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エッセイ・短編 命・言葉・愛・感謝・希望等をテーマにした作品です

愛が宿るところ

作者: ぽんこつ


それが「人」である必要はないのだ。

むしろ、人に限らないときのほうが、

愛は透明で、深くて、汚れていないことがある。


職人の手から生まれる器には、目には見えない時間がこもっている。

それを丁寧に磨き、割れぬように包むその仕草に、

愛は息をしている。

器そのものはいうにおよばず、作ること・手渡すこと・受け取ること。

その一連の静かな循環に、愛がいる。


犬や猫、名も知らぬ野鳥に声をかける。

自分ではない命の小さな震えを感じるとき、

言葉はいらない。

そこにただ「見ている」「気づいている」だけで、

もう愛は成立している。


花に水をやること。

風に揺れる草をじっと見つめること。

誰にも見られない場所で、花は咲く。

だれかのためじゃなく、ただ在る。

その健気さに胸があつくなるのは、

心がそこに向いているからだ。


絵画の前で言葉を失う瞬間。

耳元をかすめる旋律に、ふと涙がにじむ瞬間。

自分の奥に触れられたようで、怖くて美しい。

それが芸術であり音楽であり、

それを受け取るという行為そのものに、

たしかに愛がある。


自己愛とは、甘えではない。

静かな承認だ。

「それでも、おまえを見捨てない」と

自分に向けて言える力。

優しさとは、たいてい自分に向けるのがいちばん難しい。

だからこそ、そこに芽吹いた愛は根が深い。


親が子を想うとき、

それが必ずしも言葉になるとは限らない。

手を握る、弁当を作る、遠くから見守る、

ときには叱る。

だれかの命が別の命を守ろうとするとき、

本能にも似た愛が、静かに流れている。


恋は、もっと複雑だ。

愛と欲と、執着と赦しがまざっている。

けれど、誰かひとりのために心を燃やせた夜があったなら、

その時間が嘘だったことはない。

愛は、たとえ形が変わっても、

かつて「在ったこと」自体が永遠なのだ。


ふと、ぬいぐるみを撫でる手つきに。

使い込まれたペンに。

古びた手紙を見つめる瞳に。

過去を慈しむ心にも。


愛は、いたるところにいる。

ただひとつの共通点は、そこに「心が向いている」こと。


どんなに時代が変わっても、

どんなに正しさが塗り替えられても、

「心が向いている」という事実だけは、

どんな理屈よりも先にある。


それは信仰にも似ている。

答えがないまま、それでも手を合わせるように、

わたしたちは日々、誰かや何かに心を向けている。


それだけで、

十分に愛と呼べるのだと思う。

拙文、読んで下さりありがとうございます。

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