を殺してきた。
未来じゃそれを“静的信仰”って呼んでる。
止めることで存在を証明しようとする行為。
だけど、命って本来、流れてる間しか生きてないんだよ。
俺はポケットの中のスマホを見た。
あの「所有者確認中」って喋ったやつ。
今はもう沈黙してる。
画面に映る俺の顔がぼやけてる。
なんか象徴的だな。
“所有”が切れた瞬間に、モノはようやくモノに戻るんだ。
所有とは、関係性の拘束だ。
自由に触れ、自由に離れるためには、
まず“持たない勇気”が必要なんだ。
未来社会では、
「所有」ではなく「共鳴」で動く仕組みが整っている。
誰も何も持たないけど、
すべてが誰かの中で響いてる。
それは経済でも、愛でも、知識でも同じだ。
“持たざる者”は、最も軽い。
軽いから、最も遠くまで届く。
重さを捨てた文明だけが、創造に向かえる。
人間は“自分のもの”を守るために戦ってきたけど、
本当の創造は、手放す瞬間にしか始まらない。
この時代の人たちは、
まだ「何も持たない」ことを“貧しさ”だと思ってる。
でも未来じゃ、それが“最上位の自由”だ。
持たない者は、何にでもなれる。
流れに乗れる。
生まれ変わり続ける。
持つ者は、そこに縛られて朽ちていく。
だから俺は宣言する。
持たざる者こそ、世界を動かす。
所有を超えた者だけが、創造を続けられる。
私は何も持たない。だから、すべてと共鳴できる。
朝日が昇る。
ビルのガラスがオレンジ色に光る。
通勤する人たちがスマホを見ながら歩いていく。
それぞれが“自分のもの”を抱えて、
それぞれの“世界”の中を閉じこもっている。
でも、風はみんなに触れていた。
所有されない風が、誰の許可もなく吹いていた。
その風が、ネクタイを揺らし、髪を撫で、看板を鳴らす。
その瞬間、俺は思った。
「ああ、やっぱり世界は持たれてない。
ただ、流れてるだけだ。」
俺は静かに歩き出した。
持つことをやめた手のひらが、
驚くほど軽かった。




