38話
放課後の裏庭にて。
夕日に照らされるシンは、右手の平に拳を当てると、不敵に笑った。
「今日から、本格的にしごいてやる。俺を超えると啖呵を切ったんだ。生ぬるい指導だと、思うなよ」
「はい、よろしくお願いします」
(……敬語か。変な感覚だ)
愛那から感じたシンを毛嫌いする雰囲気は、先日の出来事をキッカケに、すっかり薄れていた。
敬語嫌いのシンにとって、愛那の態度は背中がムズムズするが、不思議と不快ではない。
さて、始めよう。
「俺はオブラートに包まねーぞ。ハッキリと事実だけを伝える。菅原愛那、お前は雑魚の中でも、最下層クラスで雑魚だ。雑魚の才能に関しては、文句なしのピカイチ」
「うぐ……」
「というわけで、お前には、マジッカ―のド基礎から、叩き込む」
酷い物言いとは理解しているが、愛那に根拠のない自信は、持って欲しくない。
愛那はブルブルと震えると、歯を食いしばる。
きっと今の愛那は、心から悔しがっているだろう――これこそがシンの狙いである。
「簡単に基礎と言ったが、言葉では教えきれない。マジッカ―において、必要不可欠な感覚を、お前の身体に刻み込んでやるぜ」
「あたしは、どうすればいいんですか?」
「簡単だ。剣と魔法を用いて、俺を攻撃しまくれ」
「それだけですか?」
「ああ、精々頑張りな」
~ ~ ~
「はい、お疲れさん。少し、休憩にするぜ」
「はぁはぁ……。は、歯が立たなかった……」
練習に一区切りつけたシンと愛那は、部室に戻った。
疲れ切った愛那は、全身を汗で濡らすと、机に倒れこむ。
「老若男女、男女平等。マジックギアの装着者は身体的体力を調整される。俺とお前の体力は同等だったはずだ。なのに、何故、お前だけ、そんなにへばってんだろうな?」
嫌みな発言とわかっているが、シンは尋ねる。
「あたしの動きに無駄があったからなんでしょ……。そのくらいわかるわよ……。はぁはぁ……。それで、あたしは、どうしたら……いいんですか? アドバイスを……」
「アドバイスなんて、ねーよ。祐乃、例のモノは?」
「うん! バッチリだよ!」
机に置かれた機械を弄っていた祐乃が、楽しそうに声をあげる。
「よし、ホームシアターの準備は出来てるな。サンキューな、祐乃」
「えへへー」
シンに頭を撫でられ、祐乃は、照れくさそうに笑う。
状況が飲み込めない愛那は、なんとか重い身体を起こしてシンに尋ねた。
「ど、どうして……そんなモノがあるんですか……?」
「俺の家から持ってきた。たまに姉貴が、映画を観るときに使ってるからな」
シンが照明を消して、部室内が暗くなる。
「よっしゃ! 公開処刑の時間だッ! そーれ、ポチッとな!」
愛那は、何が始まるかわからず困惑しているなか、シンは下品に笑うとホームシアターの再生ボタンを押した。
長年使われて、劣化したホームシアターから、ジジジとモーター音が鳴る。
そして、しばらくすると部室の壁に、映像が流れ始める。
それは――先程の愛那の練習風景だった。
ヘタッピな剣技、当たりもしない状況で放った魔法、判断が遅れてシンの攻撃の後に展開した《シールド》。
無様過ぎる自分の映像が流され、愛那は顔が一瞬で茹で上がる。
「ちょっとこれって! と、止めて!」
「なんで、止めるんだ?」
「そ、それは……」
「この映像には、おまえの弱さが全部映っている。祐乃に協力を頼んでまで、撮影したんだ。自分の駄目な箇所を目に焼きつけろ」




