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第十二章 雷鳴刀(らいめいとう)

雷鳴ライメイ――雷洛レイルオの実の兄。


十年前、雷鳴はすでに地階ちかいの頂点に立つ高手であり、青龍城せいりゅうじょうの若き世代では「第一の高手」と称される存在だった。

彼に「鉄の手・鉄の腕・鉄の拳」という二つ名があるのは、真に肉体を異化(変異)させる希少な能力を持っていたからである。


もともと青龍城の雷家は小さな家門にすぎなかったが、雷鳴の登場によって一躍その名を高めた。

両親を早くに失った雷鳴は、妹の雷洛をことのほか可愛がり、子どものように育てた。自分が手に入れられる修練資源をすべて妹に注ぎ、雷洛が何の心配もなく修行に集中できる環境を整えたのだ。


雷洛もその期待に応え、幼い頃から天賦の才を見せた。とりわけ刀術に秀で、剛猛な剣風と兄譲りの豪快かつ率直な性格を併せ持つ彼女は、冷凝霜れいぎょうそうと並んで「青龍双姝せいりゅうそうしゅ」と称された。

二人は揃って青龍城から啓明城けいめいじょう啓明塔けいめいとうへ修学に送られたが、雷鳴は妹を一人で行かせるのを心配し、自らも啓明塔の実戦教官として妹と同じ船で啓明城へ向かった。


──すべては妹・雷洛を守るためだった。


九年前、奈落ならくのハリケーン災厄が青龍城を襲った時、雷鳴は奈落の暴風に真っ向から立ち向かった。異化した鋼鉄の肉体で十息ものあいだ暴風を食い止め、その間に元辰げんしんが自らを犠牲にして秘術を発動し、奈落の風壁を破って雷洛と冷凝霜を脱出させた。

脱出の直前、雷洛と冷凝霜は雷鳴の肉体が奈落の暴風に粉々に砕かれるのを、生きたままその目で確認した。


それなのに――今、彼女たちの目の前にいるのは、かつて瀕死になったはずの雷鳴、そのものだった。まるで鉄塔で鋳造されたかのような、確かな血肉の人間である。

彼女たちはすぐに察した。これは奈落の幻術などではなく、生きた人間、すなわち雷鳴そのものだと。


「ロロ、ソウソウ……久しぶりだな。まさか、生きてもう一度お前たちに会えるとは思わなかった。だから――九年前にお前たちを救った命を、今ここで返してくれ。」


雷鳴はそう言うと、拳を一直線に放った。単純な長拳の形ではあるが、その威力は山をも砕き、地をも裂くほどのものだった。


雷洛は手のひらを刀のように構え、冷凝霜は剣を盾にして受け止める。

しかし庄莫言チャン・モーイエンはまるで荷物のように放り投げられた。


荘莫言は慌てて両手を組み、「陣」の字を結びながら前方に万神印ばんじんいんを発動し、さらに「抱神守静ほうしんしゅじょう」を用いて精神を集中させ、「正眼法蔵せいがんほうぞう」を最大限に開いた。瞳は紫色に染まり、その眼で雷鳴の長拳を必死に見極めようとした。


万神印の護りの下、正眼法蔵は最強・最大まで開放され、荘莫言の紫色の瞳孔に光が宿った。その結果、雷鳴の拳は左で繰り出されていることがはっきりと分かった。破天はてん、すなわち天地を裂くほどの力を秘めた拳だということも。唯一の弱点は、雷鳴の左手の指五本の中で薬指が欠損していることであり、残るのは四本だけであるという点だった。


「雷鳴の左手には薬指がない。その一点を突けば生き延びられる」


そう告げるやいなや、荘莫言の視界は暗転し、脳内が熱湯に沸かされたかのごとく煮えたぎる感覚に襲われた。精神は完全に枯渇し、倦怠感に支配されて動けなくなった。これ以上は自分にできることはない――あとは天命に任せるしかないと悟った。


拳、掌、剣が激しく交わる。


雷洛はかつての古傷が再び裂け、全身が血に染まった。冷凝霜は剣を盾にし、雷鳴の拳力の六七割を受け止めたが、そのショックで口や鼻から血を流し、目眩がするほどの衝撃を受けた。雷鳴の強さは尋常ではなかった。


「おまえは雷鳴じゃない。」

冷凝霜は冷たく告げた。


「ほう、なぜそう思う?」

雷鳴は不敵に笑いながら尋ねる。


「雷鳴なら決して雷洛を傷つけない。おまえはただ、奈落の意識が雷鳴の肉体を乗っ取っているだけだ。」


「その通りだ。もしお前たちに瀕死にされたりしなかったら、この肉体を使わずに済んだのだ。しかしこの身体を使うということは、力の90%を捨てて、本源の霊識だけで宿っているということを意味する。」

雷鳴は陰鬱かつ冷酷に言い放った。


「雷洛、わかるか? こいつは奈落だ。お前の兄・雷鳴ではない。辛いけど事実を受け止めろ。お前の兄は九年前に死んだのだ。雷鳴を殺したのは奈落なのだ――お前がよく見ろ、こいつこそ飓風奈落ハリケーン・ナラクだ!」

長年の戦友である冷凝霜は、先ほど雷洛が「ためらいの手加減」を見せたことに気づいていた。雷鳴を傷つけたくない――という想いから、自ら進んで攻撃を受け、反撃せずにいた。そのために腰の古傷が再発し、血で戦衣を染めたのだ。


雷洛は深く息を吸い、冷凝霜を呆然と見つめた後、静かにもう一振りの刀を抜き放った――


それが「雷鳴刀らいめいとう」である。


雷鳴刀、それは雷鳴の左手、薬指の指骨を用いて作られた刀である。表面は完全に晶状化した結晶核のように輝いており、指骨そのものが刀身となっている。雷洛にとっては大切な形見であり、心の拠り所でもあった。





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