閑話2
タブレットの画面に指を走らせながら、佐久間はため息をついた。
エクセルに並ぶ文言が、まるで意味のない記号のように見えてくる。
龍脈の封印をしたものの、まだ佐久間には報告書を上げるという課題が残っていた。
——ガラス破砕の状況、現場写真、気象情報、聞き取り内容……
「龍が出た……とは、どう報告すればいいんだよ……」
こめかみを揉んでいると、
カラン、と乾いた音とともに、隣の椅子が引かれる。
「ねーねー、佐久間、こんなとこで悩んでるの?」
視線を向けると、サングラスを額に乗せたケイが、にこやかに頬杖をついていた。
そして、おもむろに佐久間のタブレットをひょいと覗き込む。
「おぉ〜報告書!真面目!うわ、めっちゃ書いてるじゃん。外的要因による構造材破損……ねえ、それって龍って意味?」
「……さすがにそのまま書けるわけないでしょう」
「じゃあさ、それ書き終わったらさ」
ケイがひょい、と自分のスマホを掲げる。
画面には、「茶餐廳(近)・營業中」と地図アプリの検索結果。
「チャーチャンテン、行かない?」
「え、今からですか……?」
「今からじゃなきゃダメなの。報告書に魂抜かれてる顔してるよ。そういうときはね、バター付きパイナップルパンとミルクティーで脳に糖分ぶち込むに限るって相場が決まってる」
「相場……」
「しかも俺のお気に入りの店、今なら牛バラ煮込みメニューがあるんだって。冬瓜入り。佐久間、冬瓜好き?」
「……あ、まあ、どちらかというと」
「じゃ決まり!行こ。俺、先に席取っとくから!」
言うが早いか、ケイは立ち上がって背中越しに手を振る。
その軽快さに、佐久間は思わず笑ってしまった。
「……あの人、ほんと、自由すぎる」
だが、不思議と心の奥の緊張がほどけていくのを感じていた。
パチンとタブレットを閉じ、立ち上がる。
「ま、行っても……いいか」
外は冬の風。だけど、ケイが指差す茶餐廳の店先からは、
バターとスパイスの混ざった、どこか懐かしい香りが流れていた。
チャーチャンテンに行かないと私が落ち着かない感じなので……
ていうか、会社は佐久間に金一封でもだしてくれって感じですねw