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第十三章 雷鳴刀(二)



雷鳴刀――それは雷鳴の結晶化された左手の薬指である。


これはすなわち、雷鳴が生前ただ地階の頂点に立っていただけでなく、天位へ半歩踏み入れた「準天位」の高手であったことを意味する。雷鳴の左手の薬指が内外ともに完全に結晶化すれば、彼は自然と天位高手の列に加わるはずだった。だからこそ、飓風奈落ハリケーン・ナラクは雷鳴の肉体を完全には消し去れず、苦心してその全断片を集め、十年近くをかけて修復し再生させたのだ。


九年前――雷鳴は準天位としての実力をもってすれば、自らひとり奈落の飓风から逃れるのは容易だった。しかし雷洛レイルオ冷凝霜レイ・ニンシュアン、そして元辰げんしんを引き連れての脱出となると、これは天を仰ぐほどに困難であった。雷洛は雷鳴にとって、自分の命よりも重く、何よりも大切な存在であった。ゆえに雷鳴は迷わず左手の薬指を折り、その指を雷洛に与えて自身は飓风奈落に体当たりしたのである。わずか数年で雷洛が地階高位に到達できたのは、この雷鳴の指骨があってこそだった。


雷洛と冷凝霜は九年にわたって船を漂わせながら飓风奈落を追跡しつつも、その姿を捉えることはできなかった。しかし飓风奈落について最も深い理解を持つ者たちの一人であることは誰よりも確かだった。「飓风奈落は生きたハリケーンである」と言われる所以は、その飢餓ともいえるエネルギー吸収能力だけでなく、意識をも吸収するという性質にある。とりわけ人間の意識を好んで喰らう。だからこそ――


──自分の兄の肉体があれほど鮮活なまま存在しているのは、奈落が雷鳴の意識の一片を保有している証拠にほかならない。もし意識なき肉体ならば高通星上で唯一の結果は腐敗し泥となるだけ。神ですら活性を保てないはずなのだ。


雷鳴刀は波のごとく振るわれ、その一撃「斬天ざんてん」は雷鳴の肉体唯一の隙――左手薬指すらけ──を真っ先に狙った。飓风奈落は雷鳴の肉体を瞬時に鋼鉄同然へと変えさせ、両拳を水を切る龍のように振り抜く。雷鳴刀と霜剣そうけんに正面から打ち込むその拳。冷凝霜も初めて両手で剣を掲げ、一心不乱に突き刺し、「凍地とうち」の一撃を放った。


荘莫言しょうばくげんはあまりの疲労に、力の衝撃に耐えきれず、哀れにもそのまま意識を失った。


しばしの後、荘莫言が目を開くと、眼前に立つ冷凝霜のか細い身体を目にした。彼女は悲しげな声で問いかける。


「なぜ……?雷洛、これはどういうこと?」


雷鳴の右拳が真っ直ぐに雷洛の胸を貫き、その拳は胸を破って突き抜けた。霜剣も斜めに雷洛の肩を貫いている。これは冷凝霜が必死に剣を引き抜いた結果であり、そうでなければ確実に胸をも貫通していただろう。


雷洛の身体からは血が止めどなく噴き出し、床にまで滴り落ちた。頬は蒼白に染まり、桜色の唇は紫紺に変色している。


「霜霜、ごめん……私は“斬天”を使わなかった。私は“旧夢きゅうむ”を使ったんだ。」


雷洛――その天衣無縫の美貌と王者の気高さは、啓明星・奈落の飓风の災厄以来変わらなかった。だが彼女は、情念を刀に込めることで、新たに三種の刀法を生み出していた。遠洋漂泊の九年の間に創造された、それぞれに異なる想いと力を宿す三つの技だ。


ひとつは「斬天」――憎悪と殺意を刃に込め、憤懣に天を裂かんとする一撃。幼くして父と母を失い、至親の兄も理不尽に啓明城で命を落とした雷洛は、天の不公平に怨みを込め、この技を創出した。その殺傷力は最強を謳い、兄をも打ちのめすほどである。


もうひとつは「旧夢」――情意と追憶を刃に込め、心の闇から生まれた弱い一撃。兄・雷鳴の無微不至の愛情を胸に、最も殺傷力は抑えられているものの、同時に防ぎにくい難技でもある。


そして「碎心さいしん」――死をもって敵と運命を共にせんという覚悟を込めた、共倒れを前提とした絶命の一振り。仲間も敵も問わない究極の自己犠牲の技だ。


「霜霜、私が兄の意識のわずかな欠片を呼び覚ませば、これは兄の身体だ。きっと兄は戻ってくるはず。私はあなたに兄を傷つけてほしくないし、あなた自身も傷つかないでほしいの。霜霜、ずっとそばにいてくれてありがとう。だけど兄は私を自分よりも大切だと思っていた。私の心の中では、兄の命の方が私の命よりも大事なのよ。わかる?霜霜、兄は九年前、本当は生き延びるはずだった。あの九年、私はなぜ自分が生きているのかずっと自分を責めてきた。あのとき、兄と一緒に死ぬべきだった。こんなひとりの人生は望まない。もしこの九年、あなたやチンシュエ(清雪)がいなかったら、私はとうに心が折れて兄のもとへ向かっていただろう……」


荘莫言が再び目を開けると、雷洛の頬は真っ赤に染まり、唇は痛むほど蒼白だった。

そのとき、目に飛び込んできたのは――雷鳴が雷洛の胸を貫き通る鉄拳の姿だった。その光景を見た瞬間、荘莫言は思考を失い、ただ茫然と立ち尽くした。自分は一体どれだけのあいだ意識を失っていたのか、なぜこんなことになっているのか――頭の中が真っ白だった。


今、手に握られている雷鳴刀――

それは雷鳴の左手の薬指の骨(指骨)であり、すでに雷鳴の左手と融合していた。

雷鳴の左手には五本の指が揃っており、薬指は透き通るクリスタルのように光を放っていた。まるで美しい夢の中で眠りを続けているかのように、その薬指だけが儚げに揺らめいている。



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