第二十四章 黒き円舞の大広間
啓明塔の量子光脳モイレ・パーティは、母星の西方遠古神話に登場する「運命の女神」の名を冠している。かつて人類は長い星間漂泊の末に希望星系へたどり着いたが、その遠征主船「パイオニア号」に搭載されていた量子光脳こそが、モイレ・パーティであった。初期の星間探査段階で、モイレ・パーティは希望星系の十二惑星すべてを「人類には適応不能」と判定していた。当時、遠征艦隊は母星から携行した補給物資を使い果たし、艦内エコシステムも崩壊寸前にあった。絶望の淵にあった人類を救ったのは、高通博士とモイレ・パーティの協力で発見された「高通星命環」である。この一縷の希望を見いだしてこそ、この星系は「希望星系」と名付けられたのだった。発見の後、モイレ・パーティは謎めいて消え去った。
今、啓明塔学院の主光脳にして「運命の女神」を名乗るのが、まさにモイレ・パーティである。母星の神話では三柱一体の女神であり、運命の網を紡ぎ、神々と万物の宿命を司る。三姉妹の長姉ウルードは「過去」、次姉ヴィルダンディは「現在」、末妹スコルドは「未来」を象徴し、未来の巻物を持ちながらも決して開かないと伝えられる。三柱合わせてモイレ・パーティと呼ばれ、その名は「無限の演算能力」を誇る量子光脳に付与されたのだ。
本試練の全ての受験番号はモイレ・パーティが割り振りを担当するため、最大番号「999」が高天に与えられたのは、この期の全入学志願者中で最も高い潜在能力と資質を示すからに他ならない。
制限時間の2時間が経過した。荘莫言、樊清雪、高天、司南、元艮、無坎の六名は、六人チームの指定集合エリアに到着した。そこには計7つの六人チームが集結し、隣の九人チームエリアにはわずか2チーム、あとは全て三人チームであった。
萧元聖はステージ上で声を張り上げた。
「時間だ!チームを組めなかった者は、残念ながら即時失格。直ちに啓明塔学院を退去せよ!チームを組んだ者は試験監督の指示に従い、正式試練会場──『啓明三塔』の一つ『地塔』へ向かえ!」
大広間の入り口に立つ雨玥は、啓明塔学院三年生の優秀な先輩である。青く艶めく直髪をたなびかせ、優しい笑みを湛えて六人の前に現れた。彼女は掌の水晶牌を六人に手渡す。牌には「六三」の文字が刻まれていた──荘莫言たちは六チーム中、3番目のチームであることを示す番号である。
「私は雨玥。皆さんの試験監督を務める者です。このまま私について、『地塔』へ向かってください。試練中は私が同行し、保護と監督に責任を持ちます。なお、まずチームリーダーを決めて、各自の戦闘能力を統合し、配置を確認して素早く戦力を形成することをおすすめします。『地塔』を開学試練の会場とするのは、学院創設から二十年にして初の試みです。」
司南ははずみをつけて駆け寄り、雨玥をぎゅっと抱きしめて甘い笑顔を向けた。
「ありがとう、玥お姉さま!すごく心強いです。ところでお姉さま、『地塔』ってどんなところか教えてもらえますか?」
「申し訳ないわ、小さな姫君。私は監督が役目だから、詳しい情報は自分たちで調べてね」
荘莫言は脳裡で月夜無霜を呼び出した。奈落の針を手にして以来、月夜無霜はその力で体積約2立方メートルの「霜霜空間」を開拓し、自身の所持品をすべて収納していた。ここ数日、霜霜はその空間の探検と開発に没頭し、荘莫言を二の次にしていたのだ。
「霜霜、啓明塔の量子光脳と接続して、『地塔』の情報を収集してくれないか?」
「モモ、ちょっと待ってね。ここの防御層がとんでもないわ……ファイアウォールが多すぎる!もう少し時間が必要なの!」
やがて月夜無霜は啓明塔の量子光脳を突破した。だが彼女が見たのは、目を奪われるような光景だった。巨大なクラゲが目の前に浮かんでいるのだ――
金色に発光する半球形の傘には褐色の縞模様が走り、縁には短い触手が七色の蛍光色で輝く。さらに12本の金色の長触手が均等に分布し、長さは約12メートル、傘径は約10メートルに及ぶ。その姿は金色の光に満ち、透き通るように美しく、壮観を極めていた。月夜無霜はまるで幻想的な花海に身を置いたかのように目をくらまされつつも、喜びをかみしめた。
――同じころ、荘莫言たちは『地塔』の下にある、同じく巨大な黒き円舞の大広間へと足を踏み入れたのだった。