第二章 雲相秘術
ニーナ号は大海原を力強く航行し、その威容は圧倒的であった。これは、昨日の極夜区域の暗海上空を密かに浮遊していた時の緊張感とは比べ物にならない。暗海には巨大な海獣、いや、海の怪物と呼ぶべき存在が潜んでおり、毎年20%から30%の遠洋艦が彼らの犠牲となっている。
中間デッキに立つ荘莫言の心は、まるで暗海の深淵に沈んだかのようであった。
「モモ、大盛りのご馳走が食べたい、デザートも、エナジードリンクも飲みたい!」
月夜無霜は荘莫言の肩にちょこんと座り、小さな眉をひそめて不満を漏らした。彼女は荘莫言の父が遺した唯一の遺産であり、成人の手のひらほどの大きさのナノ素材で作られた人形である。天青色の衣装をまとい、愛らしい外見をしているが、その知能コアには81種類の飛天モードが搭載されている。かつて、彼女の「案内」「花飾り」「果物運び」の三つのモードだけで、老詐欺師の元天罡を魅了し、荘莫言に七日七晩付きまとったこともあった。もし彼女が荘莫言の遺伝子と脳波にリンクしていなければ、今頃は元天罡の手に渡っていたかもしれない。結局、荘莫言は元天罡に騙され、永昼区域の啓明城へ向かう遠洋艦ニーナ号に乗ることになった。
「霜霜、空気でも食べてなよ……なんで火事や泥棒、詐欺師から守ってくれなかったの? 全財産を使って手に入れたのは船のチケットと壊れた鏡、それに真偽不明の秘術だけ。雲を見て吉凶を占うなんて、誰が信じるんだよ。しかも、このAクラスのチケット、老詐欺師は食事付きで娯楽も全部込みって言ってたのに、実際は朝晩の人工合成食だけじゃないか。霜霜、お前は食べなくてもいいけど、俺は……ううっ……」
荘莫言の愚痴に、月夜無霜は怒りを覚えた。彼女はナノ人形でありながら、荘莫言の脳波とリンクして感覚を共有できる特別な存在である。彼女のおかげで、荘莫言は司命城邦で有名な霊植ハンターになれたのだ。彼女は荘莫言の生体電気を吸収してエネルギーを得ることができるため、数回吸収しただけで、荘莫言はデッキで気を失ってしまった。
「コケコッコー」
目を覚ました荘莫言の耳に、鶏の鳴き声が聞こえた。彼が顔を上げると、五彩の羽を持つ雄鶏が軍人のような足取りで近づいてきた。
「モモ、あの鶏を捕まえて、毛をむしって、血を抜いて、焼いて、揚げて、煮て、食べようよ! 私が見張りをするから、早く早く!」
月夜無霜の声が荘莫言の脳内に響いた。荘莫言はため息をつき、「霜霜、あの鶏は誰かのペットだよ。誰かが散歩させてるんだ。いや、鶏が人を散歩させてるのかもね」と答えた。
その鶏、旺財は、ニーナ号の艦長雷洛の大切なペットである。そして、その後ろを歩くのは、艦長の第二補佐官である樊清雪だった。彼女は、毎回永昼区域に入るたびに、艦長から旺財の日光浴の付き添いを任されていた。彼女はその役目に不満を感じつつも、仕方なく従っていた。
二人のため息が重なったとき、樊清雪はデッキに横たわる荘莫言に気づいた。これが、二人の最初の出会いであった。
後に、樊清雪は、荘莫言が初対面で雲相秘術を使って食事を騙し取ったことを思い出すことになる。その出来事がきっかけで、荘莫言は「小さな詐欺師」として知られるようになった。