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10/29

相見える

 係の人間に連れられ予選会場へと入る。一番遅いが故にすでに会場入りしていた他の参加者たちの視線が一気に集まる。


 やはりその視線は剣を持っているだけで侮蔑や嘲笑、哀れみが多い。しかし、中には俺がチンピラを瞬殺したのを見ている人間もいるようで、警戒や恐怖の感情も伝わってくる。


 自然と笑みが溢れる。これからこいつらは己の全てを否定されることになる。貴様らが後生大事に育ててきた魔術、その全てを俺が切り裂き、我が名を知らしめる第一歩の踏み台としてやろう。


 光栄に思え。


 ルールは簡単。最後の1人が勝者だ。


 100人全員が闘技場内にいること、そして緊急避難用の魔道具を持っていることを確認されたのち、予選が開始された。


 そこかしこで魔術が展開される。ほとんどが物魔術ではあるが中には理魔術を発動しようとしている人間もいる。乱戦状態ではあるが、20人ほどが俺に向かって魔術を放とうとしているようだ。剣を持っているから御し易いとでも思ったのか?


 魔術が放たれるまでには時間が掛かる。そんなもの俺らのような武に生きる人間からしてみればどうぞ殺してくださいの時間ではあるが、今回はそんなことはしない。圧倒的に終わらせる。


 これまで鍛え上げた肉体は齢15にして前世の最盛期に勝るとも劣らぬ性能を発揮してくれる。で、あればこの技もできるはずだ。


 俺は地面を力強く蹴り、上空へと飛翔する。本来、近接遠距離問わず飛び上がるのは悪手。上空では行動できないし、着地狩りだってされやすい。


 だが、前世の俺はその全てを覆した。鍛え上げたこの肉体は銃弾すら跳ね除ける。上空で身動き取れない?空気を蹴れば良い話である。誰が空気を蹴れないなどと言った。音速で蹴ればその反動で動けるものだ。


 「さぁ、我が名をその身に刻め!崩墜!」


 やっていることは凄まじく単純だ。飛び上がり、その落下する勢いに加速をつけて剣で地面をぶった斬る。それだけ。


 しかし、斬撃の余波が周囲の地面を破壊し尽くす。この技を使った後は隕石が落ちたかのようにあたり一体が崩壊する。故に崩墜。まぁ、この技も一度見せた後はほぼ通じることは無くなってしまった。もっぱら雑魚殲滅か獣相手にしか使えん。見た目が派手なだけの技だ。


 ただ今回はその派手さが欲しい。飛び上がった俺目掛けて次々と放たれる魔術を捌き、推進力に変え地面を目指す。


 そして剣を叩きつける。


 この闘技場は魔術で独立しているらしい。つまりこの狭い闘技場に俺の斬撃のエネルギーが荒れ狂うことになる。行き場を失ったエネルギーは地下に潜り込み、闘技場の破壊をより深刻なものへと変えていった。


 闘技場が崩壊する凄まじい音と土煙で結界の中が見えなくなる。もちろん運営側は騒然としている。こんなことは前代未聞だ。魔術も使わずに剣で闘技場を破壊するなど。


 土煙が晴れ、結界内部の様子が明らかになる。


 そこには完膚なきまでに崩壊させられた闘技場の残骸とその瓦礫に埋もれる無数の参加者。そしてその瓦礫の頂上にたち、全てを睥睨しているシェラートの姿があった。


 人々に恐怖と驚愕を刻みながらシェラート、予選突破である。


 人々の記憶に恐怖とともに盛大に名を刻んだシェラートのこの世界初めての人前での戦闘。しかし、魔術至上主義に囚われ、魔術こそが至高だと考えている者たちの悪夢はシェラートで終わりではなかった。


 むしろシェラートが始まりであった。


 「コ・・・コクガ選手、決勝トーナメント進出決定・・・」


 震える声でコクガの勝利を宣言する。声が震えるのも無理はない。コクガは俺と同様、一切魔術を使わず全ての魔術を受け流し迎撃し、破壊した。そして1人1人丁寧に武器と腕と喉を破壊し一切の抵抗を封じた状態でまるでゴミクズかのように放り捨てた。


 一切魔術が通用しないその光景は魔術至上主義の人間からしてみれば悪夢そのものだろう。


 そしてそれ以外にも魔術を全て生身で受け切りたった1撃で全ての人間を場外へと弾き出した規格外の力を持った謎の男。その場を一歩も動かず全ての敵を倒し切った謎のジジイ。見た目は落ちぶれた冒険者のはずなのにあらゆる理魔術を完璧に使いこなして見せた彗星のごとく現れた天才、そして尋常ならざるほどの魔力をその身に宿し常人では狂うほどの強化魔法を重ねに重ねた狂人。


 そのどれもがこれまでの魔術の常識をいとも簡単に塗り替え予選を制した。そしてシェラートを含め予選を突破したこの6人には表と裏、さまざまな人間が接触を試みたが誰一人として再び主の前に姿を表したものはいなかったという。


 その夜、シェラートは王都の中でも有数の宿のスイートルームで身を休めていた。


 「どうやらハイロイドから連れてきた連中は全て予選を突破したようだな。」


 「心配なさらずとも彼らはシェラート様が見出したいずれも傑物。たかが野良の魔術師程度に遅れを取るわけないじゃないですか。」


 「別に心配などしていない。むしろここで負けるようでは見込みなしとして処分することも考えていたからな。最低ラインはクリアしたというところか。」


 「えぇ。これでシェラート様の野望に1歩近づきました。」


 「そうだな」


 表面上は普通に会話をしつつもシェラートとイリスは視線を交わす。そこに込められたシェラートの無言の意思をイリスははっきりと感じ取っていた。


 シェラートはなんの前触れもなく腰に佩いていた剣を振り抜いた。刻まれる天井。落下してくる天井の破片に混じって肉片も一緒になって落下してきた。


 「ふむ、これで5組目か。敵か味方かは知らぬがこそこそ隠れてくる時点で斬られても文句はいえぬと言うのに。此奴らの雇い主は俺の予選を見て接触してきているはずだろう?ならばなぜ実力差がわからぬのだ?」


 「それはシェラート様が隔絶し過ぎているからですよ。あるいは剣術などとうの昔に廃れてしまったために予選で見せたシェラート様の技、あるいは武器が魔道具ではと疑っているのですよ。シェラート様を引き込むのもそうですが、魔道具なら奪った方が早いですからね」


 「なるほど。確かにそれも道理だ。しかし、こうも来られては面倒だ。少し早いが潰すか?」


 「いえ、流石に時期尚早かと。無論シェラート様の実力を疑っているわけではありませんが今はまだ大会に専念し完膚なきまでにこの世界にシェラート様の実力を知らしめるべきです。」


 「・・・イリスが言うのであればそうしよう。まぁ、面倒とは言っても目の前を羽虫が飛び回る程度。その都度潰せばいいだけか。」


 その後もちょくちょくではあるが刺客やら監視やらが訪れたが隠れてこそこそきた奴らは全て皆殺し。正面から来たやつもいたが全て無視した。そしたらその夜には見事に刺客を送ってきてくれたのでこれ幸いと返り討ちにしてやった。


 そんなことをしている間に予選は終わったようだ。結局予選突破は俺を含めて50人近くいたが、なぜか予選が終わるまでに辞退や行方不明で最終的には15人まで減ってしまった。


 その予選突破者に推薦組を足して決勝トーナメントが行われることとなった。この推薦組の中にはドニゴール家長兄ルーソン、次兄セシル、そして現当主にして帝国最強の騎士であるエリファスも名を連ねていた。


 イリスの情報によると推薦組の中には秘魔術を使える者として、Sランク冒険者が3名、騎士が5名いるそうだ。それ以外は騎士見習いあるいは理魔術のスペシャリストだそうだ。もちろん通り一遍の量産型ではなく同じ理魔術のスペシャリストでもそれぞれ尖った個性があるそうだ。詳しく聞いたら興醒めなので聞かないが。


 「まぁ、たかが理魔術程度が今更シェラート様に通用するとは思えません。」


 これは詳細を断った時のイリスの話である。


 これで役者は揃った。さぁ、決勝トーナメントの開始だ。


 決勝トーナメント当日。俺を含む参加者たちは闘技場に集められた。どうやら開会式を行うらしくこの国の偉い偉い豚共のそれはそれはありがたい毒にも薬にもならぬ与太話を聞かされるわけだ。時間の無駄だな。


 会場に着いたのはまたしても俺が最後らしい。ハイロイド組はともかくとして他の連中からは視線が刺さる。その中には当然ルーソンとセシルの視線もあったが俺を俺とは認識していないようだ。


 それにしても騎士の連中は流石に騎士と呼ばれるだけあってハイロイド組以外ではダントツの強さだな。何より血の匂いがする。騎士と名のつく連中は多かれ少なかれ殺しに従事していると言ったところか。


 ちなみに当主であるエリファスは俺の方を見向きもしない。死んだものと思っているのかそれとも気づいているのか。まぁ、どちらでもいい。


 開会式の前に全員揃ったと言うことで係員から決勝トーナメントのルールが説明された。基本的には予選と変わらないがここで負傷した場合は回復が無償で受けられること、そして騎士もいることなので勝敗は生死を問わず、仮に騎士を殺しても罪には問われず、殺した騎士の代替として国に仕える義務等も生じないことが言い渡された。


 そして最後にこの説明ののち皇帝よりありがたーいお言葉をいただくのでラッパがなったら膝をつき頭を下げるようにと言われた。


 その係員が何か合図をすると高らかにラッパが鳴り響く。選手・運営・観客問わず、その音がなったと同時に膝をつく。


 立っているのは俺を含めてハイロイドから来た者だけだ。係員が慌てて頭を下げさせようと怒鳴るが誰も聞かない。その様子を見た騎士たちが立ち上がりかけたところで闘技場を見下ろせる展覧席に皇帝が姿を表した。


 騎士たちは慌てて元の姿勢に戻る。


 俺はじっくりと皇帝を見据える。なるほど、確かにこの男は国の王としての素質はあるようだ。どこぞの国の総理大臣などよりよっぽど国を背負う覚悟とそれに見合うだけのカリスマ性を身に纏っている。


 「だからと言って俺が頭を下げる理由などないがな。」


 小さくつぶやく。俺の頭を下げさせたければ実力で地面に這いつくばらせるほかない。最もそれができる人間がいればの話ではある。


 皇帝はしばし俺を見つめたまま言葉を発しない。品定めでもしているかのような視線がまとわりつく。


 「皇帝閣下の御前だ!頭を下げ、地面にひれ伏せ!!」


 皇帝と睨み合っていたところで横にいた神経質そうなおっさんが叫んだ。俺は皇帝から視線を外し叫んだおっさんへ視線を向ける。


 「ほう?この俺に膝をつけと?あいにくだが俺は皇帝など崇めていない。天上天下唯我独尊、俺に命令できるのはこの俺だけだ。どうしても俺の頭を地面に付けさせたくば方法はただ1つ。実力で持ってねじ伏せてみよ。俺はいつでも受けて立つぞ」


 闘技場と展覧席は遥か離れているが一歩ずつ距離を詰めながら闘気と殺気を撒き散らす。これぞ我が剣の奥義が1つ。


 氣法ー嵐氣。


 嵐のように荒々しい殺気を一瞬で広範囲にばら撒く氣法。拡散される分効果は薄いが直接命のやりとりをしなくなった魔術師風情にはこの程度でも有効だろう。それを証明するかのように一瞬で場は凍りつき息の音さえ聞こえてこない。


 そして俺を怒鳴りつけたおっさんは白目剥いて気を失ってしまった。なんという弱さだ。まだまだいたぶってやろうと思っていたのに。


 ここまでしてようやく皇帝が口を開いた。


 「ここは私に免じてその物騒な気を収めてはくれぬか?民が怖がってしまっている。」


 「ほう、貧弱な魔術師風情が台頭しているこの国で距離があるとはいえこの俺の殺気を受けて平然としているとは。さすがは皇帝と言っておこう。だが、そこで気を失った奴にも言ったが俺は誰の命令も聞かん。俺に何かして欲しくば武を以ってねじ伏せるか相応のものを差し出せ。俺として武を以って来てくれた方が楽しめそうではあるがな。」


 一歩また皇帝の方へ近づきながら笑みを浮かべる。どこからか悲鳴のような声が漏れ聞こえるが知ったことではない。


 「仕方あるまい、エリファス」


 「はっ」


 皇帝がエリファスの名を呼んだ瞬間、背後に強い殺気と熱を感じた。本能が警鐘を鳴らしそれに従うように前方へ回転しながら背後へと剣を振るう。


 確かな手応えを得たものの爆風で吹き飛ばされた。空中で体勢を整え着地と同時に地面を蹴って土煙舞う闘技場へ突っ込む。もちろん視界はないがエリファスのいた場所と殺気の飛んできた方向はわかっている。


 歩法ー瞬迅


 一瞬で全身の力を抜き、落下する。その落下のエネルギーを一歩踏み出すことで推進のエネルギーへと変換し一歩目から最高速へと乗ることの出来る歩法。瞬迅を以って間合いを一気に詰める


 エリファスの実力など知る由もないが魔術には無傷圏と言うものが存在する。それは自身を傷つけないために確保しなければならない絶対の間合い。少なくとも先ほどの爆発系の魔術は使えない。


 歩法ー空蝉


 なんらかの手段で俺との距離を把握していた場合に備えて次の手を打つ。空蝉は肉体を制御し、急停止し方向を変える歩法。人間は常に予測する生き物だ。なんらかの手段でこちらを感知していてもこの近距離で刹那の判断が求められた時に予測とのズレを修正するのは不可能に近い。


 俺は感知しているエリファスの背後に周り剣を抜く。まだ大会は始まっていないが帝国最強の男をここで切り捨てれば俺の存在はより鮮烈に伝わる。産み落として捨てた親だ。情など一切ない。むしろ俺の糧となり消えろ。


 氣法ー獅子吼


 「オオオオオ!」


 殺気を声に乗せて放つ。並の相手ならばこれで身が竦んで動けなくなる。達人相手でも俺の獅子吼は初見ならば一瞬の硬直ぐらいは与えることが出来る。


 上段に構えた剣を振り下ろす。確実に捉えた。エリファスの気配は振り返ってすらいない。さぁ、無様に死体を晒せ、エリファス。


 ガキッ


 鈍い音がして剣が止められた。記憶ではエリファスは鎧など着ていなかったはずだ。剣の余波で土煙が晴れるとそこには俺に背を向けたままのエリファスと俺の剣を阻む半透明の壁があった。


 「・・・結界か。」


 「魔力を持たぬ貴様ごときでは破れる代物ではない。皇帝閣下への無礼、その身を以って贖うがいい。爆ぜろ。」


 目の前に熱が集まるのを肌で感じとる。爆発の魔法など使える距離ではないと思ったが結界があるが故に使えるか。流石にこの距離では躱すのは間に合わん。だが逆にこれは俺にとっても都合がいい。


 剣技ー柔剣術ー流転


 エリファスの魔術が爆発で助かった。爆発はそれそのものの威力もそうではあるがどちらかと言えばそれによって生じる地面やら金属やらの爆散物によるダメージの方がでかい。純粋な爆発はただの高純度の指向性をもったエネルギーにすぎない。


 つまりただの力の向きである以上は我が剣で逸らせない道理は無い。


 流転は対剣ではなく対飛び道具用に編み出した技だ。攻撃の威力を殺すことなく剣で滑らせて余すことなく敵へとお返しする。それが無理なら逸らす。要するに剣で力の向きを操る技だ。たとえそれが爆発であろうと操れぬことはない。


 至近距離で発動された爆発を見切る。こいつの爆発はすでに1度見たし斬った。同じような攻撃が2度も俺に通用すると思うな。


 そっと剣を滑らせて爆発のエネルギーをそのまま結界にぶち当てる。結界程度破れないようではこの国最強を名乗ることはできないだろう。


 俺の予想通り、爆発のエネルギーは見事結界をぶち破った。


 ガシャンとガラスの割れるような甲高い音が響わたり周囲にも結界が割れたことを知らしめる。まさかこのような手で結界が割られるとは思っても見なかったのだろう。エリファスの目が見開かれた。


 「仕舞いだ。」


 剣技ー柔剣術ー弧月


 流転で下段に構えていた剣を手首の動きのみで振り上げる。自然と弧を描くその鋒は威力こそないが出が早い。接近戦に慣れていない魔術師ならば反応できる速度ではない。


 「ぐっ・・・!!!」


 しかし驚いたことにエリファスは辛うじて反応してみせた。なんとか上半身を逸らし致命傷は避けたもののその左目を切り裂いた。


 剣技ー剛剣術ー龍墜


 孤月で振り上げた剣をそのまま全身のバネを使って振り下ろす。俺の持つ剣技の中でもトップクラスの破壊力を誇るまさしく剛の剣だ。


 躱した時の反動で体勢を崩し、左目を切り裂かれた痛みでろくに身動きができないエリファスにはもはや躱す術などない。そして俺の剣は振り下ろされた。


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