85話
土曜日の朝。
シンと愛那はバスに揺られ、目的地に到着する。
「はぁ…またこの学校に来るとはな…」
明丘学院――元明丘女学院。
かつてシンの想い人『高橋聖華』が通っていた学校である。
中高一貫の伝統あるマンモス校だ。
過去、何度も足を運んだが――大幅に改築され、外装はほぼ変わっている。
シンの思い出の場所は、既になくなっているようだった。
「この学校、もとは女子校ですよね? コーチ来た事あるんですか?」
愛那の疑問は当然である。
聖華に会うために何度も足を運んでいたが――そんな思い出は恥ずかしくて言えるわけがない。
「ちょっとヤボ用があったんだよ」
愛那の質問は適当に誤魔化すことにした。
それにこの話は続けると、愛那に残酷な真実を伝えることに繋がりかねない。
聖華は愛那の『憧れ』だ。
そんな聖華がシンのせいで眠っていることは、口が裂けても伝えられない。
「大きい校舎ですね。あたし達、どこに行けばいいんでしょうか?」
「招待しといて、案内もいねーのかよ」
シンと愛那がきょろきょろしていると、学校指定のジャージを着た見覚えのある女を発見した。
黒髪で金色のインナーカラー。
気だるけそうな女は、シン達を見つけるとトボトボと歩いてくる。
「カレンじゃねーか。お前が案内役か?」
「…そう。ダルいけど…ふああああ…」
カレンは大きな欠伸をすると、ふらふらと頭を揺らす。
どうやら相当眠いらしい。
「…ごめん、あたし…ホント朝、ダメでさ…」
そういうとカレンはぺたりと地面に座り込んだ。
土曜日なので人は少ないが、危機感のなさにシンと愛那は驚いた。
シンはどうしようかとカレンを見つめていると、ふとジャージの胸元にある刺繍が目に入った。
どうやら名前が縫われているようだ。
「珍しい苗字だな。なんて読むんだ?」
「…どくどく?」
「ぶすぶす? それともぶすどく――」
毒毒。
正解の苗字を言い当てた瞬間――
「その苗字で呼ぶなああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
先ほどまでの気だるそうな態度が嘘のように飛び上がった。
「あっ…」
あまりの豹変ぶりにシンと愛那は目を丸くすると、カレンは頬を赤らめた。
「あ、あのさ…カレンって呼んでくれると…嬉しい」
「「は、はい…」」




