表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/29

決勝トーナメント第1回戦(シェラート)

 「そこまで!」


 突如響いた声に俺は剣を止める。そして今度こそ手加減抜きの殺気を声の主、皇帝へと叩きつけた。


 「も、もう、それくらいにしてくれ。」


 正直なところ水を刺されてだいぶ腹立たしいが、ひとまず俺の力を知らしめることはできたはずだ。エリファスが相手だった故に少し熱くなってしまったがこれは開会式の余興。ここで殺してしまってはもったいないな。


 「・・・興が削がれた。よかったなぁエリファス。守るべき皇帝に助けてもらって。」


 「き、貴様!」


 「テメェは負けたんだ。今は大人しく寝ていろ。」


 皇帝が止めてくれたにも関わらず反抗的な目でこちらを睨みつけてくるエリファス。敗者の弁には何の価値もない。これ以上意識があると何をされるかわかったものではないので顎を蹴り飛ばし昏倒させる。これで静かになった。


 俺は殺気を収め剣を仕舞った。これで開会式前のデモンストレーションは終了だ。これぐらい脅しておけば俺を侮ったり刺客を送り込んでくる奴はいないだろう。


 剣を仕舞った状態でしばし待つも誰も何も発しない。まるで金縛りにでもあったかのようだ。時間的にそろそろ昼飯時だ。腹も減ったことだし早めに開会式を終わらせようではないか。


 「そこの皇帝が使い物にならぬゆえにこの俺が宣言してやろう。これよりインペリウム帝国トーナメントを開催する。出場者諸君、心してこの俺に挑んでくるがいい。全身全霊を以って相手をしよう。以上だ。」


 俺はそれだけ宣言すると会場を後にした。俺に続いてハイロイド組も会場を後にしたようだ。俺はそのまま宿へと戻ったが残っていたイリスが言うには会場は前代未聞も出来事に大混乱となったそうだ。


 一部の馬鹿どもが俺の捕縛に動こうと叫んでいたらしいがこの国最強の男をあっさりと殺しかけた俺を相手にするとなっては尻込みし結局皇帝の一声で動くことは無くなったそうだ。


 エリファスはそのまま救護室へと運ばれたが容態が回復するかは不明。国として威信をかけて外部へ武力を見せつけようとした矢先にこの体たらくとなっては面目は丸潰れだ。国上層部は相当苦悩しているとのことだった。


 いったいどこからその情報を仕入れてくるか不思議ではあるが今更感はある。女には触れない方がいい秘密の1つや2つはあるものだ。気にしない気にしない。


 混乱こそあったものの、大会は行われるようだ。まぁ、名も知れぬ俺1人に狂わされました。中止します、ではそれこそ国が舐められる。上層部は無理にでも開催せざるを得ないだろう。


 予想通り大会は継続されるようだ。宿に戻って数時間後には組み合わせ表が届いた。ハイロイド組は見事に別れているようだ。少なくとも準々決勝までは当たることはない。そして俺の山のシードにはやはりと言うべきはエリファスがいる。

 

 そのほかにもSランク冒険者が2人、騎士がエリファスのほかにもう1人と文字通り死のグループとなっている。しかもご丁寧に毎試合毎試合俺が強い相手と戦うことになっている。明らかに運営側の作為を感じる。


 「まぁ、なんであれ食い破るだけだ。」


 翌日、早速俺の出番が来た。俺は決勝トーナメントの初戦を飾るようだ。


 控室で体をほぐしているとすぐに名前を呼ばれた。そのまま係員の誘導に従って闘技場へと進む。それまでザワめいていた闘技場は俺の登場で水を打ったように静かになった。


 くはは、俺は恐怖の象徴か何かか?まぁいい。恐れられることは別段今世に限ったことではない。


 その静寂を破るようにカツンカツンと足音が響いてきた。どうやら対戦相手様のご登場のようだ。


 そいつが現れた瞬間に会場は先ほどまでの静寂が嘘のように爆発的な歓声に包まれた。まるで正義のヒーローの登場のようだ。おそらく運営もそれを狙ったのだろう。


 「これはこれは、また随分な騒がれようだな。Sランク冒険者様?」


 「ふっ、無理もない。君の昨日の傲慢極まりない態度に何か不正な手段を使ってのエリファス殿への攻撃。どれもこの国で生きる者からしてみれば許されざる大罪だよ。その罪、このインペリウム帝国所属のSランク冒険者、【神射】のウォルドロンが贖わせてあげよう」


 高らかと宣言し魔道具らしきものを天高く掲げるウォルドロン。そして巻き上がる歓声。観客の中ではすでに勧善懲悪の舞台が完成した様だ。


 「面白い。出来るものならやってみるといい」


 俺の挑発にウォルドロンの殺気が膨れ上がるのを肌で感じる。なかなかいい殺気を出すものだ。口角が上がるのを抑えられない。


 「はじめ!」


 剣の間合いにはだいぶ不利なほど離れたところが開始位置となっている。そこに俺たちが着いたのを見計らい、審判から開始の合図があった。いよいよ決勝トーナメントの始まりだ。


 「【神射】と呼ばれるこの俺の実力、その目に焼き付けろ!アローレイン!」


 やはりと言うべきか大層な名前が示す通りこいつは遠距離攻撃に特化している様だ。俺の戦闘スタイルが剣による接近戦と判断してこいつを選んだのだろう。


 「その程度でこの俺をやれるとでも?」


 剣技ー護剣術ー風壁


 この大会用に少し剣を改造したのが功を奏した。改造と言っても柄の素材を従来の滑りにくい布から丈夫で伸縮性があり、かつ滑りにくい魔物の皮素材に変更したのだ。これによって剣を振り回すという無茶な攻撃も出来る様になった。


 その素材の特性を生かした技が風壁だ。風壁は剣を高速で振り回すことで防壁を構築し相手の遠距離攻撃を防ぐ対遠距離専用技だ。これが岩山など巨大な質量を有していれば防ぐことは不可能だがたかが矢の雨程度軽く防げる。


 「たかがアローレインを防いだだけでいい気になるなよ?今のはほんの小手調だ。」


 「なるほど。この国最強の男を圧倒した俺を相手に小手調とは随分な余裕だなァ!ならば次はこちらの番だな?」


 歩法ー水転


 一瞬の脱力による落下エネルギーを爆発的な速度へと変換する歩法瞬迅。それは剣の間合いであるからこそ有効だ。弓の間合いではいくら爆発的な加速を得ても慣れてしまう。


 水転は瞬迅と対をなす対遠距離武器専用の歩法。脱力をコントロールし流れる水のように無駄の一切ない体重移動を行い相手へと肉薄する独特の歩法。


 「間合いを詰めようとしても無駄だ!マルチショット!」


 やはり魔術師は距離を詰められるのを嫌うようだ。俺が接近しようとするとすぐ様後退しながらアロー系の魔術を次から次へと放ってくる。


 「無駄なのはお前の方だ。たかが弓ごときで水の流れを止められると思うなよ?」


 しかし水転を使っている俺には当たらない。それどころか矢を躱す度に俺の速度は上昇していく。


 これが水転の本質だ。水は渦を巻くほど加速してゆく。それと同じだ。水転は攻撃を躱す度にその遠心力を推進力へと昇華させてさらに加速する歩法。つまり、相手の攻撃があればあるほど俺の速度は上がってゆく。


 たかが数本の矢が同時に飛んでくる程度では俺の足を止めることなど叶わぬ。前世ではこれより遥かに早い銃弾が飛び交う戦場で俺1人を目掛けて数百の銃弾が飛来したものである。たかが数本、ましてや銃弾より遅いなど俺を射止めるなど不可能だ。


 後退し魔術を使うウォルドロンよりも水転を使う俺の方が数倍早い。あっという間に間合いを潰しすでに魔術の距離ではなく剣の距離だ。


 「この化け物め!」


 「ふむ、化け物呼ばわりも懐かしいものだ。最期の言葉はそれで満足か?」


 水転から瞬迅へと切り替え、さらに一気に間合いをつめ首筋に剣を当てる。こんな雑魚の命を刈り取るのは性に合わん。これで負けを認めるか審判が負けを認めるだろう。


 「最期?舐めたこと言ってんじゃねぇ!俺はまだ降参なんざしてねぇ!喰らいやがれ!アトミックショット!」


 強い殺気を感じ、五感が警鐘を鳴らしたので剣を盾にしながらその場から飛び退く。剣を構える腕に強い衝撃と皮膚を切り裂く鋭い痛み。この感覚には覚えがあるな。


 「・・・なるほど、それが貴様の隠し球か。」


 「ふん、運よくかすり傷で済んだようだが次はそうはいかねぇぞ。本当は上の方まで取っておくつもりだった俺の秘魔術まで使ったんだ。お前の首は確実に取る。」


 「くは、クハハハハ!」


 「何がおかしい!」


 ウォルドロンは今秘魔術と言った。確かにそうだ。あのイリスでさえいわゆるバレット系と呼ばれる銃弾をモチーフにした理魔術には触れていない。つまりこの世界の魔術にはバレット系の魔術は存在しないと思っていた。


 だが、ウォルドロンはショットと叫んだ。あれは間違いなく散弾銃をモチーフにした魔術だ。一瞬知らぬ理魔術かと思ったが秘魔術と自ら明かしてくれた。要するに奴独自の魔術と言うわけだ。


 銃を知らぬ人間が相手ならかなり有効だし、魔力を使って構成された弾丸であれば鉛玉が通らない化け物相手での通用するだろう。だからこそこいつはSランクまで上り詰めたと言うわけだ。


 しかし、これが笑わずにはいられるだろうか。銃など前世で嫌と言うほど見てきた。飽きるほど銃口を向けられてきた。うんざりするほど銃を持ったやつを殺してきた。数多の戦場を駆け抜けてきた俺の首をたかが銃使いが取るだと?これが笑わずにいられるだろうか。


 「いや、すまぬな。貴様の秘魔術か。矢よりの小さく早く殺傷能力の高い物を飛ばすのが根幹だろう。確かに初見の相手には通じるかもしれんが、あいにく俺はそれを見飽きてる。その程度の魔術では俺の首など遥かに遠いぞ?」


 秘魔術の根幹を指摘してやると面白いようにウォルドロンは狼狽えた。一度使っているのにバレないと思っていたのか?


 「・・・どうやら君は知ってはいけないことを知っているようだね。なんとしてもここで口を封じておく必要がありそうだ。さっさと死ぬといい。無限装填魔弾アペイリアー・バレット


 魔力を持たぬ俺ですら可視化できるほどに膨大で濃密な魔力がウォルドロンの持つ魔道具に集約してゆく。その魔力は無数の弾丸となって俺目掛けて放たれた。


 躱す余地など一切ないほど敷き詰められた銃弾の嵐。ここまで密度が高いと水転を使えない。仕方なしに当たりそうな物だけ剣で切り裂きながら呼吸を整える。


 まさかこんなところでこれを使わされるとは思っても見なかったが、引き出したウォルドロンを褒めてやろう。


 「貴様ごときに使うのは勿体ない気もするが、ここは俺にこれを使わせた貴様を褒めてやろう。」


 「はっ!防戦一方の分際で何を言ってやがる!」


 ウォルドロンの戯言は無視し呼吸を整える。


 戦場氣法ー潜瞬


 いつもより少し深く息を吸い込んで潜る。意識を切り替えた瞬間に五感が希薄になった。残るのは白黒に染まった視界と剣を握るのに支障がない程度の触覚だけだ。


 残りは全て脳の処理速度を上げるのに回す。久々に潜ったのでまだ深度は浅いがそれでも世界の速度が遅くなる。この全てが遅くなった世界でゆるりと俺は動き出す。


 久々で鈍ってはいるがたった一方向からの銃弾を避ける程度なら問題ない。全ての銃弾を最小限の動きで躱す。前世で戦場を転々としていた時に幾度となく俺の命を救ってきた氣法だ。


 ゆらりゆらりと揺れながらウォルドロンへ迫る。奴はこれで俺のことを殺せると思っていたらしく、一歩、また一歩と近づくごとにその表情が恐怖に染まってゆく。その目はまるで化け物でも見ているようである。


 ウォルドロンはじわじわと後退していたが、やがて闘技場の端にまで辿り着き後には引けなくなった。


 ぱくぱくと口を動かしているので何か言っているのだろうがあいにく今の俺には聞こえない。もう一段階ギアをあげてくるかと思ったが何もなかったようだ。


 そのまま剣の間合いにまで入ったところで潜ったまま剣を振る。いつもの俺の剣閃からすればあくびが出るほど遅いが攻撃している状態でこれ以上下がれないウォルドロンには躱す術はない。


 剣はなんの抵抗もなく両腕を切り落とした。返す刀で喉を浅く切り裂き詠唱を出来なくする。その時点で意識を浮上させ潜瞬を解除。音と光が戻ってくるが気にせず落ちていた魔道具を場外へ蹴り飛ばす。


 そして両足を素早く貫き身動きを封じる。両腕を失い足を穿たれた痛みで俺に首を垂れるように崩れ落ちる。こいつは俺を殺すつもりで最後の攻撃を仕掛けてきた。ならば殺されても文句は言えまい。


 「多少ではあるが退屈しのぎにはなった。褒美に一撃で殺してやろう。」


 ウォルドロンは涙目で顔を横に振るが気に留めることはない。皇帝に喧嘩を売りエリファスをぶちのめした時点でこの場はすでに戦場。こいつは第1の刺客だ。ここでこいつを見逃せば怨みが積み重なり、やがて俺だけでなくそれ以外の誰かが危険に晒される。ゆえにここで禍根は全て断つ。


 前世で学んだ戦場での処世術だ。


 一撃でウォルドロンの首を刎ねる。見ていた観客からは悲鳴や怨嗟の声が聞こえてきたがそんなものはすでに慣れた。むしろ戦場では子守唄にもならん。その首を審判に見えるように掲げる。これだけすれば文句はないはずだ。


 ちなみにこの世界に死者を甦らせるような魔術は存在しない。これは理魔術ではなく秘魔術まで含めてそうだ。最高の治癒系魔術でも生きていることが前提になる。まぁ、生きてさえいればどんな部位でも生やすことができるそうではある。


 「しょ・・・勝者、シェラート・・・」


 審判の声が魔術によって響わたり観客席が静まり返る。数瞬あって大ブーイングが吹き荒れた。その声を背に受けながら俺は闘技場を後にした。これで1回戦突破だ。


 さて、ハイロイド組の試合でも観戦でもしようか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ