5話 過労死事件がキッカケで部活指導員はできた
――数日後。
市立洛咲中学校は、一つの話題で持ちきりだった。
部活指導員。
教員の負担を減らしつつ、学生が部活動に励める環境を整えるため、外部から実力がある者を雇う。
運動系、文化系問わず全ての部活が対象である。
中学校に外部の人間を入れる――この点が問題視され、保護者、PTA、教育委員会に激しいバッシングを受けた。
『信用力が乏しい人間を学校に入れるな』
『本当に部活の質は、あがるのか?』
『コストがかかり過ぎる』
様々な非難の末、部活指導員を雇う案は、通らないと思われた、ある日のこと。
世間を騒がせるニュースが飛び交う。
『学校教員過労死』
マスメディアは、このニュースを大々的に取り上げ、学校は教員を殺す劣悪な職場として話題に。
この事件の発生源は、洛咲中学校ではない。
しかし、教員の負担を減らそうという世間の声は高まり、洛咲中学校は、部活指導員の案を試行することになる。
特に体力勝負な運動系の部活指導員は、若い人を率先して採用する。
人の好みはそれぞれだが、中学生という年頃は、家族や教員以外の年上という存在に過敏になる。
異性の場合は、尚更だ。
魅力溢れる人との出会いがあるかもしれない――中学生という思春期の者たちの多くは胸を躍らせていた。
ただし、その雰囲気に不満を持つ少女がいた。
「部活生は、不純な人が多いのかしら」
不服そうな表情を浮かべる少女――菅原愛那。
日本人由来の髪を、ナチュラルブラックで入念に染めており、人一倍黒くなっている。
しかし、その黒さがある故、一筋のシルバーメッシュが輝いていた。
大人ぶったことをしているが、容姿は中学生そのもの。
手足のバランスが良いが、お世辞にもスラッと言えるほど伸びてはおらず、胸部を含めて、どことなく幼さがうかがえる。
ただし、彼女は成長過程。
美人のポテンシャルは、十分すぎるほどに秘めている。
「部室に行くわよ、祐乃」
「うん!」
意気揚々と返事する少女――夏目祐乃。
年齢は愛那と同じというのに、小柄。
顔は整っており、宝石のように輝く大きな瞳が、彼女の性格を現していた。
「愛那ちゃん、愛那ちゃん! 今日、ボク達のマジッカ―部にも、部活指導員がくるんだよ! 楽しみだよね!」
「祐乃も、イケメンとの出会いを求めてるのかしら?」
「出会い? ボクは、面白い人が来てくれたら、部活動が楽しくなるなー、と思っただけだよ!」
「相変わらず、裏表がないわね」
「ふっふーん。ボクは正直だもーん」
廊下を鼻歌交じりにスキップしている祐乃を見て、愛那は肩を落とす。
「祐乃は、まだマジッカ―のルールも把握してないでしょ」
「いいんだよー。ボクは、マジックギアで、どかーんと派手な魔法を使いたいだけだもん。試合とかしないもん」
それなら部活指導員なんていらないでしょ、と愛那が口を開こうとした時――
「嫌だあああぁぁぁ! 働きたくないよおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
青年のみっともない声が、廊下に響き渡った。