缶コーヒーの隣で
撒かれた打ち水も、まるで無かったことのようにカラリと乾くある夏の朝。
「お疲れさまです」
耳をくすぐるようなふんわりと可愛らしいその声で、彼女は今日も左隣りからそっと声をかけてくる。
すっかり顔馴染みになった僕たちは、今朝もその挨拶から1日が始まった。
同僚たちは既にどんどん補充されて、昨日とは顔ぶれもガラリと変わった中、僕と彼女は今日も隣同士。
そりゃそうだ。なんたって汗も吹き出るこの連日の炎天下。
あったか〜い缶コーヒーや、おしるこ缶を買おうとする変わり者なんか滅多に現れない。
「今日も暑くなりそうですね」
少々気恥ずかしさを残した声で、僕も彼女にお決まりの声をかける。
所詮、一期一会の自動販売機内。
いつもならどんなヤツが隣に来ても、自ら交流を図ることなんてしなかった。
でもこの夏は違った。
彼女と隣同士になってからは、不思議と色んな話をした。
そして気付けば、無糖の僕には無い「甘い魅力」を持つおしるこ缶の彼女に、自然と惹かれている自分がいたーー。
この時間がずっと続けばいいのにと、初めてそう願う熱い今年の夏。
これは自動販売機の中で繰り広げられる、僕たちの一夏の切ない恋物語だ。
小説家になろうラジオの特別企画
「なろうラジオ大賞4」応募作品です。
『缶コーヒー』を題材にした投稿作品、
少しでもお楽しみいただけますと幸いです。