第40章 風起つ幻象
万象水晶橋――。
庄莫言と樊清雪、高天の三人は、「聖杯・三」の区域から全速で「聖杯・六」の区域へと向かい、司南たちとの合流を急いでいた。だが「聖杯・三」の区域にも強風が吹き荒れ、水晶橋の橋面を渡るたびに軽やかな響きとともに雷鳴にも似た轟音が巻き起こる。
庄莫言は声帯振動パッチを使って急ぎ連絡した。
「風がどんどん強くなってる! 四方とも滑らかな水晶ばかりで、風を遮るものが何もない。みんなで体をロープで縛り合わないと危険だ!」
すると高天――「六三」隊の万事屋はどこからかナノメタル製の束帯を取り出し、まず自らの身体に巻きつけた。つづいてその帯が風に乗って庄莫言と樊清雪へと伸び、無言で自動的に二人を拘束していく。高天はさらに伝えた。
「これはナノメタル・ストラップだ。動かなくていい。あとで平衡力場を起動するから、風圧は吸収される」
──後に、啓明塔学院の「誰と戦隊を組みたいか」アンケート調査で、高天は常に三人隊の最有力候補に挙げられた。庄莫言さえ二番手に甘んじたほどだ。九人隊に限れば、庄莫言の「快慢九字訣」がぎりぎり高天を上回ったが、高天の万物を調達する才覚は、まるで携行する後方基地そのものと言えた。
平衡力場が起動すると、束帯は確かに強風を相殺し、三人は風を利用して一層の加速を果たした。だがまもなく、高天の冷静な直感が危険を察知した。視界が歪み、一瞬にして庄莫言は司命城・春風巷十番地の朽ちた屋敷――漆黒の暗室へと引き戻されたのだ。
同時に、高天はクリスタルの路面を風を切って歩いていたはずが、気づくと深い闇の隧道――自らの城塞直下の地下通路――へと迷い込んでいた。静寂と寒気だけが漂う通路。
風が乱れ、樊清雪の顔を半ば隠すほど髪を梳き上げた。彼女は眉を顰め、庄莫言と高天――金属束帯に身を任せたまま身動きする二人の異変に気づく。喃語と幻影が渦巻く中、樊清雪は悟った。刃を離さぬかぎり、いかなる幻術も心を乱せぬと。
意を決し、彼女は無念刀を抜き放ち、自らの創案による斬空の太刀を放った。刀身は虚空に波紋を描き、一閃ずつ庄莫言と高天を狙う。
庄莫言は暗室に閉じ込められ、月夜無霜も遠く離れていた。幼い頃、父・庄重にこの暗室に籠められ、二歳まで幽閉された記憶――深淵の小型ブラックホールのような闇――は、彼の心底に深い刻印を残していた。今、無念刀の斬撃がその闇を切り裂き、万象水晶橋のきらめきが暗室を照らす。
一方、高天は地下実験室――父・高進の研究室――に立っていた。室内はまばゆい照明に満ちているが、彼の胸には恐怖と決意が鬩ぎ合う。彼の前には悪魔之銃〈暗の翼〉を弄ぶ高進の影があった。
斬空の一閃が響く。高天は震える左手を伸ばし、暗の翼の銃口――悪魔の口を一刀両断に撃ち抜いた。冷たい月光が隧道を満たし、高天は荒い息をついて瞳を見開いた。
――風起つ幻象の狭間で、三人の運命は再び交錯する。