表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代科学魔法と落第生の部活指導員  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
4/63

4話 お金が欲しい

「つまらねえ試合だ」


 カーテンの閉め切られた薄暗い部屋で、テレビを観ていた男――二宮シンは、ため息を吐いた。


「つまらん男が何を抜かす? 穀潰(ごくつぶ)しニート野郎」


 突如(とつじょ)背後(はいご)に何者かの気配が現れる。

 二宮家(にのみやけ)は、都内の一軒家(いっけんや)で、二人暮(ふたりぐ)らし。

 誰の声かはすぐにわかった。


「勝手に俺の部屋に入るなよ。ノックくらいしろ」


 シンは頭を()き、気だるげに振り返る。


「何回もした。ノックに気付かなかったのは、そっちだろう」


 さらりと悪態(あくたい)をつくスーツ姿の女性――二宮瑠偉(にのみやるい)

 二宮シンの姉である。

 

 外見は、二十歳代半ば程度。

 しかし、実年齢はシンより一回り上の31。

 出るところは強調され、スーツの胸部は伸びている。

 

「勝手に入ってきて、何用だよ。姉貴?」

「穀潰しニート野郎に、言いたいことがある」


「穀潰しニート野郎って……。大学受験に失敗して、一年ちょい自堕落人生(じだらくじんせい)を送ってるだけなのに、その言いぐさは、酷くね?」

「自覚があるぶん、なおのことタチが悪いな!」


「そんなに()めるなよ、照れちまう」

「さっきのは軽蔑(けいべつ)だ、称賛(しょうさん)ではない!」


 親指立て、決め顔のシン。

 瑠偉(るい)は、頭痛(ずつう)がしたのか頭をかかえる。


「怒りすぎだぜ、姉貴(あねき)。シワが()って()けるぜ」

「ぶっ殺すぞ! 誰のせいだと思っている!?」


 激怒(げきど)する瑠偉(るい)を余所に、シンはちらりとカレンダーを見る。


「そうだ、姉貴。金くれよ。今日は給料日だから金持ってるだろ?」


 ブチッ


 聞こえてはならない音と共に、瑠偉の瞳から光が消える。


「……待ってろ。包丁を持ってくる」

「待て待て! 目がマジだぞ!」


寄生虫(きせいちゅう)は、殺処分(さっしょぶん)する」

「わるかった、わるかった! 俺がわるかった!」


 二宮瑠偉(にのみやるい)は、基本的(きほんてき)冗談(じょうだん)(きら)う女だ。

 (いのち)危険(きけん)があると察したシンは、自分の()を認めて(あざ)やかな土下座(どげざ)を繰り返す。

 弟の(みじ)めな姿に(あき)れたのか、瑠偉(るい)の怒りは、あっという間に鎮火(ちんか)した。


「さっきのテレビの試合で活躍していた男は、北里息吹(きたさといぶき)と言ったか? たしか、高校時代の友人だろ? 立派にプロをやっているみたいじゃないか」

「……説教(せっきょう)かよ」


 シンは、嫌そうに顔を(ゆが)めると、次は耳を(ふさ)いで、開き直ったような態度(たいど)を取る。


「あー、ヤダヤダ。みーんな冷たい視線で俺を見てくるから、肩身が狭くなる。エンジョイなニートライフを送らせろよ」

上っ面(うわっつら)のふざけた意見は聞いてない。大学受験に失敗してからいうもの、就活(しゅうかつ)はしない、再受験(さいじゅけん)勉学(べんがく)にも(はげ)まない。一年を無駄にして、何がしたいんだ?」


「何もしたくないから、ニートやってんだぜ」

清々(すがすが)しいクズっぷりだな。呆れた、心底呆(しんそこあき)れたよ」


 瑠偉(るい)は腕を組むと、本日何度目かわからないため息を吐いた。


「そんで話を戻すけどよ、姉貴。金くれ」

「何に使うか言ってみろ。事と次第によって貸してやる」


「貸すじゃなくて、くれよ。返すなんてメンド―じゃん」

「コ・ロ・ス・ゾ」


 瑠偉(るい)の殺意を感じたシンは、背筋(せすじ)をピンと伸ばし、正座(せいざ)した。


「購入したい物がございまして」

「言ってみろ。就活用(しゅうかつよう)のスーツか? 再受験(さいじゅけん)に備えた参考書(さんこうしょ)か?」


「そんなガラクタを欲しがるわけないじゃん。ニート舐めてんの?」


 瑠偉(るい)の腹の底から、(いか)りがこみ上げたとき――

 ふと、一年前の出来事を思い出した。


「去年も、この時期に金を欲しがってたな」

「さ、さあ? なんのことかな?」


 ぴゅーぴゅー


 シンは、誤魔化(ごまか)すようにヘタクソな口笛を吹く。

 わざとらしいシンの態度(たいど)を見た瑠偉の口角が、ニンマリとあがる。


「金が欲しいなら、協力してやろう。ほらっ」


 一枚の紙を受け取ったシンは、面倒そうに読み上げる。


部活指導員(ぶかつしどういん)の求人だと。姉貴が教員してる学校に、マジッカ―部があったのかよ。そんで、これがどうしたんだ?」

「シンは、マジッカ―が得意だろ? バイトでの採用になるが、部活指導員(ぶかつしどういん)の給料は、そこそこ高いぞ」


「――は?」


 瑠偉(るい)の言い分に思考(しこう)が追いつかず、シンは(こお)ったかのように数秒間、動きが止まる。


「まさか、俺に働けってのか! それに部活指導員(ぶかつしどういん)って、つまりコーチだろ! そんなの教員の仕事だ! 外部の人間に中学生を任せるとか、トラブルの元だぞ!」


 シンの真っ当(まっとう)な意見に、瑠偉は頭を抱えつつも、疲弊(ひへい)した目で、(かた)り始めた。


「常日頃、教員は、仕事に追われて時間がない。さすがに、部活顧問(ぶかつこもん)まで引き受けるのは、時間、体力、精神的に不可能なんだ」

「学校は、ブラック職場で有名だもんな。人員足(じんいんた)りないから、外部の人間を(やと)って、部活指導員(ぶかつしどういん)にしようってことか?」

「正解だ。報酬として、私が推薦状(すいせんじょう)を書いてやろう。よろこべ、シン。来週には、穀潰(ごくつぶ)しニート野郎を卒業だ」


 満足そうな笑みを浮かべる瑠偉。

 ただ、シンが黙って従うはずもなく、だだをこね始めた。


「嫌だ、嫌だ! 働くなんて、絶対嫌だ! あんなスポーツするなんて、馬鹿らしい! 気力ナッシング!」

「期限までに、金が欲しいのだろう」


 だだをこねていた、シンの動きが、嘘のようにピタリと止まった。


「それにな、シン。私もずっと、おまえを(やしな)えるわけじゃない。結婚して、家を出て行ったら、どうするつもりだ?」

「大丈夫だ。姉貴の性格で、結婚はできな――」


 ドンッ!


 鳩尾(みぞおち)(こぶし)が叩き込まれ、シンは悶絶(もんぜつ)して、床をのたうちまわる。


「ギョアアアアアアアアアアアアアア!」

「19の弟に生活費を入れろとまでは言わん! ただし、ニートだけは認めん! その程度の当たり前もできないなら、弟でも家から追い出すぞ!」


「辞めたスポーツを強要(きょうよう)させて働かせるなんて、横暴(おうぼう)だ! それに住むところを無くしたら、死んじまうぜ!」

「知らん! 物乞(ものご)いでもすればいいだろ!」


「そんなあああああああああああああああ!!」


 かくして、1年程続いた、二宮シンのニートライフは幕を閉じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ