第45章 乱局(二)
啓明人塔三層最上部、箫元聖の執務室にて。電光が四散する中、雷光烈の姿が怒気に満ちている。雷蟒と呼ばれる雷光烈は、口を大きく開き、一発の紫色の電球を箫元聖に向けて放った。一方、美しき雨蝶は一瞬、蝶の羽ばたきのように動くと、笛の音のような高らかな声を響かせ、光の盾を展開してその電光を受け止めた。
「光烈監院、箫元聖殿もまた、啓明長老院と院長のお達しでこの開学試験を主管しているに過ぎません。私たちはただ『協査』を命じられているだけで、拘束する権限はありません。試験の内容を決めるのは箫元聖殿の職責です。今すべきは疑問を呈し、記録を残すことだけです」
雨蝶の柔らかな声が、電光の中にも響いた。
雷光烈は息を詰めてから吐き捨てるように言った。
「雷監院とやら、私が小人得志であったとしても、お前ほどに鶏毛を誇示することはあるまい!」
箫元聖は机に向かったまま頭を上げず、冷静かつ苛烈な声で返答した。
「雷監院、私の立場は『普通人』のままです。それでも、この乱局では私もまた、やるべきことを成すだけです」
怒りに任せた雷蟒は、猛然と電光となって消え去った。
「元聖、何を敵意をむき出しにしておられるのです?」
雨蝶の声だけが残り、部屋は再び静寂に包まれた。
「無瑕姉、あの男――雷光烈は、飓風奈落災で城防光幕が破れた際、最大の容疑者の一人でした。私と彼は因縁浅からぬ相手なのです。いわば敵非友の仲、些細なことではありません」
箫元聖はなおも机上の計算を続けた。
「元聖、あなたは未だ雷洛と冷凝霜――そして元辰とのことを忘れられないのでしょう? 飓風奈落災により元辰は倒れ、雷洛と凝霜も学院を去りました。しかしあなたは残り、あの災禍の真相を追い続ける。ならばそのはず……今、証拠もなく雷光烈や三年生の生員たちを動かし続けるのは無謀です。彼ら三年生はすでに教員資格を持つ準教員です。あなたがただの研究員として無根拠に手を出せる相手ではありません。雷監院ですら動かせぬ相手なのですから、十分にご注意を」
雨蝶の諭すような声とともに、彼女はほのかな雨霧と化して部屋を去っていった。
箫元聖はただ黙々と計算を続ける。その眼差しは、啓明地塔二層奥深くに潜む「地渊禁忌の物」を思い浮かべていた。己が唯一の切り札――「普通人」でありながら禁断の秘宝を知る者としての最終奥義を。
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雨玥は暗室迷宮をひたすら進んでいた。すでに十数回に及ぶ戦闘を強いられ、野獣型の獰猛な攻撃者や、昆虫型の幻惑者が現れては共生現象を見せた。もし彼女の秘技「水幕年華」がA級防御力を持たなければ、今頃は命を落としていたことだろう。
さらに雨玥は三体の人骨を目撃した。そのうち二体は長年放置されたものだが、もう一体は同じ三年生の生員と思われる「沐姓」の者の遺骸だった。彼は既に相当な年月を経ており、骨格は異様な青色に染まっていた。激烈な毒に侵された形跡が明確である。
――監考官までもが命を落とす事態。これは単なる試験ではない。まるで監考官たち自身が受験者として死と向き合わせられるかのような、凄惨な様相を呈している。もし初めからこれほどの危険があると知っていれば、病を理由に同行を辞退した友人、夜心蘭の出番は無かっただろう。彼女は拙い幻術しか持たないが、あの迷宮ならば命を失っていたはずだ。
――ここは決して平穏なる試験場などではない。そう悟った雨玥は、さらに深い闇の中を進んだ。