不落の忠義と排せぬ恨み
セイラです。
長らく温めていた作品がようやく形に出来そうなのです。(個人的には)めちゃくちゃ面白いザ・厨二病な世界観だと思うのでどうぞお楽しみあれ
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街は活気にあふれていた。
規則的に並ぶ家々の前には露店が並び、押し合うような往来が続いている。
男は人混みを抜け、露店の隙間から裏道に入る。
「アンタ、旅人さんかい?」
タバコをふかした婦人に声をかけられた。
やや丸みを帯びた体型だが、女性にしては発達した筋肉が印象的だ。
「……ああ。人探しでな。ところで、今日は祭りか何かか?」
「そうだよ、革命祭さ!」
革命祭。聞きなれない言葉を聞き返す。
「アンタは新聞を読まないタチか? 1か月くらい前、前王家の生き残りが捕まってね。今日の午後、ようやく斬首が行われるんだ」
ピクニックに出かける前日のような無邪気さで婦人は言った。
この国に来る途中で聞いた話によれば、娯楽として公開処刑が行われているという。
……それにしてもこの盛り上がりか。
興味はないが、人の多さは悪くない。
「革命祭……知らなかったな。感謝する」
「待ちなよ。せっかくなんだし、1つくらい買って言ったらどう?」
「ふむ……そうだな。1つ頼む」
了解、と言って店に戻る婦人。
数分待って、袋紙に包まれたホットドッグが渡される。銅貨2枚をカウンターに置いて大通りに戻る。
外壁も地面もレンガで構成された通りを抜けた先、半壊した城の目の前に広間があった。
腰くらいまでのフェンスで囲われた中心には、これまで何人もの人間を殺してきたであろう処刑台が重苦しく鎮座していた。
「アレか」
辺りに立ちこめる血の匂いと熱気。
なるほど彼らは、本当にこの”処刑”を祭りとしか思っていないらしい。
はたから見れば狂気的な精神性にわずかな恐怖を覚えつつ、処刑台に運ばれる少女に目を向けた。
ロクに食事も与えられていないのか酷く痩せこけた、しかし美しさが見える少女だった。
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少女は退屈していた。
勉強はできたし、運動だって苦手じゃない。中身のない社交界も、愛想笑いをふりまけばカンタンだ。
時間になれば食事が出てきて、朝は専属の侍女が着替えを持ってやってくる。
誰もがわたしを信じていた。期待していた。必要としていた。……興味がなかった。
「……3年、誰も気づかないとは思わなかった」
高くそびえる処刑台に運ばれる最中、少女は一人呟いた。
「喋るな、売国奴め。さっさと歩け」
まるで汚物でも見るように兵士が言う。
「ねえ、兵士さん? わたし死にたくないわ」
効果など期待できない命乞い。できるだけ可愛らしく、ニンゲンらしく。しかしもはや返事すらない。
小さくため息をくと同時に首が固定される。
――――【主よ、人よ、大地よ、我が声を聞け。我が意を汲め】
落胆と、失望。興味を失った声音は機械のように、冷徹に、淡々と言葉を吐き出す。
「罪人、エレナ・ユーリファストよ。貴様は守護すべき民を欺き、愚弄し、堕落の限りを尽くした。よって斬首による公開処刑を執り行う」
異論どころか発言すら認められない茶番。もはや刑は確定し、その罪状すら意味をなさないというのに、彼らはまるで禊のように罪状を突きつける。
何度目かもわからない溜息を飲み込んで、気取られぬよう手に魔力を溜める。
――――【この肉体は魔導の路。この精神は異象の原型】
若い兵士が剣を振り上げた。その先には、首を切り落とすための刃につながるロープ。
民衆の熱狂は最高潮に達し、フライング気味の歓声も上がっている。
「さあ、反逆者よ、その命を以て自らの罪を雪げ!」
振り下ろされた剣がロープを切った。
と同時。待ちに待った幕開けに声を挙げる。観衆が少女の斬首を望んでいたように、少女もまたこの舞台を待ち侘びていたのだ。
「さあ、祭りだ派手に行こう! ――――【守護者たる炎環】ッ!!」
少女に収束した魔力が炎に変換、赤く染まる魔力が周囲に広がった。
熱波が民衆に触れた瞬間、その肉体から炎が噴き出した。
歓喜と興奮に満ちた一帯は、あっという間に恐怖と混乱に支配された。
こう熱により皮膚は溶け、肉が灼け、灰になる。
彼らは一瞬にして悟ったのだ。ーーーー犠牲になるのは自分だ、と。
偶然にも炎を免れた一部が悲鳴を上げ、更地になった広間から逃げ出している。
処刑の立ち合いに出遅れた民衆と、その場から逃げ出す観衆。そんな地獄の中にただ1人、自由のみとなった少女は踊る。こんなにも清々しい気分は何年ぶりだろうか。
自らが生み出した混沌の中で、少女は不敵に笑って言った。
「さァ行こうか。3年間も待ったんだ。上手く踊れよ、愚民ども」