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第十五章  夏后星命


奈落の心、奈落の山。その頂は風一つなく、死の静寂が支配していた。

庄莫言チャン・モーイェンはもはや限界の力を振り絞り、雷洛レイルオの微かな生気を必死に支えていた。雷鳴ライメイは呆然と立ち尽くし、少しでも動けば無力な妹を傷つけてしまうのではないかと恐れていた。


冷凝霜レイ・ニンシュアンはそっと雷洛の雪のように蒼白な頬を撫で、「この奈落の山で、もっとも元気エネルギーの濃厚な場所はどこですか?」と庄莫言に尋ねた。


「氷の椅子がある場所だ」と雷鳴が低い声で答えた。


庄莫言は「正眼法蔵」で再度空間を見渡し、確信してから冷凝霜にうなずくと、彼女は素早く氷椅子のもとへ走った。懐から取り出したのは、炎のように赤く輝く丸い晶石。その中に、真珠のように白く無垢な「白玉堂の花」が封じ込められていた。


冷凝霜は畏敬の念を込めて両膝を地につき、晶石を椅子の上に置くと、自らの掌の一滴の血を火紅晶石に滴らせた。まるで灯火のように血が光を放つと、彼女は心を込めて詠唱した。


「弟子・冷凝霜、冷炎の後裔。暗夜に一燈を灯し、虚空に請う——先達、夏后星命よ、白玉堂を介してこの身に顕現せよ!」


火紅晶石は蝋のように蕩け、白玉堂の花が清らかに開いた。光に誘われるように、一筋の影が浮かび上がり、やがてゆらゆらと美しい少女の姿を成した。


時を遡る九年前、極夜大陸・荊棘平原。わずか十六歳の冷凝霜は霜剣を鍛えるため、荊棘の透明な花芯と樹芯を採取していた。そのとき、無数の荊棘の根が蛇のように絡みつき、彼女の元気と血があふれ出していた。生死の境に立たされたその瞬間、夏后星命の神念が星核結界より化身し、そこに降り立ったのだった。


冷たく凛とした美貌を誇り、「雪晴帖」という稚拙な修法を好む少女を見かけた夏后星命は、たちまち彼女を護りたくなった。救い出した後、夏后星命は一輪の白玉堂の花に自らの神念を宿し、冷凝霜にこう告げた。


「あなたは“霜霜”と呼ばれているのね。とても美しいわ。私の息子の花嫁になってくれない?こんなに愛らしい嫁がほしいのよ。どうかこの白玉堂の花を身から離さないで。『雪晴帖』なんて愚かな術はもうやめて。女の子が火行の体質でない限り、あれを練ると氷の美人になるだけよ。」


そう言うと夏后星命の姿はほのかな残光を残して消え去った。


今、冷凝霜は、自分だけが雷洛を救えるのだと確信していた。これが最後の望みだった。


しかし、冷凝霜の知らぬところで、夏后星命は奈落の心に姿を現したとたん、かねてから会いたがっていた息子――庄莫言の存在をはっきりと捉えていた。


夏后星命の胸に衝撃が走り、全身の血が沸き立つような喜びが炸裂した。思わず声を失い、神念の化身も揺らいだ。彼女は想像もしなかった。こんな状況で、司命城に預けた幼い我が子と再会するとは。


自分が息子を産んだ後、あの小さな幼児は星核の結界下では生き延びられないと判断し、夫の庄重ショウチョンに託して司命城で育てさせた。地表の星光に適応したのち、いつか永昼の青龍城・夏家へ迎えに行こうと考えていたのだ。しかし運命は残酷で、庄重は妻を救うため星核へ戻らざるを得ず、我が子と月夜無霜ユエヤウウーシュアンは司命城に取り残された。夏后星命はその決定を激しく咎め、何度も夫を叱責したことを思い出した。

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