第25章 メビウスの環(リング)
月夜無霜は、モイレ・パーティの美しさに驚嘆した。これまでは自分の美しさと愛らしさで他者を虜にしてきたが、今回は逆に自分が他者の美に打ちのめされてしまったのだ。
「わあ!わあ!わあ!本当に美しい!」月夜無霜は思わず感嘆した。
「我はモイレ・パーティと申す。おぬしも愛らしき小さき人形よ。ただ、妙じゃな……おぬしの来歴が我にはわからぬ。何ゆえここに参りし?」モイレ・パーティの声が響く。自らの核を守るために無限ループのメビウスの環を設計した女神にしては、自分でも理解できぬ来訪者に興味を覚えたのだ。
月夜無霜は小さな手をひと振りし、「霜霜空間」から奈落の針を取り出して誇らしげに言った。
「私はこの奈落の針で空間の橋を作り、横断してきたのよ!すごいでしょ?」
「ふふ、それは巧みじゃ。では、小よき者よ、何ゆえ我の元に来たのか?」
「モモ(荘莫言)のために、啓明地塔の様子を訊ねたいのです。もし開学試練の全内容を教えてくれるなら、完璧なのに──」
「おお……モモか。荘莫言なる学員か。彼もまた我の読み解けぬ三名のひとりじゃ。この度の試練に臨む者には、番号999の高天、666の司南、番号空白の荘莫言と、予想外の隠れた強者が揃っておる。まさに運命の采配よ!」
まばゆい金色の波動が走り、モイレ・パーティの十二本の長触手は三束に分かれて、それぞれ異なる姿に変化した──運命の三女神である。過去を司るウルード、現在を司るヴィルダンディ、そして未来を司るスコルドだ。
三女神の間に連なる金色の波紋が耀めく。中央のヴィルダンディが、林間のせせらぎのような声で告げた。
「我、ヴィルダンディが運命女神を代表して開学試練の内容を伝えよう。しかし等価交換の法則に従い、おぬしは何を差し出して我らと交換するか?」
月夜無霜は瞬きし、「颶風奈落に関する情報を差し出せます」と答えた。
彼女が右手をひと振りすると、奈落の針上にひとつの光球が現れた。内には颶風奈落に関するあらゆる情報が保存されている。
「よかろう。今回の地塔の開学試練は二層が開放され、三つの関門がある。第一関門はメビウスの環──黒き円舞の大広間。第二関門は地塔一層と二層を結ぶ万象クリスタルブリッジ。第三関門は地塔第二層の問心室。問心試練を通過すれば成功となる。詳報はこれにて。」ヴィルダンディはそう言い、小さな金色の発光クラゲをひとつ創り出し、上下に漂わせながら月夜無霜へと飛ばした。
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黒き円舞の大広間──そこには全120名の学員が集い、まるで雫が闇に溶け込むように、漆黒に同化している。
樊清雪と高天が前衛に並び、元艮と元坎が後衛を固める。荘莫言と司南は守られる形で中核をなしていた。荘莫言は深いため息をつく。今や自分の実力は人位中位に落ち、正眼法蔵と精神力を封印された身では、九字真言印による「快慢九字訣」しか頼るものがないのだ。
雨玥は監督官として大広間に導いた後、雨雲のように消え失せた。
メビウスの環──無限の遍歴の地──歩いても歩いても出口は訪れない。その闇は、学員一人ひとりの内に潜む「黒」の面を静かに育み、拡大していく。時間が流れるにつれて、焦躁や不安、先ほど番号を変えられなかったという苛立ち、あるいは単に破壊欲にかられる者の思いがやがて凄惨な殺意へと変貌を遂げるのだった。