1 追放された聖女は町を駆ける
基本的に毎日更新!全32話です
喉がひりつく。
石畳を蹴る足は、ひと足ごとにどんどん重く痛みを増していく。それでもここで足を止めれば、きっとすぐに掴まってしまう。
背後に怒声が迫る。
走りにくい人混みを避けて逃げてきたけれど、これならいっそ人混みに紛れた方がよかったかもしれない。人気がなさすぎて、路地裏に駆け込んでもすぐに見つかってしまう。
助けてと呼べる相手はいない。その言葉が──ない。
──どうしてこんなことになったんだろう。
あの扉を出た瞬間、すべてが変わった。
封印の間から一歩足を踏み出した時には、もうきっとすべてをなくしていた。
扉から出てすぐに目にしたリュミリエルの冷えた眼差しが忘れられない。それすらも、すぐに背を向けられた。
導いてくれたはずの魔法師が、私を兵士へと引き渡した。
押し出され、重く無情な音を響かせて閉じられた城門は、二度と開かれることはなかった。
もう必要ない――あの閉ざされた門がそう告げていた。
胃が引き絞るように痛んで、足がもつれる。
強く肩を掴まれて引き倒される。
派手に地面に転がりながら、絶望でいっぱいになる。
──もう、駄目だ。
「ミワっ!」
ふいに響いた名を呼ぶ声に、希望の光が差した気がした。
でも、そんな安堵はすぐに霧散する。
リュミリエルの冷たい眼差しが浮かぶ。
この人も同じかもしれない。きっとまた、裏切られる。そう思うと差し出された手も恐ろしくて、這うように後ずさる。
追ってきた男たちがなぎ倒されていく。この隙に逃げなくてはと思うのに、もう立ち上がることすらできない。
私を庇う背を見つめながら、もう何かを思うことすら煩わしくなる。
ふいに腕を掴まれて振り払う。
けれど──抱き締められた腕の中はたしかに温かかった。
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