第29章 双雪の争覇
啓明塔地塔一階、黒き円舞の大広間。
雨玥は正気を失わんばかりだった。先ほど箫木の黒木矢による襲撃があったとき、思わず救援に手を出しかけた。しかし脳裏に眩暈が一瞬走り、気づけば自分は別の場所──入り組んだ迷宮の一室に閉じ込められていた。いったい何が起こったのか、誰か教えてほしい。
「六三隊」の隊員──荘莫言たちは、監考官の雨玥が跡形もなく消えたことに気づかず、白虎六人衆「六一」隊と死闘を繰り広げていた。
一方、高天は警鐘を鳴らすように低く呼びかけた。
「敵は左前方の水幕に潜んでいる、注意を怠るな」
次の瞬間、高天の右手から魔幻のごとく四つの金属球が現れた。彼はすかさず食指と中指でひとすじにはじき出すと、金の球は水幕へ向かって飛んでいった。
「ジジ…」電流の走る音と共に、金色の球は散開して電網となり水幕を包む。その閃光に照らされ、水幕の中からは五行衆が浮かび上がった。
* 箫金は金色の長槍を構え、殺気を漲らせる。
* 箫木は黒弓黒箭を手放さず、山のように動かぬ構え。
* 箫水は蛇の如き長鞭を携え、鞭口から放たれた水幕で身を隠す。
* 箫火は炎紋の直刀を振るい、荘莫言らを睨み据える。
* 箫土は石鎚を地に突き立て、その巨大な体を盾に微笑む。
「純粋な水か…電撃で封じられるなら、火はどうか」
高天は冷笑し、今度は赤銅色の金属球をはじくと、水幕を青い火焔に一瞬で蒸発させた。まさに「水幕蒸散」の妙技。その炎線は箫水の鞭へと襲いかかる。箫火は慌てて兄弟の軍刃を斬り、赤い刃紋で青炎を受け止めたが、箫水は瞬時に水鞭を再生し、炎の中から再び鞭頭を出して箫火と連携、高天を狙い撃つ。
その隙に、元艮と元坎は銀盾を構え、箫金の槍と箫土の鎚を受け止め、司南は麗しい弧を描く挽留弓を携えて荘莫言を護り、樊清雪は無念刀を構えて右を守っている。
「清雪、司南、カウント3でいっせいに後ろの空き地へ!」
荘莫言は陣字印で味方の被害を三割減しつつ、正眼法蔵で前方の動きを読み取り、同時に第六の刺客──葉軽雪の動静を警戒する。
「1、2、3、攻!」
**樊清雪** の無念刀は雪のように軽く、雷電の如き勢いで閃く。
**司南** は左で弓を構え、赤い波打つ「相思箭」を放つ。これは司命城の豪奢なる弓使いが練成した、情の矢だ。
**葉軽雪** は隠れた位置から晶石の柔鞭槍を抜き放つ。陽と陰の「陰陽晶石」から成る六寸の槍頭と、強靭な晶石蔓を編んだ鞭体が一体となり、まさに白虎城の至宝兵器。
白と黒の槍頭が無念刀を受け止め、鞭は相思箭を弾き、殺意高く六人の激闘は熾烈を極める。
**双雪の争覇**、再びその火蓋が切って落とされた──。