在り来りなお話
これは、在り来りな、よくあるお話
ジリリリリリと鳴る目覚ましの音で、目が覚める
「ふゎ〜あ…眠…」
台風でも来て学校が休みにならないかなぁと誰もが考えるような事を思いながら時計を見る
「…やばっ!〝遅刻〟する!」
普段よりも30分以上遅い起床時刻を示している時計を見て一気に目が覚めた俺は慌てて飛び起きて制服に着替える
教科書よし、筆記用具よし…危ねぇ体操服も要る日だった!
荷物を纏めて二階にある自室から飛び出し、階段を駆け下りる
「来利!朝ご飯は?」
足音が聞こえたのか、母の声がした
「遅刻する!食ってる時間無い!」
「じゃあほら!トーストだけでも!」
母から〝ジャムが塗られたトースト〟を受け取った俺は、家を飛び出し通学路を全力で走る
学校まであと少しという所で、〝曲がり角から飛び出してきた人とぶつかってしまう〟
「おわっ!」「きゃっ!」
互いに尻もちをついてしまった
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あたた…ああ大丈夫ですよ」
相手は同年代の女子のようだが、見た事のない制服を着ている
「…ってやば!すみません急いでるので!」
それだけ言い残し再び学校まで走り出した
何とか遅刻することなく間に合った俺は、〝教室の1番後ろ、窓際〟にある自分の席に座る
「お、来利ギリじゃん!」
「あわや遅刻する所だったわ、過去一の全力よ」
〝前の席に座っている親友〟と喋っていると、担任が教室に入ってきた
「えー、今日はみんなに〝転校生〟を紹介する」
先生のその言葉にみんながザワつく
先生に呼ばれ教室に入ってきた転校生を見て、俺は思わず声をあげそうになる
彼女は確か、朝ぶつかった…転校生だったのか
「今日からこの学校に転校してきました、有栖川です!よろしくお願いします!」
「よーしじゃあ有栖川の席は…在里の〝隣の席が空いてる〟な」
「なっ!」
在里…つまり俺の隣の席はたしかに〝たまたま空席〟だ、だが困ったぞ…〝彼女いない歴=年齢〟の俺の隣に女子だと…
「あの…隣、失礼しますね」
「うぇ!?あ、は、はい!」
リアル美少女にいきなり話しかけられた俺の動揺を他所に転校生、有栖川はニッコリと微笑む、やべぇ、めっちゃ可愛い
「っと、ゴタゴタしてホームルーム長引いたな、このまま一限始めるぞ!…在里!有栖川の教科書まだ届いてないから〝教科書を見せてやってくれ〟」
「なぁっ!」
「あの…よろしくお願いしますね」
有栖川は机をずらし俺の机にぴったりとくっつける
「えっと…在里くん、でしたっけ?」
「あ、は、はい!在里来利です!」
「よろしくお願いします、来利くん」
「ひゃ、ひゃい!」
不味いな、女子との関わりの無い学生生活を送ってきた俺にとってこの無垢な天使は刺激が強すぎる…
とは言ったものの人間は成長する生き物だ、4限が始まる頃にはすっかり慣れ、有栖川が至近距離に座っているのも慣れた
そしてさっき聞いた話だと有栖川の教科書は昼休みには届くらしくこの授業が最後の関門だ
「…ん、来…くん!」
しかしなんだろうこの感覚、声は聞こえるのに身体が上手く動かない、なのに心地良いこの感じは?
「来利くん!」
有栖川の声と同時に頭に固いものがぶつかった痛みと衝撃で意識が覚醒する
「いい度胸だな在里、〝授業中に居眠り〟とは」
「…すみません」
世界史担当の尾上は親の敵でも見るかのような目で俺をひと睨みし、授業を再開した
「…てか今時チョーク投げるかよ」
「何か言ったか?」
「いえ、何も!」
昼休み、俺はいつものように1人で〝学校の屋上〟で横になっていた
「おっと、居眠り王子はやっぱりここに居ましたか」
目を開けると、親愛なる悪友1号がニヤニヤとした顔で俺を覗き込んでいた
「何の用だ、俺の貴重な睡眠を邪魔しに来たのか?」
「まさか、俺だってたまにはここでのんびりしたい時もあるんだよ」
そう言い奴は俺と同じように屋上に横になる
「…平和なもんだな」
「だねぇ」
午前中はずっと気を張りっぱなしだったからか、何だかんだ付き合いの長いコイツと駄弁るのは楽しいものだ
午後の授業を終え、ホームルームを話半分に聞き流した俺は荷物を纏め帰ろうと席を立ち上がる
「あの、来利くん」
「うぇ!?な、何か?」
いきなり有栖川に話しかけられ驚いてしまう
「私、部活動がまだ決まっていないんですけど…来利くんは何処に所属してるんですか?」
「ああ有栖川さん、コイツに聞くのは間違いだよ」
親愛なる悪友1号が有栖川に声をかける
「コイツ、万年〝帰宅部〟だからさ、何なら俺が案内しようか?」
「帰宅部…分かりました、それじゃあ気になってる部活動を幾つか見学してみますね」
そう言い有栖川は教室から出ていってしまった
「ありゃ?」
「フラれたな」
「いやいや、これはまだ好感度が足りないだけ!これから稼げばいいんだよ!」
元気な奴だなぁと、そう思った
学校からの帰り道、いつもと変わらない街並み
買い食いでもして帰ろうかと思っていると、夕方5時を知らせる音楽が聞こえてきた
「る〜るる〜る〜るる〜る〜…ん?」
ふと、違和感を覚え背後を振り向く
「…なんだ、あれ」
真っ黒な何か…闇そのものと言って差し支え無いような何かが街を飲み込みながらこちらに迫ってくる
「おいおいおい!何なんだよ!」
急いで逃げ出そうとして、足が地面から離れない事に気が付く
下を見ると、地面も黒い何かに覆われ、そこに触れている足が全く動かせなくなっていた
さらに周りを見ると、あちこちから闇が迫ってくる
しかもおかしな事に街の人々はそれに気が付かないのか、まるで何も起こっていないかのように過ごし、闇に飲まれてゆく
やがて全身が闇につつまれ、首から上を残し黒く塗りつぶされる
何なんだよ…寝坊したのが駄目なのか!?居眠りか!?
もう…こんなの…
「〝こんなの懲り懲りだぁ〜!〟」
これは、〝在り来り〟な、よくあるお話