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元地上最強、始動

「詳しく話せ」


 「はい、かしこまりました。インペリウム帝国トーナメント、通称”最強決定戦”は今から10年前、ちょうど私たちがこの街に来た頃より始まった国の威信をかけた一代イベントです。趣旨としては貴族平民の括りなしに大会を開くことで野に埋もれた実力者を見つけ出すことです。裏の目的としてはもちろん突然変異や隔世遺伝で生まれた騎士の卵の囲い込みはありますが敵国に対する武力誇示が上層部の目的です。」


 「建前だけは立派だな。平民の誰でも参加できることで一山当てようと狙うバカどもは簡単に誘い出せる。そこで貴族の貴族たる力を見せつけることで恐怖支配を盤石なものにできるか。当然他国への威圧もあろうがこっちの方がしっくりくるな。」


 「なるほど・・・。そのような考え方もできますね」


 「まぁ、目的などどうでもいい。ルールは?」


 「ルールは至ってシンプルです。1対1のタイマン、防具の使用一切禁止。これだけです。魔術は種類に関わらず使用可能。武器の使用も認められています。盾は防具ですが例外的に認められてます。防具が禁止なのは防具の性能次第では試合が長引くからです。それに国柄として守りより攻めに重きが置かれていますからね。」


 「くははは、いい、実にいい。実に俺好みのルールだ。イリス!俺はその大会に出るぞ!奴ら(・・)にも伝えておけ。」


 「はい、かしこまりした」


 この世界では15で成人だ。実質追放状態の俺をどうにかする権限などドニゴール家の人間にあるわけがない。もし俺をどうにかしたければ実力でねじ伏せるしかないであろう。もっともそれができる人間がいればの話ではある。


 開催まではあと一月。森の中を突っ切れば大体2週間ほどで開催地である王都にたどり着く。それまではハイロイドで鍛錬を続けるとしよう。王都はダンジョンなる不思議空間こそあれど周囲の魔物は弱いと聞くからな。


 それから2週間、大会に向けて鍛錬を重ねた。そして俺とイリスは10年過ごしたハイロイドを後にした。


 シェラートたちがハイロイドを出立するのと時を同じくして魔の森の奥地が震撼し、貧民街が騒がしくなった。冒険者ギルドでは落ちぶれた若者が消え、裏路地では老人が1人消えた。そして貴族街からも何者かが這い出て街の外へ消えていった。


 ハイロイドは辺境。この世の地獄だ。人が消えるなど日常茶飯事でしかない。この時ハイロイドに住む人間はそう思っていた。しかし、この大会が人々の常識を、日常を、世界を破壊し、新たな混沌をもたらすことになろうとは誰も予見していなかった。


 ただ1人、シェラートを除いては。


 俺の生家でであるドニゴール家はこの帝国の最高戦力の家系だ。当然王都にも屋敷を構えており、現在では王都で騎士となった長兄ルーソン、同じく騎士となった長女パトリシア、そして騎士養成機関の最高学年となっている次兄セシルが王都にいるようだ。


 なんという奇縁かドニゴール家の跡取りが全員ここに集結したと言うわけだ。もちろん俺に弟か妹が出来ていないという前提ではあるが。


 我がスーパーメイドのイリス曰くルーソンとセシルもこの大会に選手として、パトリシアは治療班として参加するらしい。で、あればどこかで当たるかもしれん。まぁ、その時は存分に殺し合うとしよう。


 俺は会場となるコロシアムへと足を運んだ。なんでもこの大会のために王都の魔術師総出で作り上げた代物らしい。見上げるほど巨大な建造物を城以外でこの世界で見たのは初めてかもしれん。なかなか斬り甲斐がありそうだ。


 魔術を使う関係からか地球にあった地下闘技場よりもかなりでかい。野球場は間違いなくすっぽり入るだろう。


 その会場へ続く道には大会に出場しようと老若男女が長蛇の列を作っている。仕方あるまい、これは秘魔術を使えない平民が唯一成り上がれる方法なのだから。パッと見ただけでも全身を魔道具で固めた貴族のボンボンや冒険者としていくつか修羅場を潜ってきたような雰囲気を持つものなど様々だ。


 しかし、地球とは違い、誰も武器など持っていない。せっかくの異世界だというのに剣の1つも見当たらない。実に物悲しい。


 剣などという時代錯誤の得物を持っている俺は珍しいのかよく視線が集まる。その視線の多くは、やはり憐れみや嘲笑の類だ。それか無関心。ごく稀にではあるがこちらを警戒している視線も感じることができる。そういった視線を向けてくるやつほど死線を潜ってきた猛者の面構えだ。


 「おいおいおいおい!なんでこんなところに剣なんておもちゃを持ったガキがいるんだ!?」


 「ギャハハハ!ほんとだ!剣なんて持ったやがるぜ!このガキ!」


 「こんなところに並んでないで、魔道具も買えない貧乏人は帰ってママのおっぱいでも吸ってろってんだ!」

 

 また絡まれた。この手の輩はこれで5組目だ。しかし、なかなかどうして新鮮だ。前世では絡まれた経験などほぼなかった。というのも物心ついた時には戦場を転々としており、日本に戻った頃には裏はもちろんのこと、半グレに至るまで俺の名が轟いていた。


 こっちの世界では幼少期はイリスに守られ、成長するまでは魔の森で人目につかないところで一日の大半を過ごしていたために誰かと会うことすら稀だった。


 なのでこうして絡まれる機会はなかなかに稀有なのだ。


 ところでこの手のバカが湧き出るのは別に俺相手に限ったことではない。バカは自分が勝てると思った相手がいれば沸く。ここに並んでいるだけでもちょくちょくトラブルがあるが大会運営と治安維持機構である衛兵や兵士は動くことはない。それはこの大会の目的にも関係している。


 この大会は騎士の卵や野に埋もれた才能を発掘するのが目的。チンピラ程度に負ける奴など不要というわけだ。ちなみに他者に絡むようなチンピラも同じく不要だ。真の強者は弱者相手に絡まない。


 つまり、ここは治外法権。貴族等の身分の高いものが相手じゃなければ切り捨て御免が通じる。まぁ、命を奪えば何か咎められるかもしれないが殺せば死人に口なしだ。そんなことをぼんやりと考えていたら絡んできたバカどもがますます調子に乗り始めた。


 「こいつビビって声も出ねぇぜ!」


 「ギャハハハ!その剣は飾りかよ!!」


 「おいおい、本当のこと言ってやるなよ〜泣いちゃうだろ!」


 ふむ、先ほども血祭りに上げてやったが見てないのか?こうしたバカを相手にするのは新鮮ではあるがどうも弱いものイジメどころか一方的な虐殺にしかならん。正直言って飽きた。


 「ちょうどいい、貴様らには見せしめとなってもらうとするか」


 「なんだと!このガ・・・??」


 ちょっと言い返しただけですぐにキレる。やはり単細胞だ。しかし俺を前にして構えもせずただ大声を出すだけに止まるとは。実戦経験皆無か?


 まずは軽く一歩踏み込んで一番近くにいたゴミを下から掬い上げるように抜刀しつつ真っ二つにする。その死体を残る2人にそれぞれ蹴り飛ばし行動を阻害。まぁ、そんなことをしないでも驚きで武器を構えるどころか声すら出せないようではあるが。


 続けて近くにいた方に接近。足を切り飛ばし、視線が下がったところで顔面に蹴り。そのまま地面に叩きつけて頭蓋を割る。即死。


 直後背後に感じる熱。仲間が2人ほど死んだところでようやく迎撃を選択できるようになったようだ。だが、いくら魔術とはいえ、所詮はただの火だ。斬れない道理はない。だが、今回は斬らない。魔術を斬れるとまだ知らしめるわけにはいかない。


 振り向きながら向かい来る火球に対して滑らすように剣を振るう。叩き切るのではなく相手の力を利用し受け流す柔剣術。コクガの日に日に重くなる拳を逸らすために身につけた剣だ。


 「なっ!?」


 確実に当たると思っていたのだろう。外れた後に即応できていない。ただみっともなく声を上げるのみだ。

 

 「消え去るがいい」


 火球を逸らしたことで得た反動を推進力に変え一気に間合いを詰める。この程度歩法を使うまでもない。そのまま火球を放ってきたやつの横を駆け抜ける。その際に容赦なく剣を振るう。


 一瞬で無数の剣線がチンピラの体に刻まれる、断末魔をあげることなくチンピラはサイコロステーキへとジョブチェンジした。大丈夫だ、某先輩のようにきっと人気になるさ。


 これまでは剣を抜かずに体術のみで圧倒していたが、今回は初めて惨たらしく虐殺してみせた。これで俺に絡むバカも減るだろう。


 俺の目論見通り、血の匂いを全身から漂わせた俺に絡んでくるバカはいなくなった。それどころか俺の周囲は空いている。バカも一般人も冒険者も俺を危険人物として避けるようになった。見慣れた光景だ。問題ない。


 それから少しして無事出場選手として登録が完了した。


 騎士の身分にいる奴らはこんな予選からは参加しないらしい。また、名前の売れている冒険者や任意の実力判定試験で好成績を出したものも予選を免除される。しかし、それは魔術専用なので俺には縁のない話だ。


 予選会は有象無象が100人単位で闘技場の上に乗せられ、戦闘不能になるか闘技場から落ちたらその時点で失格。もちろん降参もあり。これは緊急脱出用の魔道具を使えば可能らしい。積極的に殺しに行くのは不可ではあるが、事故で死んだ場合も罪には問われないらしい。まぁ、一瞬で戦力を増強できるこの世界では命の価値は軽いゆえ仕方のないことだ。


 予選会は登録した人数が100人に到達するたびに行われているらしい。そして締め切り日の翌日に余ったものたちで試合を行い予選を通過する人間を決める方式らしい。


 俺はちょうど100人目のようだ。登録したばかりではあるが予選が始まる。


 さて、天下に我が名を知らしめる第一歩を始めようじゃないか。


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