第33章 復盤(ふくはん)
黒の円舞ホールの一角にて、“六三”小隊の六人が静かに休息をとっていた。つい先ほど“白虎六人衆”との交戦があったばかりだが、前後にして十数分の戦いにもかかわらず、誰もがまるで一昼夜にわたる激戦を終えたかのような疲労感に襲われていた。
樊清雪はひとりうつむいたまま黙しており、司南はその傍らに寄り添い、時おり手首をくるくると回しては、先ほどの弓射で溜まった疲労や痛みをほぐしていた。元艮と元坎の顔色はまだ青白いままだが、それでもなお司南の左右にしっかりと立ち、守りの構えを崩してはいなかった。
高天は両手を空にしていたが、熾天使の銃「光の翼」も、悪魔の銃「闇の翼」も、どこへしまったのかは分からない。六人の中で最も疲労していたのは、やはり庄莫言だった。彼はいまだ、先ほどの短くも激しい戦いの復盤に没頭していた。
――どうして、ただの新学期の試練が、突然こんな命懸けの死闘になってしまったんだ?
啓明塔学院の試験官たちは、こんな事態を放っておくのか?
そのころ、“六三”隊の担当試験官・雨玥もようやく、自分の現在地が“暗宮”であることを把握した。“暗宮”とは、啓明塔の地下一階に広がる迷宮区域のことで、その規模はいまだ誰にも計り知れず、外界とはまったく異なる迷宮生物たちが生息しているという。
たとえば、今まさに雨玥の目の前に現れた生物――それは故郷の母星にいたクモのような姿をしていたが、実際には“植物”であり、死の間際には木針を一斉に射出するという厄介な存在だった。幸い、雨玥の結界術「水幕流年」を貫くことは叶わなかったが、もし破られていたら、彼女ですら無傷では済まなかっただろう。
――こんな場所、本当に十七、八歳の若者たちが探索していい領域なのかしら?
啓明塔・地下一階の黒の円舞ホール。
「ねえ高天お兄ちゃん、その黒と白の二丁の銃、あれはあなたの武器なの?」と誰かが問いかけた。
「いや、あれはまだ“兵器”とは呼べない。ただの製造品だ。もし相応しい相手と適正な価格があれば、売るつもりだ」と高天は冷たく答えた。
実のところ、高天が啓明城に来て啓明塔学院の入学試験に参加したのには、ただ一つの目的があった。
――それは“晶歌自由の門”の試練に挑むこと。
伝説によれば、“晶歌自由の門”は人を「心が本当に望む場所」へと転送する力を持っているという。高天はその門を通して、伝説の「高道の銃」――自らの先祖・高通が持っていたという武器を探し出したいのだった。あの銃こそが、自分に唯一ふさわしい“兵器”なのだ。
一方、庄莫言は胸の特製ポケットをそっと叩いて確認する。中で月夜無霜がまだ眠っているのが分かった。彼はそのまま樊清雪のもとへと歩み寄りながら尋ねた。
「清雪、君の番号小球、ちょっと見せてもらってもいい?」
樊清雪は顔を上げ、血走った目で疲れた様子の庄莫言を見た。なぜか胸がちくりと痛んだ。そして懐から番号小球を取り出して、彼にそっと手渡した。
庄莫言は小球をねじって開けて中を確認する。中には、楕円形の小さな暗金色のプレートが収められていた。中央には、刀と剣が交差した水晶の紋章が埋め込まれていた。彼はそのプレートを手に取り、重さを確かめ、刀剣の模様を指でなぞりながら、しばし黙考した。
「やはり、啓明塔の中枢光脳は一筋縄ではいかないな。これは各生徒の特性に応じて発行されている番号らしい。例えば、清雪は刀剣術に優れ、資質も特異だ。それで“刀剣”が彼女の記号になっているわけだ。高天の実力は、この世代の中でも随一。もし四桁の番号が存在するなら、彼は間違いなくその中でも上位に入る。もし三桁までしかないのなら、彼こそが最強の番号を持つ者だということになる」
「そうなると、他人の番号を奪うことに意味は薄い。だって、それぞれの番号は持ち主の特性に連動しているから、他人のものは基本的に使えないんだ。でも、司南の推測が正しくて、もし全ての番号が“369”以上だとすると、次の試練では“数字ポイント”を消費する形になるんじゃないか?」
「でも、それならどうして黒の円舞ホールでは、各チームに争奪戦をさせるように仕向けたんだろう……?」
「莫言……葉軽雪は、私を狙っていただけかも。私のせいで、みんなを巻き込んじゃったのかもしれない……」
「それは違うと思う。葉軽雪は本気で攻撃してこなかった。むしろ、あの萧木のほうがずっと怪しい。あいつ、命を捨てても莫言お兄ちゃんを殺そうとしてたじゃない」と、司南が口を挟んだ。彼女もまた遠距離攻撃の弓使いであり、庄莫言があのときいかに危険だったかを痛いほど理解していた。
すると高天も歩み寄ってきて、低く言った。
「モビウス環の空間は果てしなく広い。他のチームと再び遭遇する可能性は低いだろう。となると、主要な争奪戦の舞台は、黒の円舞ホールの“空間ノード”に集中していると考えるべきだ。我々はまず、しっかりと体力を回復させなければならない」
こうして、一つの死闘を共にくぐり抜けた“六三”小隊の六人は、知らず知らずのうちに、互いを信頼し、支え合う“真のチーム”へと変わっていった――。