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第43章 御紫芳



啓明地塔、万象水晶橋――聖杯・五の水晶の門前。


聖杯・五の図柄

灰色の空の下、一人の黒いマントの人物が佇む。深い悲しみが瞳に宿り、抑えきれぬ心の痛みを背負っているようだ。彼は俯き、地面に転がった三つの金色の聖杯を見つめている。杯からは色とりどりの酒が零れ落ち、大地を濡らしている。その光景に彼は無力感と喪失感を抱き、なぜこのような結末になったのかも、理解できずにいる。人物の前には一本の小川が流れ、その上には遠くの家へと続く一つの橋が架かっている。後方にはまだ二つ、地に立ったままの金色の聖杯が見える。


---


庄莫言、樊清雪、高天の三人は、例によって採取器で倒れていない聖杯から透明な液体を採取し、凍結用の氷球を手にナイトメアホースへと向かった。しかし手持ちの氷球は高天を含め9個だけ。次に彼らとナイトメアホースが再戦する際、凍結用の氷球は足りなくなる。


三人が水晶の門を越えた瞬間、しばらくして、凍結されていた三十頭のナイトメアホースたちは漆黒の「ナイトメアファイア」を纏い自ら氷を溶かすと、聖杯・五の門前で行き場を失い、門を前に行ったり来たりするだけで一頭も越えてこなかった。


「莫言、どうして向こうへ来ないんだ?」

樊清雪が驚いて問う。


「幻魔獣は一人につき十頭ずつ――要は我々三人につき三十頭で割り振られている。聖杯・四の区域を越えた時、新たな幻魔獣は発生せず、聖杯・四には他の三人組はいなかった。だから聖杯・五で幻魔獣が越えてこないということは、他にも三人組がいて、この区域で既に幻魔獣が発生しているということだろう」

庄莫言が考察を述べた。


「じゃあ、先へ進もう。すぐに分かるはずだ」

高天が言うと、三人は再び駆け出した。


---


勾陳城の御紫芳――彼女は今、いたく苛立っていた。さっき星環のバリア外で戦っていた三十匹の紫色の殺人バチが、突如その数を六十匹にまで増やし、さらに万象水晶橋の橋面から湧き出た新たな三十匹のバチとペアを組み、尾の針で星環バリアの同じ一点を攻撃し始めたのだ。続いて最初の三十匹も同じ組み方を真似し、バリアは臨界点を超えて粉々に砕け散った。


御紫芳のそばにいた二人の護衛の一人は、懐から取り出した土色の結晶を拳で粉砕し、石の壁を一瞬のうちに展開して三人を守った。もう一人は管状の装置を取り外すと底部を叩き、圧倒的な白い閃光を発射した。その光柱は上へ行くほど輝きを増し、やがて巨大な白い柱となった。


六十匹の紫色の殺人バチはその強烈な白光に目を奪われ、混乱して四散しながら尾の針を放った。そのうちの何匹かが護衛に命中し、まもなく《モイライ・パーシー》の伝送で姿を消した。同時に勾陳六星の隊員カードには、


> 「勾陳六星六人隊の隊員一名が淘汰されました。隊員が半数以上淘汰された場合、チーム全体が淘汰となります。」


という知らせが表示された。


---


御紫芳はさらに憂鬱に襲われた。


**――勾陳六星**

一主五従。御紫芳は「六星冠」という、勾陳家に千年続く血脈の結晶法器を携えている。それを用いて仲間五人とともに最強の六芒星陣を組み、攻守問わず力を発揮できる。


六芒星陣は希望星系の特異な天体現象に由来する。母星の天文学者である御朔方明が発見したところによると、この星系の前半六惑星を結ぶと伊達スーリス太陽を中心に六芒星が、後半六惑星を結ぶとリンクス太陽を中心にもう一つ六芒星が描かれる。その神秘的なエネルギーこそが最強の陣法を支えると言われる。


---


今や一人淘汰されたため、御紫芳は予備の「五芒星陣」に切り替えるしかない。残る三人が白い光柱を目印に集まるのを待つ必要がある——そう思った刹那、彼方にまばゆい白光柱が見えた。


「これは光耀晶石の召集光柱だ。あの三人に違いない」

高天は言い、その光柱に視線を向けた。かつて彼が勾陳光耀谷で「光の心」を求めて山奥に潜入した際、御紫芳に襲われた経験を思い起こし、自然に頷いた。


---


「高天、お前と御紫芳はどういう因縁なんだ? まさか彼女が仕掛けてくるのは入浴中を見られたから、なんてことは…?」

庄莫言が走りながら冗談混じりに尋ねると、樊清雪も首を傾げた。


「そんなわけないでしょう…?」

樊清雪が目を丸くすると、高天も困惑の面持ちで苦笑した。


「いや……僕も詳しくは知らないんだ。ただ、あの谷で温泉に浸かっていた彼女を…すごく不運にも見かけただけで……」

高天は言葉を濁しながら肩をすくめた。


「なるほど…でももっと不運だったのは…」

庄莫言が指差す先を、高天も目を見開いて見遣った。そこには、紫の長髪を靡かせ、憤怒の炎を宿した御紫芳の姿があった。


---


御紫芳は磁性を帯びた声で言った。

「私を追い回したのはあなただわね、高天。今回はきっちりケリをつけるから――覚悟しなさい!」


長い紫髪が彼女の怒りを映し、前方の高天を貫くように立ち上がった。



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