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決勝トーナメント第2回戦終了

 「ククク、ウーのやつ楽しんでるみてぇだな」


 「あら?どうしてですか?」


 「今の顔面への着地、ウーはおそらく自身の元の体重に戻したはずだ。自身の体重を自由に操れるにも関わらず。あれで決めようと思えば決められたはずだ。」


 「なるほど。」


========================================= 

 ただでさえ上体が反れていたところに加え顔面に強い衝撃を受けたマクネサはついにその巨体を地面へと横たえた。


 ハイロイド組を除く全ての観客に激震が走った。


 盾とは味方を守り通す信念を持つものだ。全ての攻撃は盾で防がれ、決して背後には通さない。

 盾とは決して倒れぬもの。盾が倒れれば背後に守っている全てのものが命の危機に晒される。

 盾とは敵の戦意を挫くもの。全ての攻撃を防ぎきりそして前に前に一歩一歩進みその威容を敵に知らしめるもの。


 帝国で代々教育されている盾を持つものの矜持だ。これは理想形だ。実現はかなり難しい。しかしそれを完璧に実現し数多の戦場で味方を守りきり敵の戦意をことごとく挫いてきたのがマクネサなのだ。


 マクネサは完璧な盾であった。それが認められついには皇帝の盾という称号まで手に入れた。その至高の盾が今、その身を地面に横たえている。その上には国全体が蔑み捨てた落ちこぼれの元騎士の老人が立っている。


 これは悪夢だ。天覧席で高みの見物を決め込んでいた貴族の1人が呟いた。


 そう、悪夢だ。これまで他国に対して圧倒的な優位を見せていた守りの要、皇帝の盾であるマクネサが落ちこぼれ相手に無様に地面に転がされている。さらには相手は顔面の上に立ちあまつさえ鼻血まで流す始末。もうそこには皇帝の盾として猛威を振るっていた勇敢な巨人の姿と威信はどこにもなかった。


 ウーは足元のマクネサをチラリと見ると腹部へと痛烈な蹴りを叩き込んだ。非常に重く頑丈な鎧を身につけていたがたった1撃で鎧はひん曲がりダメージをマクネサに伝えた。


 「ガハッ・・・!・・・はっ!」


 その一撃でマクネサが意識を取り戻した。


 「よう、皇帝の盾ってのは随分と寝坊助なんだなぁ。まさかこんな戦いの最中のおねんねとは。わしが起こさなければお前さん死んでたぜ?」


 「かっああああ!」


 ウーの言葉を聞いたマクネサが憤怒と恥辱で顔面を真っ赤にしながらウーを殴り飛ばした。しかしウーは空中で回転しながらその勢いを完全に殺し、何事もなかったかのように着地した。


 「あのままトドメをさせばよかったのだ!貴様はどこまでこの俺を愚弄する気だ!」


 「そう怒るなよ若いの。わしにとってちょうどいい相手なんだよ。全力を出しても壊れずちょうどよくヤられてくれるお前さんは。それに年上に対する態度もなってねぇからな。教育だ教育。全く、皇帝の盾も聞いて呆れるね。まさか戦場でおねんねするのが盾だなんて。」


 「貴様あああああああ!」


怒り狂ったマクネサが雄叫びをあげた。


 「もう許さん!命だけは助けてやろうと思ったが、俺だけに止まらず皇帝陛下が下さった皇帝の盾の名まで愚弄するとは!その大罪、死んで償え!【巌窟王】!!!」


 マクネサの体が光に包まれる。これまで格下相手だと高を括り秘魔術を使わずこの場に立っていたマクネサ。しかし攻撃を防がれ、意識を奪われ、さらに気付けまでされるという屈辱についに本気を出す決意をした。


 マクネサの秘魔術【巌窟王】。これは実にわかりやすい魔術だ。なんて言ってもマクネサの巨体がさらに一回り大きくなり全身が岩で覆われた化け物へと変貌したのだから。


 「ほー、それが噂に名高い皇帝の盾の秘魔術かい。まるでゴーレムだ。」


 『コノ、肉体ハ ドンナ 魔術モ トオサナイ。無論 ドンナ 武器モ 技モ ツウジナイ。ドンナテヲ ツカッタノカ フメイダガ 我ガ秘魔術ノ マエニハ ムリョク。オマエ ノ スベテヲ ヒテイシテヤル。アットウテキナ 力デ ネジフセテヤル』


 「へぇ、どんな武器も技も通じないねぇ。そんなものは存在しないってわしは思い知らされたよ。想像してみんしゃい、ミスリルで出来た巨大なゴーレムが一刀両断される様を、どんな魔術すらも通じないとされていた竜の鱗を素手で砕く様を。わしが来たのはそんな化け物たちが現れ始めた街なんだぜ?その誇り、傲慢、全てわしがへし折ってくれやろう。・・・こう言った方がわかりやすいか?やれるもんならやってみんしゃい、小僧。」


 ウーの言葉が終わるか終わらないかのうちにマクネサが飛び出した。どうやら秘魔術で上昇したのは防御力と質量だけでなく身体能力そのものも向上しているようである。開始直後より速くて重くて硬いシールドバッシュがウーを襲う。


 今度なんの音も響かなかった。確かにマクネサのシールドバッシュはウーに直撃していた。現に体重の軽いウーはその衝撃でクルクルと回転しながら宙を舞っているではないか。


 違和感に最初に気がついたのは他でもない攻撃したはずのマクネサであった。一度目は凄まじく巨大な岩に激突したかのような激しい衝撃を受けたため警戒していたのだが、今度拍子抜けするほど手応えがなかった。


 まるで羽でも殴っているかのような感覚だった。


 「おー、思ったよりも飛んだな。戦い方は全くなっちゃいねぇが力だけは無駄にあるみてぇだな。ま、力だけじゃわしには通じんがな。ほれ、もう一度やってみぃ」


 スタスタとポケットに手を突っ込みながら再びマクネサの間合いになんの構えもなしに踏み入れるウー。それを挑発と取ったのか油断と取ったのか不明だが、一撃目よりもより早くより重くより破壊力を増したシールドバッシュがウーに叩き込まれた。


 一撃目は胴体に叩き込まれていたが、二撃目はより確実に仕留めようと顔面を目掛けて放たれた。もしこれが普通の人間ならば間違いなく首から上は彼方へ吹き飛んでいるであろうほどの威力。


 人を容易に破壊するだけの威力が込められた打撃もウーには通用しない。今度は吹き飛ぶどころかその場でひらひらと回転するだけに止まった。


 「気功法:無力羽身」


 ウーの守りの気功の1つ、無力羽身。気功法によって自身の体重を極限まで軽くし、それと同時に全身の力を完全に抜くことで全ての衝撃を受け流す究極の受け技。俺の歩法、瞬迅より発想を得たウーのオリジナル技だ。


 何事もなかったかのように地面に降り立つウー。その目の前には突き出されたままの場所で止まっているマクネサの盾。


 「1つ小僧に教えてやろう。戦場ではな打ち出される武器のこそ隙が生まれるってもんだ。気功法:浸透螺旋掌」


 ウーがマクネサの持つ盾にそっと触れた。それだけで闘技場を破壊するほどの凄まじい衝撃波がマクネサの体を貫いた。


 浸透螺旋掌、ウーの攻撃型気功の1つ。気功を用いた基本的な打撃技である発勁、あるいは寸勁を気功法という魔力を気に変換できる特殊な秘魔術をもつウー専用に考案した技。


 ウーは気功法のおかげで気を遠距離攻撃用の技として飛ばすことができるようになっているためにわざわざ浸透と頭につけてある。浸透の頭文字が示す通りこれは気を直接ぶつけるわけではなく内部に浸透させて破壊する技。そしてウーはその気を螺旋状に回転させて放つことでわずかな動作でも圧倒的は破壊力を生み出している。


 ガランと大きな音がしてマクネサの腕から盾がこぼれ落ちた。


 『ぐっおおおおおおおおあおあおあおおおおあ!!!』

 

 マクネサの口から声にならない叫び声が聞こえてきた。見れば強靭な肉体が強靭な岩で覆われているはずの腕がぐちゃぐちゃに破壊されていた。


 「わしが弱くで騎士を辞めさせられたってのが死に値する大罪ってのなら、その元騎士にダメージを負わせることなく無様に盾まで落とした皇帝の盾さんは一体どんな罪になるんだろうなぁ。」


 小さく、だが確実にマクネサに聞こえるようにウーが呟いた。


 「気功法:気弾」


 拳大ほどの大きさの気弾がマクネサの両足を穿つ。魔術は効かないマクネサの肉体も気功なら通用するようだ。破壊までは出来なかったがマクネサを崩れ落ちさせるには十分な威力を持っていた。


 「これで仕舞いだ。気功法:無力剛打」


 無力剛打。ウーの攻撃型気功の1つ。羽身と同様に全身の力を抜くことで生まれた無から有へのエネルギーの振れ幅を使った超破壊特化の技。俺はこのエネルギーを速度へと返還させたがウーは火力に変換させたというわけだ。


 極めて脱力した状態から放たれる一撃は気功法によって体重まで振れ幅を作ったことでさらに上乗せされる。そしてウーは同じく気功で肉体を鋼以上の高度にも作り替えることができる。


 つまり、速さ・重さ・硬さの全てがゼロからMAXまでの振り幅で放たれることになる拳打の破壊力はまさに想像を絶する。この一撃だけは俺にも匹敵するほどの威力がある。


 ドゴッ!!!!


 ウーの拳がマクネサの胸に突き刺さった。鈍い音がしてその衝撃が全身を駆け巡り背中で弾けた。そのあまりの衝撃はマクネサを覆っていた岩の鎧の背中部分が全て弾け飛ぶほどだった。


 この一撃で勝負あり。ウーがくるりと背を向けた頃にゆっくりと地面にその巨体を横たえたマクネサ。当然意識は失っており試合続行は不可能だ。


 「勝者:ウー・グォー・シュー!」


 審判が宣言する。それは落ちこぼれと蔑まれた元騎士がそれでもなお己を磨き続け、見事にその誇りを取り戻した瞬間だった。


 皇帝の盾の敗北、それは凄まじい激震となって帝国を駆け巡った。しかも敗れた相手は陰湿なイジメの上に蔑み使い潰し、吐き捨てるように追放した元騎士。


 それが辺境の地で力を付け、圧倒的な実力で帝国最強の盾を破壊し尽くした。


 もはや国の面目が丸潰れどころの話ではない。帝国の威信などすでに塵と化してしまっていることだろう。


 慌てに慌てた皇帝はすぐさまウーを連れてくるように命じるがすでに気功を完全にものにしているウーを並の兵士が捕まえられるはずもない。いや、兵士どころか魔術を完全に封殺するマクネサを最も簡単に破ったウーを捕まえられる者は騎士でもいないだろう。


 それにあの戦闘を見ていた者たちはウーを相手にするのに尻込みしている。それもそうだろう。ほとんど全ての騎士がウーに対して直接間接を問わずなんらかの嫌がらせを行なっていたのだから。


 そんな裏事情があったためにウーが捕まることはまずなかった。


 裏ではウーのことでバタついていたが、それと時を同じくして闘技場でも信じられないことが起きていた。


 「しょ、勝者、ジンテーゼ」


 それはあまりに一瞬の出来事だった。ジンテーゼの相手は騎士だった。貴族出身で差別意識の強い非常に嫌われ者ではあったがその実力は折り紙付。【重力(グラビティ)】という重力を操作する秘魔術を駆使し、相手を跪かせながらレイピアで痛ぶるというのを得意としていた。


 【重力】はウーの気功法の劣化に見えるがウーのは自由度が高い代わりに原則として触れなければ作用しない。しかし【重力】は一定距離以内なら自由に発動できる強力な魔術だ。


 この秘魔術は放たれた魔術にも影響を及ぼす。つまり術者に近づけば近づくほど重力は増え、魔術は届かない。そのままゆっくりと近づき、有効範囲に入った瞬間に相手に【重力】を発動する。それが必勝パターンだった。


 今回もその騎士は試合開始と同時にいつものように自身の周囲に【重力】を発動。相手の出方を伺おうとしたところで迫り来る壁を目にした。


 そう、壁だ。迫り来る自身の背丈を遥かに越す壁に対して超重力は有効だろうか?おそらく有効な場面もあるだろう。しかしその壁はなぜか魔術が効いていないようであった。


 その騎士はそのまま壁に殴り飛ばされて場外へ吹き飛んだ。闘技場の壁に叩きつけれた騎士は両手両足の粉砕骨折に背骨まで砕けていたという。長期離脱は間違いないだろう。


 対峙していた騎士は何が何だかわからなかっただろう。しかし観客たちはしっかりと目撃していた。ジンテーゼと呼ばれた男の手がクラーケンの足に変化したのを。


 これで残すところ騎士がエリファス1人、そして帝国からの推薦者がエリファスとセシルの2人のみにまで数を減らすという想像を絶する大波乱を巻き起こした第2回戦がこの試合で全て終了した。


 いよいよ因縁と因縁がぶつかり合い、ハイロイドより進出してきた猛者どもがついに激突しあう準々決勝が始まる・・・!


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