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三題噺もどき2

水中図書館

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくろく。



 灰色の雲が立ち込める。

 太陽はその姿を厚い壁の後ろに隠し、その光をひとかけらも地に落とさない。

 どこまでも暗く、思いその空から。

 1つ1つ。

 水が落ちてくる。

「……」

 それは少しずつ勢いを増し、数を増やす。光の代わりだとでもいうように、地に落ち続ける。

 その中を、人々はあちらへこちらへ。走り掛けていく。

 雨具を開くものも居れば、被るものもいる。急な来訪だったのだ。まぁ、対応もまちまちだろう。

「……」

 人々があわただしく歩くその中を、1人。静かに歩いている。

 もちろん、雨具を開いて。何せ、水が降り始めてから外に出てきた人間なもので。それで、雨具を持たないのは、単に持っていないかモノ好きかだろう。

 それに今は手ぶらではない。いや、雨具を持っているから手ぶらではないのは言うまでもないのだが。濡れてしまうと困るものを抱えているので、雨具を持たないわけにはいかないのだ。

「……」

 一応ビニール袋に入れたうえで、鞄に入れて抱えてはいるが、濡れるのは普通に困るし、自分にとってもストレスだ。

 借りものとなればなおさらだろう。

 個人的な意見だが、そこらの他人より今抱えている“本”の方が大切なのだ。

「……」

 まぁそこはいいとして。

 さっさと目的地に向かおう。

 この様子だと、今日これからはずっとこの調子だろうけど。早めにいかないと閉まってしまう可能性がある。何度かそれで逃した。

「……」

 開いた雨具が他人に当たらないよう気にかけながら、人ごみを抜けていく。

 靴が多少濡れてきたが、本が濡れるよりはマシだろう。

「……」

 ざわざわと蠢く人の中を抜け、一本の路地裏に入る。

 そこは不思議と、雨具を広げていても余裕があるほどの広さがある。何ににも引っかかることなく、するすると歩けてしまう。

「……」

 そうやって、一本の路地裏を抜けると。

 突然開けた場所が目に飛び込んでくる。

「……」

 毎度思うが、よくこんな雑踏に開けた場所があるものだと感心する。

 何度、ここは別のどこかではないかと思ったことか。

 実際そうなのかもしれないが。

 それはそれで面白いから、いいかもしれない。

「……」

 そこにあるのは、見上げるほどの高さがある巨大なドーム状の建物。

 広さ自体はさほど大きくない。きっと。

 正確な広さは知らないが。中を歩き回っても疲れない程度だ。

「……」

 雨具を閉じ、入り口にある箱の中に立てる。

 どうやらすでに数人来ているようだ。

 自動ドアをくぐると、そこに広がるのは本の森。

 ぐるりと本で囲まれた室内が広がる。

 ジャンルごとに分けられた棚。

 そこから少し離れたところに、椅子が数台。

「……」

 司書さんは居るにはいるが。カウンターで無言で本を読んでいる。

 ここに会話はない。お静かにだ。

 ペラ―と本をめくる音と。

 スーと本を抜く音。

「……」

 ポツン――と、雨がドームを叩く音が響く。

「……」

 返却するために持ってきた本は、そのまま自分の手で棚に返す。

 分からなければ、検索すればいいし。最悪司書にでも頼める。

「……」

 一直線に本棚へと向かい、とりあえず今日の返却分をかえす。

 そのままの流れで、次の本を手に取り、近場の椅子に座る。

「……」

 きぃ―

 と揺れるそれは、椅子というには少しあれか。

 公園でよく見るような、ブランコと言われるものだ。

 1人用。もちろん。

 点々と置かれる椅子は、揺れていたり、止まったままだったり。

 それはまぁ、人それぞれ。

「……」

 軽く足で地を蹴って。

 ゆらりと揺れる椅子の上で。

 ペラ―と本をめくっていく。

 ドームを叩く雨の音が、内側に響き、跳ねて、消えて。

 ブランコに乗っているせいか、浮遊感も相まって。

 水中にいるように思えてしまう。

「……」

 ここは雨の日にだけ開かれる図書館。

 返却期限は、次の雨が降る日。




 お題:雨・ブランコ・図書館


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