8話 ロリっ娘は笑顔を絶やさない
愛那と祐乃は、布地が下腹部まで届いてない機動性重視のユニフォームに着替えると、マジッカ―の練習をするために、中庭へと向かう。
着替える際、部室には男のシンがいたが、愛那は気にも留めなかった。
寝ているうえ、興味もない男に肌を見られても、愛那は羞恥心を感じない。そして祐乃は、無頓着なので、人前で着替えることに抵抗はなかった。
「――ったく、もう!」
日頃、練習用に使用している木に向かって、苛立ち混じりの闇魔法を放った。
黒い球体が木の幹に衝突して、ザザッと揺れる。
「愛那ちゃん、怒ってるねー」
「怒るわよ! あたし、ああいう不真面目な人間が大っ嫌いなの!」
愛那は、チラリと校舎の窓に視線を向けた。
実は、この中庭は部室に真後ろに位置する。
そのため、窓を覗けば、いつでも部室のシンの様子はうかがえる。
「寝てるわね」
二宮シンの顔を見るだけで、腹の底から怒りがこみ上げる。
生理的に受け付けない相手には、ここまでイラつくのかと愛那自身、驚いていた。
「場所を変えたいわ……」
ストレスの原因となるなら、二宮シンの顔をみなければ良いのだが、部室の隣に位置する中庭では、嫌でも視界に入る。
常日頃、愛那は、広いグラウンドで練習をしたいと思っているが、野球部や陸上部が利用しているため、マジッカ―部に使用許可は降りていない。
やり場のない怒りを魔力に変換して、マジックギアに込める。
「《唸れ、暗黒・ダーカー!》」
再び、木が大きく揺れる。
木に魔法を撃ち続けて、練度を上げていく。
これが菅原愛那の日頃の練習だ。
「愛那ちゃん、凄いね! ボクも負けないよ! えーと……、なんだっけ? 《爆裂せよ!・なんとか、かんとかー!》」
祐乃の右手から紅色の球体が放たれ、木に衝突――せず、急旋回。
「ちょ、ちょっと祐乃!?」「あれ? おかし――」
球体は、祐乃の元に帰ってくると、収縮して――炸裂した。
「「わあああああああああああああああああ!!」」
爆発に呑まれた愛那と祐乃は天高く空を舞い、放物線を描いて落下。
ドスッと、鈍い音と共に二人は地面に叩き付けられる。
愛那はユニフォームに付着した泥をはたくと、祐乃をギッと睨んだ。
「ちょっと祐乃!」
「えへへー、ごめんごめん。次から気を付けるよー」
愛那は、泥まみれで立ち上がる。
マジックギアのプロテクト機能がなければ、命が危なかったので、一言くらい不満を言いたかったが、先に謝られ、調子が狂う。
どんなときでも、笑顔を絶やさない祐乃。
どれだけ祐乃に不満を持っても、あの笑顔は、すべての不快感は削がれる。
――だからこそ、色々あったマジッカ―部で唯一残れたのは、祐乃だけだったのだ。