73話
「美味しかった~」
「あの店は久しぶりに行ったが、相変わらずうめーな」
シンと祐乃は、イオンのフードコートではなく、テナントのラーメン屋で昼食を取った。
全国にあるチェーン店らしいが、値段はリーズナブル。
味もわるくはなかった。
「コーチ、さっきのラーメン屋に行ったことあるの?」
「まあな。学生時代は部活終わりにラーメン食ってたぜ」
シンと祐乃はノリに任せて、大食い勝負をしてしまった。
そのせいで何度も替え玉をしてしまい、2人とも腹がはち切れそうであった。
「コーチ、ボクお腹がパンパンだよ」
「なら食後の運動でもしようぜ!」
「いいね~!ボク、太鼓の達人したいな!」
祐乃の提案を呑み、シンは太鼓の達人があるイオン内のゲームセンターへ移動する。
「なんだ?太鼓の達人の辺りで人だかりができてるな」
「なんだろうねー?」
シンと祐乃は人だかりの隙間に視線を向ける。
太鼓の達人の挑戦者――それは1人の中学生男子だった。
10年くらい前に流行したアニソンの難易度『鬼』に挑戦していた。
ダダダダダダッ!!!
ダッ!ダッ!ダダダッ!!!
マイバチで太鼓を力強く叩く音が周囲に響き渡る。
正確なバチ捌き。
高難易度だというのに、1つも外さない。
「上手だね~…あれ?あの人?」
「ああ…あいつは…」
太鼓の達人をする男に見覚えがあった。
――紫ハヤトだ。
「うごあああああああああッ!!!カレンンンンッ!!うえええええええんッ!カレンンンンンッ!!うわああああああああああん!!!!」
先日、洛咲中にやってきた他校の男子生徒だ。
公衆の面前で中学生男子が、太鼓の達人をやりながら大泣きしている。
これは注目の的になるのも当然である。
「こ、コーチ…ハヤトくん…泣いてるよ…」
「何かあったみてーだな…」
「ど、どうする…?」
「ぶっちゃけ関わりたくねぇ…絶対ロクな状況じゃねーよ」
祐乃は困惑してしまい、どうすれば良いか、わからなくなったようだ。
シンはそんな祐乃の手を引き、この場を離れようとする。
――しかし
「アニキじゃないっすか!アニキイィィィィィイッ!」
ハヤトはシン達に気付き、マイバチを鞄に片づけると飛びついてきた。
「うわ、気付かれた!?」
「聞いてくださいよアニキッ!カレンが!カレンが!」
目を真っ赤に腫らしたハヤト鼻水を垂らし、シンの腹部に抱き着く。
「なんだよ?彼氏でもできたのか?」
シンは空気を変えようと冗談を口にする。
――その瞬間、ハヤトの瞳からハイライトが消えた。
「アニキでも言っちゃダメなことありますよ?カレンに変な男が寄ってきたら殺します。こんな所で泣く時間が勿体ないです。即殺して即埋めます」
先ほどまで大泣きしていたとは思えないほど冷たい眼に変わる。
あまりの豹変ぶりにシンは、年上であるはずなのに身震いしてしまった。
「んで何があったんだよ?聞いてやるから話せ」
「カレンが酷いんすよ!冷たくて!昨日、デートに誘ったんすよ」
ハヤトの話を聞いて、シンと祐乃は顔を合わせる。
「おい祐乃。この流れは…」
「カレンちゃん、物臭な性格だから、多分…」
「断られたんだろーな」
「そうなんすよッ!!!!」
公衆の面前だと言うのにハヤトは大声をあげる。
どうやら予想が的中したらしい。
「けどオレは何度も諦めずに誘ったんすよ!そしたら『マジッカ―で、あたしに勝ったらいいよ』って言ってくれたんす!」
「ほお、青春やってるじゃねーか」
「そしたら!オレぼこぼこにされてッ!悔しくて悔しくてぇええええッ!!ストレス発散に太鼓に八つ当たりしてたんすッ!」
「「・・・・・・・・」」
なんとも情けない話であった。
シンは呆れて肩を落とし、祐乃は「あはは…」と頬を引きつらせて笑うしかなかった。




