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夢見る少女で居られるのはせいぜい5歳

取り敢えず宜しく御願いします。


「我が家は代々恋愛結婚の家系だ!!」


と、そう豪語して憚らない父、現在28歳。

首に掛かる長さの銀に近いプラチナブロンドを横に束ね、柔らかな知的な輝きを宿す碧い瞳。

すらりとした長身痩躯で程好く筋肉質、無駄に長いおみ足に世の男性はきっと怨嗟の視線を送っているに違いない。そう思える美男子である。


そんな美青年が、いくら自分の子供だからと幼女を抱き締めてそう連呼する姿はきっと百年の恋も醒め果てる……かと思いきや、意外や意外、世の乙女は夢見る御花畑の方々が多いらしい。


あちこちから感じる熱視線の多さよ……。

世の中には肉食女子しか居らんのかい?!

そう嘆きたくなる程度には注目の的となっている。

まぁそれだけが原因では無いのだが……。


どうも、愚父がお騒がせしております。

耳元で叫ばれてるのでいくら低音美声でもわたしにはただの傍迷惑雑音でしかない。さっさと離せ!とばかりに身を捩るが、尚一層抱き込まれて下手すると内臓が飛び出るウン秒前かも……。


ぶらんと力を抜いて下を見下ろせば、淡い水色の柔らかな最高級布地の膝丈ドレスが目に入る。

レースに縁取られた足首靴下と白いピカピカの靴がプラプラと揺れているのも見えている。


「もっとフリルをレースをリボンをぉ!」とがなる父との3日に渡る攻防戦の末、3割減らす事に辛うじて成功したわたしの功績を誰か褒めてー。

当世界年齢では5歳でも、前に生きた記憶の年齢を足せば父を軽く越える実年齢だった自分にピラピラふりふりドレスはマジでキツイのよぅ……。


説得というお話し合いの筈が、片や理路整然と常識を解く(わたし)5歳と、情に訴えようと泣き落としの本気ギャン泣きで挑んで来た父28歳。

おいこら普通逆だろ?!と、その光景を目撃する羽目に陥った気の毒な当家の執事とメイドは裏庭で絶叫したとかしなかったとか。ゴメンな。


んで、何でその中身お子様外見美男子な父が、中身ヤツより歳上外見美幼女の娘であるわたしを抱えて絶叫したかと言えばだ。獰猛な肉食獣の視線を送るに飽き足らず、愚かにも擦り寄ってあわよくば……と目論んだあるお姉さまを拒否る為である。


…………仮にも愛娘を盾にすんなよ、父?


此処は社交場、親交のある侯爵家のパーティー。

社交に関してはニート顔負けの引き籠りを貫く父の、数少ない出席する会場の一つ。だからこそ現在独り身となった父を狙う肉食獣が溢れるのだが。


ちなみにだが普通なら夫人が同伴対象。

だが前述通り、今現在父は独り身だ。

正解には一年前に夫人、つまりわたしの母を亡くしたので独身に戻った……と言うのが正しい。

肉食獣な御姉様の魂胆は後妻に収まる事にある。


んで父の同伴者はわたし。

出不精な父を引っ張り出そうと目論んだ親交有る方々に向かって、ただでさえ数少ない社交の場に出る最大条件にと父が提示したのがコレだった。


普通ならば認められないその条件を皆様が呑まれたのには訳が有る。深くも身も蓋も無い訳が。


わたしの住む今の世界で一番栄えている王国。

その王国には“大公”と呼ばれる位が有る。

読んで字の如く“大公爵位”、王族が王位継承権を持ったまま臣下に降る際に与えられる爵位。

他は知らんが少なくともウチの国ではそうなのだ。


生真面目一辺倒で生きて来た先代国王。

ある日、いきなりプッツン切れて癒しを求める名目で若い内に設けて立派に育った王太子にその座を譲り、諸国漫遊の旅へとお出まし遊ばされたそうな。


王妃も当の昔に亡くなられてたのでホントの意味で気軽な旅へと。で、その先で運命の恋とやらに遭遇しそのまま婚姻。はっちゃけて頑張って、親子ほどに歳の離れたご令嬢から、やはり親子ほどに歳の離れたご兄弟を御作り遊ばされ……。


後を継がれた王太子殿下改め国王陛下25歳下の異母弟のご誕生と相成った次第。それが父。

父の母、つまりわたしの祖母は辺境伯ご令嬢。

父の狂喜乱舞した祖父は、祖母の実家と隣接する王領を併合して公国とした上で生まれたばかりの父へと与えた。現国王の了解無しに。


長兄は事後承諾な上に電光石火の早業に呆気に取られた後に厳重抗議はしたそうだが、元々信任篤い辺境伯にどう報いれば!?と常日頃思っていた嘆きが思わぬ形で解消され、また後日引き合わされた愛らしい弟君にすっかり骨抜きされて了承し。

そうしてあれよという間に『公国』が出来た。


……普通なら何処をどう突っ込もうか?などと思うのだろうが、この場合は突っ込み所しか無かろうが!と叫びたいのはわたしだけなのかね?


閑話休題、説明を続けよう。


現国王を兄に、前国王を父に持つ貴公子。

爵位は大公、ちゃんと王位継承権持ち。

母は元は辺境伯令嬢だが、辺境伯から大公国へと成った際に大公后という特別な位を与えられて準王族に叙せられた。もうお亡くなりだが。


つまりは純血種が服着て歩いているモノなので、ちょうどお年頃の乙女方の絶好の標的となったのは言うまでも無い。だからかは知らんが肉食女子には惹かれなかったらしき父は、天が能えたもうた二物以上を使い見事な回避で草食女子な母をゲットした。

冒頭の台詞の如く、正に相思相愛の間柄でだ。


草食女子など大和撫子と同様に昨今では絶滅危惧種だろうこの世界のこの王国で、巡り合い惹かれ逢って結ばれるとは正に運命の愛なのかも知れない。


それはさておき。


この国で成人となる年齢の16歳に達した時点で婚姻を結んだ父と母。だが、貴族としての義務である学園に通う為に子作りは父のみ泣く泣く先延ばし、卒業する18歳を経てようやく真の意味で結ばれて、わたしを母が宿したのは数年を経てからだ。


その間、子を成せないとの陰口を叩かれながら社交界から虐めの憂き目をみていたぼっち母。

待望の子供(わたし)を孕んだものの、元々あまり心身共に強くなかった、容姿そのものの如く儚げ草食女子の母はわたしを産んでからはどんどんと弱り、そして半年前に夜空に瞬くお星様と化しました。


父の嘆きはそりゃもう凄まじかった。

幾つだろうと身内の不幸はそれなりに悲しいと涙ぐむわたしの横で、日頃涼やかだと絶賛されてる目元が詐欺呼ばわりされる程に朝に晩にと嘆き哀しみ泣き腫らしたまま棒立ちしていた父。

あまりの惨状に祖父が立ち合いを変わった程で。


その後一週間、寝室に引き籠った。

母が生前使っていた病室と化した寝室に。

無理矢理引っ張り出した際には廃人に近かった父。

それが、大公の仕事をこなしながら社交界にも僅かながらに出られる迄に復活出来たのは、偏に忘れ形見の愛娘(わたし)の存在が在ったからだろう。


中身は庶民オバちゃん気質のわたしだが、外見は儚げ草食女子の母に瓜二つというご都合主義。

これぞ外見詐欺の極致!!と突っ込んだわたしは悪くない、筈、と思う……是非とも思いたい。


そして今現在。


「今の僕の恋愛相手は愛する僕の娘だ!彼女を上回る愛せる相手など居よう筈も無いから邪魔するな!!尚反論は認めないっ!!」


『いや!反論するよ娘たるわたしがッ!?』


わたしをぎゅうぎゅう抱き締めながら父が絶叫。


抱っこを通り越した華麗なサバ折りを決められ、息絶え絶えになりながらも内心で叫ぶわたし。

肉食女子御姉様から離れたい気持ちは分かるがまずは落ち着いてわたしを離しやがれ!!とも。


ただ哀しいかな、5歳児の体力では大人の男性には敵わない。離して貰いたくとも言葉も出せない程に父にしがみつかれてるから声を出す事も叶わず。


辛うじて弱々しく父の腕を叩いた後、情けなくもそのまま気を失ってしまったわたし。慌てた父が誰の仕業だ?!と叫んだそうだが併せて言いたい。


『反論もしたいし原因はお前だーー!!』と。


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