櫛と時計の鎖
クリスマスに、お互いの思いがすれ違う貧乏な恋人同士の心温まるお話がある。
女性は、彼が大事にしている時計にぴったりの鎖を自分の美しい髪を売ってお金を得て買う。
男性は、時計を売ったお金で、美しい櫛を買う。
それぞれが、自分の一番大事な物を売って相手の一番大事な物のために必要な物を買って、プレゼントした話。
自分の一番大事な物を犠牲にできるほど、愛し合っている恋人たちのお話。
バレンタインデーの朝、このお話を思い出した。まあ、なんとなく。自分たちとの共通点は、愛し合っているけど、すれ違うと言う点。
結論から言うと、見事にすれ違った。
私は、当然、彼にチョコレートを渡したいので、以前、(物理的に自転車同士で)すれ違っていた場所から推測した彼の通勤ルートと思われる場所で、彼を待っていた。
この時間だと、もう彼はここを通らないかな……と言う時間までいて、帰途に着いた。
彼が、私の通勤ルートを私の方に向かって来ていた。彼も多分私にチョコレート?かどうかはわからないけど、思いを伝えに来てくれてたんだと思う。よくわからないけど。
なんだか、恥ずかしくなってしまったのか、彼がパッと顔を逸らしたので、逆に、私はそちらを見てしまって彼だと気がついた。
私は、彼を待っている時に、すごくドキドキしていた。チョコレートにつけたカードに連絡先と、自分の思いが書いてある。
「私は人の顔がよくわからない。
わざとじゃないの。ごめんなさい。
大好き
ずっといっしょにいたい
もっとあなたのことを知りたい」
お互いに思い合っているはずだから、チャンスさえあれば、平気で伝えられると思っていた。
ところが、いざその段になるととんでもない!いかに自分が恥ずかしい事を伝えようとしているのか、……。え?私、彼にこんな恥ずかしい事伝えるつもり?無理無理無理。速く時間過ぎろ!拒否されたら、どうするの?彼とのこと、終わっちゃうよ?なんでいけるなんて思ってたんだろう?終わっちゃったら、私、どうしたらいいの?彼に会えない方がいいかも。速く時間過ぎろ!
今までの恋では、こんなこと、なかった。夢中で大好きって気持ちを伝えてしまっていた。相手を失うかもなんて、考えもしなかったし、伝えることで、失ったらどうしようなんて言う恐怖感だって、感じたこともなかった。
彼だって、バレンタインデーに私の方に来てくれていたんだから、思いは、あるはず。
お互いに思い合っているはず。
それが分かっていても、本当に欲しいから、怖くなる。
部署の異動を伝えようとしたときも、引っ越しのことを伝えようとしたときも。自分の思いを伝えようとしたときも。いつも、勇気を振り絞っていた。
お互いに思い合っているはず。分かっていても、もしかして、もう、私とのこと、諦めちゃったかもなんて、心配になる。バカだけど。
でも、ずっとこうやってすれ違いながら、お互いに交互に勇気を出し合って、なんだかうまく、相手の勇気を受け止められはしないんだけれど、相手の気持ちは、きっと、確かに受け取って。
すれ違っているのに、お互いの気持ちを確認はし続けている……。
彼も、私が彼にチョコレートを渡そうと思って、向こうで彼を待っていたから、いつもの道を通るのが遅くなったんだって、気がついただろうか?
今日の幸せ
・久しぶりに彼を見ることができた。しかも、彼が私に会いに来てくれて。
・お肉食べた〜!
・部署の空気が暖かかった。スパイ容疑、晴れたのかな?




