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【掌編】ウィドウ=メーカー【読者への挑戦状つき】

本作は、掌編でありながら、始まりから結びまで、隠された要素・暗喩・オマージュを散りばめてあります。

一見、あたりさわりのない物語ですが、「意味がわかると怖い話」的なダーク・ダーティーな仕掛けから、にやりとするものまでさまざま。あなたはどれだけ見抜くことができるでしょうか。受けてたち、発見したものがあれば書き込んでみてください。20個ぐらいあります。

すべて見つけ出すのは不可能ではないでしょうが、相応の知識と推理力を要する難関にしあがっていると請けあいます。全部わかったら、けっこうな好事家。

 王都の片隅。

 ノ=ウフという名の若い女性がいた。


 彼女は結婚し子を宿すも、夫とは、早すぎる永久の別離を迎える。初めての子、男児・カインの生まれるわずか13日前のことだった。

 女手ひとつで育てるも、彼が13歳の誕生日を迎えた夜、これも亡くすこととなる。父親以上の夭逝であった。


 ふたたび、ノ=ウフは身ごもる。第2子・アベルも、カインと同じく男子だった。そして亡き兄と同様に、13歳になるとともに世を去った。

 3人目のセト、4人目のエノス。彼らもまた男児であり、やはり同じことが繰り返された。つまり、13歳の誕生日までは生き、その日が命日となるのだった。


 彼らには幼少時、寝かしつけで母から聞かされる物語があった。

 天帝の怒りにふれて天界から地上へ追放された少女の話。


 ――少女は天帝から、無理難題の試練が与えられた。『地上の王子に見初められ王女となる』それが天上の故郷へ戻る条件だった。天界では天帝の眷属(けんぞく)であったが、地上へ墜とされた少女は孤児院で暮らす身寄りのない出自。王子に会うことすら夢物語であり、結婚など夢のまた夢だった――


 ノ=ウフが授かる子、5人目のオイディプス以降、アブラム・アムノン・キニュラス・エンキ・ナホル・マシュヤグ・イザナギにいたるまで例外なく、若すぎる最期が13歳の誕生日に訪れた。

 亡くしては授かり、授かっては亡くす。十指にあまる兄たちがことごとく、成人することなく世を辞していったのちのこと。

 末弟・ロトが、この世に生を受ける。

 彼もまた、幼い日々にノ=ウフからあの物語を聞かされ育ってゆく。



 *



 やがてロトが13歳の誕生日をむかえたその日のこと。

 母子の住まう王都に、挙兵した魔王の軍勢が現れる。


 王国軍が奮戦するも、強大な魔族の前に人の子はあまりに非力だった。

 ひとり、またひとりと兵は倒れ、城下は炎に包まれ、老いも若きも、貴きも卑しきも、男も女も、善良も非道もなし。そこかしこで悲鳴と絶叫、異形の奇声が響きわたり、もはや、都の陥落は時間の問題と人々はうなだれた。

 王城にて、神に奇跡を祈る王とその一族、貴族たちに、だが、思いが天通したかの一報が届く。「果敢に魔物と交戦する者あり!」


 ひとりの若者が、単身、次々と魔王の手下を(ほふ)っているのだと。若いというにはあまりにあどけないほどの、紅顔の少年。


 永遠とも思える長きにわたる戦い。日が、おおいにかたむく。

 天蓋に引かれはじめたカーテンに星がまたたくころ。

 倒すべき敵がただの一体となる。

 魔王との対峙。


 王以下、国じゅうが固唾を飲んで見守るなか、今や、万民の希望を背負う少年は決戦にのぞむ。

 満天を星々が飾る、月のない闇夜。

 星あかりのもと、繰りひろげられる壮絶の戦い。

 それは人と魔族が決する争い。

 少年(おとこ)魔統(おとこ)の闘い。


 ひとつの流星が天空を横ぎると同時に、決着はつく。

 若き勇者・ロトが誕生した瞬間だった。


 手負いの魔王は告げる。「今宵のところは退()いてやろう。だが、おまえたちの堕落が続くならば、わしはふたたび姿を現す。そのことをゆめゆめ忘れるでないぞ、人間どもよ」

 そのように警告し、魔族の首魁(しゅかい)は魔界へと去っていった。


 万雷の歓声に王都が沸く。若き、幼き勇者は満身創痍をもみくちゃにされ、祝宴はたいへん夜ふけまで続いた。

 ロトの齢は、13歳と0カ月、1日になっていた。



 *



 夜が明け、王宮の使者がロトを訪ねた。「国王陛下が、勇者の謁見を望んでおられます」


 求めに応じ登城した彼に、王は宣言した。「余は退位いたす。余に代わって国を治めてほしい」


 突然のことに、集められた王族、貴族、家臣はひどく驚き、異を唱えた。王はゆるゆると説く。


 こたびの危難は、国の退廃に天の怒りがくだったもの。それは王たる自身の不徳。救国の勇者に譲位することが、最後の仕事にふさわしいと判断したと。


 これには宮廷にあるすべての者が反対した。ほかでもない勇者・ロト自身の固辞もあった。


 自分は平民の子。王位を継承できるような歳でもなければ、ろくに学問を修めてもいない。魔王を退けただけで、およそ玉座につける身のほどではないと。


 王はその慎ましい物腰にますます確信する。王国の未来を預けるにふさわしい者は、この年少の勇者をおいてほかにないと。


 譲る、いや受けかねるの押し問答ののち、両者は、折れねばならないとたがいに観念した。


 誓約が交わされる。

 勇者には、王の名において第1王子の座が与えられる。

 新王子は、成人するその日に、王に必要じゅうぶんな知見・振る舞い・外交力などをあまさず身につけるべく励む。

 国王に即位後は、二度と魔王の侵攻をまねかぬよう、自身の良心と采配によって、国のためによく働く。

 そのように取り決めがなされ、王子や王女、大臣、有力貴族の反意を押して、王都は復興にむけ歩みだした。


 ロトはこの重大な知らせを、ただひとりの家族に伝えるため、全力で家路を駆けた。跳ね飛ばす勢いであけ放った扉の向こうは、しかし、もぬけの殻だった。

 母・ノ=ウフの影は家のどこにもなかった。



 *



 歳月は、驚くほど早く過ぎ去る。


 戴冠した若き新国王。18歳となった彼は、もうひとつの沙汰を、国じゅうに布告する。


「国民の皆さん。私は今日、この日、生涯の伴侶を得ます。私たちは手をたずさえ、王国へ身を捧げることを誓うとともに、これを報告いたします」


 新王の隣に立つ、うら若いが王より年上で、無名の女性。

 彼女を前触れなく紹介した新しい君主に、誰もが驚き、しかしながらすべてにむけて祝福を送った。

 そう、それは寿(ことほが)れるべきだったのだ。



 ――春は農場、種はまかれる


 ――天下りし天人は天へと帰る


 ――喜ばしき、自然の摂理、営み



 こうして(ねや)はまた、(から)となった。

さて、いくつ気がついたでしょうか?

ちなみに、ChatGPT(GPT 4o/2025年7月時点)にトライしてもらったところ、私本人もそこまで考えていなかった深い洞察を示すいっぽう、比較的、わかりやすいポイントをいくつもスルーするなど、人間とAIのギャップを感じさせられました。(ちなみに、エブリスタではこっそり限定公開してたりします)

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