手術成功、からの絶望
一日一話投稿です
「じゃ、ケントさん。これで魔法使えますからね」
「・・・・・・・」
「聞いてるんですか?」
聞いてるよ。
人生に絶望してるとこなのに、余計なこと言わないでくれ。
家無し、金無し、でも魔法はあるってか。
「卑屈にならないでくださいよ。折角、魔法使いになれたんですから」
・・・・・そうだ思い出した。
俺は今日から魔法使いなんだよな。
でも何でだ? 俺は今無性に死にたい気分なんだが。
「ダメですよケントさん。あなたは大事な被験者なんですから。いくら絶望してるからって、妙な気でも起こされたら大変なことになりますよ」
俺の名前はケント・ゴールドレオン。辺境の大地、クスタフ地方出身の剣士だ。
この世界では珍しい黒髪族の出身で、今年でちょうど20歳になる。
俺はつい先日まで、近場の酒場でバーテンをしつつモンスター狩りをしていた剣士だった。
収入は雀の涙程度で剣士としてのランクも低かった俺は、モンスター討伐のために結成するクランにも入れず、ソロの剣士として活動していた。
ところが、先日俺はある話を聞いた。
俺のパッとしない人生を一発逆転できるかもしれない大チャンスの話だ。
実は、今この世界には魔法使いが殆ど存在しない。
理由は簡単で、単純に魔法を使える力量のある人がどんどん少なくなってきているからなんだが。
おかげさまで、最近はどいつもこいつも剣士とか弓手とかそんなのばかり。
かくいう俺も、その一人なんだけど。
だが最近、とある魔法研究家が妙な手術を発明した。
因みに妙な魔法研究家ってのは、俺の目の前にいるコイツだ。
「いやあ助かりましたよケントさん。みーんな怖がって手術を受けてくれないんですからあ」
コイツは、魔法研究家のマリン。
超が三つくらい付くほどの、マッドサイエンティストだ。
見た目はガキみたいだけど、年齢は知らない。
ある噂では、結構年を取っているという話も聞くけれど実態は不明だ。
小動物みたいな可愛らしさを持っていて、「何も知らない人からは」結構モテるらしい。
だが、「知っている人からは」毛虫の如く敬遠されている。
「安全だって何回言っても信用してくれないんですう⋯⋯⋯」
マリンのやってきたことを考えれば当たり前だ。
過去にマリンは自身の考案した研究の過程で、いろいろなビッグトラブルを起こしている。
研究室を突然ジャングルにしたり、街中で爆発事故を起こして、主要都市の大多数で出禁になったり。
そんな奴が手術をすると聞いて、真っ先に手を挙げる奴なんてまずいない。
・・・・俺を除いて。
俺は、とある名家の生まれだった。
代々有名な剣士や魔法使いを輩出することで有名だった俺の実家はとても裕福で、俺も最初はそうなるのではないかと言われていた。
家族はみんな優秀で、父親は世界に名を馳せるレジェンド勇者、母親は世界一の魔法使いだ。
兄妹もそう、みんな優秀だった。兄は遠い異国で最強格の剣士としてドラゴン退治をしている。
妹は世界的に有名なクランの一員で魔法使いをしている。母と同じく治癒魔法を使えるのが評価されたらしい。
でも、俺に他の家族ほどの力はなかった。
俺は落ちこぼれだったんだ。
魔力は並未満、魔法なんて一つたりとも使えない。
剣の実力に至っては、並未満なんてもんじゃない。落ちこぼれの中の落ちこぼれだ。
『一族の恥』
俺は知る人のほぼ全員から、そう言われてバカにされた。
結局俺は、大したことも出来ないまま家を出た。
そして低ランクの剣士として、毎日の極貧生活を耐える日々。
家族とはもう何年も会っていない。
兄からは虐められ、親からの期待は一切俺に向けられる事は無かった。
唯一、俺と仲良くしてくれていた妹とすら今は距離を置いている。
手術を受けた理由は何かって?
そんなの単純だよ。俺は強くなりたかったんだ。
そのためなら、マッドサイエンティストだろうが何だろうが構わない。
俺は全てを捧げる覚悟があるんだ。
燃えるような意志で、俺はマリンに全てを委ねた。
そう、燃えるような意志で。
燃えるような・・・・・・・
「ちょ、ケントさん!? 死にそうな顔してますよっ!?」
大丈夫だ、問題ない。
ちょっと現実を思い出して吐きそうになっただけだ。
俺は、手術を受ける間際にある大きな買い物をした。
生きて手術を終えて魔法使いとなった暁には、ここに住もうと決意していた大豪邸。
値段は百億ゴールド。それでも俺は迷わなかった。
五十年ローンを組んで購入した、人生初の家だ。
ところが、購入したのと時を同じくして嫌な知らせが俺の耳に入った。
俺の買った豪邸周辺に強烈な火を吐くことで有名な大魔獣ファイアドラゴンの群れが数十年ぶりに出没し、大暴れしているという知らせだった。
言っておくが、俺は保険などというものには入ってない。
そもそも保険に入るだけのお金もないからな!
結論から言おう。
俺のマイホームは、ファイアドラゴンたちによって吹き飛ばされた。
跡地に残ったのは土台だけになったマイホームと、焦げたちゃぶ台のみ。
大工の人には同情するように肩を叩かれ、「百億ゴールド、ちゃんと払ってくださいね」と半笑いで言われた。
アイツら俺を慰める気ないだろ。
ぶつけようのない怒りと悲しみを抱えたまま、手術を受けた俺。
いっそ何かの間違いで死んだらいいのにと思いながら受けた手術は、幸か不幸か成功してしまった。
「い、生きていればいいことありますから・・・・・」
マリンの励ましの言葉がかえって辛い。
俺は今日から、魔法使いだ。
消し炭になったマイホームと、五十年ローンの百億ゴールド支払い義務を抱えた預貯金ゼロのホームレス魔法使いだ。
唯一の救いは、俺には新たな才能があること。
俺に秘められた魔法がどれ程なのかは分からない。けど、一つこれだけは言える。
「マリン・・・ファイアドラゴンの捕獲ランクはいくつだ?」
「ええっと、確かSSSクラスだったような・・・・・」
SSSクラス。伝説級の戦士じゃなきゃ掠り傷とて負わせられない位の強さということだ。
確か、アイツらの爪と牙はかなりの高値で売れるんだったよな。
「上等じゃねえか・・・・・」
俺は決めた。
強くなって、必ずまたマイホームを買って見せると。
そして、その第一歩として・・・・
「ファイアドラゴンを血祭りにあげてやる」
俺の大事なマイホームを消し炭にした罪を償わせてやる。
こうして俺の、憎きファイアドラゴンをボコボコにするための日々が始まった。
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ケント・ゴールドレオン
年齢 20歳
性別 男
借金 10,000,000,000ゴールド
収入 なし
職業:剣士(無免許魔法使い)
職業ライセンス:荷物運び
所属ギルド:うさぎの小屋
所属クラン:なし
称号:なし
所持装備:錆びた剣(すぐ折れる)