第30章 双雪の争覇(二)
樊清雪と葉軽雪は、青龍城において雷洛と冷凝霜に次ぐ名を馳せる若き才媛である。二人とも「雪」の字を名に持ち、一人は青龍会の令嬢、もう一人は白虎社の令嬢という宿命を背負い、生まれながらのライバルである。
樊清雪は百年に一度の「通明」の天賦を有し、あらゆる武器の特性を瞬時に習得し、まるで長年鍛錬を積んだかのような完成度で扱うことができる。特に刀剣術に優れるが、彼女の温厚な性格は争いを好まない。しかし運命は二人を互いに相対せざるを得ぬ道へと導いた。小規模には青龍会と白虎社の覇権争い、大規模には十二城邦連盟における両城邦の地位を賭けた戦いといえる。
葉軽雪は強い勝負欲を持ち、敗北を決して受け入れない性格だ。敗れても再戦を挑み続け、最後には勝利を掴むまで戦う。彼女もまた並外れた天賦を持ち、細く長い指先であらゆる感覚を研ぎ澄ませる。白虎社社長である父・葉辰心は、彼女の才能を活かすため「幻夢指訣」という指揮する銃法を創り上げた。十指で銃を操り、銃弾の軌跡も掴ませない幻影のごとき技である。
後世の「最も価値ある印法功訣」ランキングでは、荘莫言の「快慢九字訣」、高天の「君子不器指」、葉軽雪の「幻夢指訣」がそれぞれ異なる時期に高く評価された。
初期の双雪の争覇において、樊清雪は敗北を重ねた。刀剣全般に長ける彼女も、槍術に特化した葉軽雪には及ばなかったからだ。しかし樊清雪が刀に専念し、青龍城若手第一の剣士であった雷鳴から直接指導を受けるようになると、状況は逆転した。無念刀を以て葉軽雪を圧倒した後は、樊清雪の完全無敗が続いた。雷鳴が九年前の奈落飢風災で戦死し、青龍双姝が凱旋したことで、双雪の争覇は一時休止、樊清雪は単身ニーナ号に乗り込み永昼区の海を漂流した。
一方、葉軽雪は白虎城に帰還後、「幻夢指訣」を新たに調整し、晶石軟藤銃を伴って白虎城では無敵を誇った。冠たる幻夢の銃は深い眠りと美夢へと敵を誘い、その間すべてを支配する。
そして今、啓明城の「晶歌自由の門」が九年ぶりにエネルギーを蓄え再開される。白虎六人衆の指導者として選ばれた葉軽雪は、白虎城を代表してこの門をくぐり、「自由の門」試練に挑む。彼女たちは当然「六一」隊として試練に臨む初のチームとなった。
葉軽雪は樊清雪の出現に驚きこそしなかった。門をくぐる資格は27歳以下の若者に限られるため、青龍城の才媛がここにいるのは道理である。しかし彼女が青龍城隊ではなく他チームに加わったことには千載一遇の好機を感じた。さらに葉軽雪は、自身の隠遁術が敵に見抜かれたことを意外に思う。多少の小手先術ではなく、真っ先に最も手強い相手──あの少年を排除すべきと判断した。
そうして葉軽雪は口笛を放ち、晶石軟藤銃を樊清雪に向けて突きつけた。樊清雪は無念刀で防いだが、白晶の銃頭の威力は忽ち消え失せ、瞬時に槍身を操る「幻夢指訣」で鞭のように変形させ、見えぬ凶刃を樊清雪の背後へと迫らせた。
同時に、箫木の三本の黒木矢が荘莫言へと飛来し、箫金の金槍と箫土の石鎚が元艮と元坎を襲い、箫火の炎紋直刀が高天へ火線を走らせ、箫水の蛇形水鞭は手弓を構える司南に忍び寄る。
これが、双雪の宿命の一戦である。