第31章 高天の銃
荘莫言は再び己の弱さを痛感していた。奈落の空間では置物同然だったが、ここでは同年代の受験生の中でも最も戦力外に近い。普段はプライドだけは高い彼にとって、この屈辱はあまりに大きかった。
荘莫言の霊覚は告げている──今襲いかかる一波の攻撃は全て彼を狙ったものだと。他の仲間への矢や一撃は陽動に過ぎず、本命は自らへ放たれる三本の黒木矢に他ならない。しかし彼には防ぐ手立てがなかった。というのも、陣字印と正眼法蔵を維持するだけで精一杯、精神力は封印され、もはや新たな術を繰り出す余力など残っていなかったのだ。
そのとき──
「コホン……」
高天、小隊「六三」で現時点での最強者は、右眼に装着した単眼鏡「オーディンの眼」を起動しつつ静かに呟いた。手元の白と青の金属球を、指先の動きだけで射出する。これは彼の奥義「君子不器指訣」に導かれたものだ。
まず青い球は滑るような弧を描き、一閃──風魂矢となって箫水へと突き刺さった。同時に白い球は箫火へ飛び、液体窒素を内部に含む氷球へ変化して彼女の炎紋刀を瞬時に包み込み、凍結させた。それだけでなく、箫火ごと透明な氷塊へ閉じこめて動きを封じるに至った。
箫水は水鞭を使い、水へと姿を変えて逃れようとしたが、右脇から司南が放った赤い相思箭が眉間を貫き、秘技「定風波」で水変化の術を封じられてしまった。
さらに高天は左手を反転させ、銀白の拳銃を取り出した。銃身には小さな赤薔薇の彫刻が巡り、銃床は跪く熾天使の姿を刻み、背の羽根が銃管を抱きかかえるように形成されている。これは彼自らが製作した「熾天使銃・光の翼」である。
「パン、パン、パン」
三発の銃声とともに、金色の結晶弾が飛び出し、暴れ回った三本の黒木矢を粉々に打ち砕いた。
だが高天は止まらない。左手にも黒い銃を浮かび上がらせたのだ。哑光の銃身は暗黒の気配を放ち、銃床には天を仰ぎ吠える悪魔が彫られ、その翼で銃口を形づくっている──これが「魔枪・暗の翼」である。これは高天の父・高進が創りし殺戮の器だ。
「ドン!」
暗の翼から放たれた弾丸は、螺旋紋を刻む漆黒の塊で、箫木の胸元へと一直線に撃ち込まれた。高天の読みでは、遠距離攻撃に長ける箫木が最も大きな脅威だったのだ。
白虎六人衆は真の一流部隊、その抜け目ない狙いを見せつけた。葉軽雪が特に目を付けた標的は──小隊内最弱と見做された荘莫言。敵方が最も危険視する彼を、まず排除せんとするのは当然の策略だった。
箫木の黒木矢は荘莫言を仕留める最善手。しかし高天の怒濤の反撃が、その陰謀を粉砕した。
一方、焚清雪は背後へ迫る黒木銃弾を無視し、二刀を高天の右へ向けて突進──風を切って一閃した。
荘莫言は胸中で安堵の吐息をもらし、自分の隊友たちの強さを改めて誇らしく思った。正眼法蔵を解除しようとした刹那、透明な六芒星印は忽然と紅く変色した。目の前で粉砕されたはずの三本の黒木矢が再生し、一筋の碧緑色の長矢となって彼の胸を狙う──荘莫言は再び生死の淵へと追い込まれたのだった!