39話
「改善箇所は見つかったか?」
「顔から火が出そう……。あたしって、ここまで酷かったんですね……」
「随分と凹んでいるな。今日の部活は終了か?」
「そんなわけないですッ! あたしは、追いつきたい人がいるんですッ!」
「気合いバッチリだな。さあ、休憩は終わりだ。練習に戻るぜ」
◆ ◆ ◆
――翌日。
「やった! 背後から攻撃を防げたわ――」
「その代わり、正面が甘くなってるぜ。《ソード》をくらえ」
ビーッ
「あうッ! またHPが尽きたわ! もう一度!」
「まずは休憩だ。祐乃に撮影してもらった映像を確認するぞ」
◆ ◆ ◆
――その次の日。
「《唸れ、暗黒ダーカー》」
「前よりは、速くなってるな。けど、当たらないと意味はないぜ」
そう言って、シンは一気に接近すると、愛那の手首を掴んで空に向ける。放たれた魔法は、虚しく空中で弾けた。
「はい、隙まみれ。《ソード》をくらえ」
「あうッ!」
ビーッ
「くぅぅぅぅぅッ! また負けた!」
「全てがうまくいくことはない。失敗した場合のリカバリープランも練っておくんだな。さっきの正解の動きは――」
シンのアドバイスを一語一句聞き逃したくない愛那は、聞き入りながら力強く頷くのだった。
◆ ◆ ◆
――そして、次の日。
「くぅぅぅぅぅぅぅッ! 悔しいわッ! 今日こそは、コーチのHPを削れると思ったのにッ!」
「俺は強いぜ。そう易々と、ヘマはしない」
悔しそうに顔を歪めていた愛那は、ふーっと息を吐くと、口元に手を当てた。
「……コーチの《ソード》が怖くて、ずっと《シールド》を張ってしまったわ……。防戦では勝てるわけない……。それなら……。でも、今日、撮影した映像の改善箇所は……。ぶつぶつ……」
「熱心なことで」
小声で呟きながら、自身を見返す愛那を見て、シンは、どこか安心感を覚える。
すぐに良い方向へと舵を切れた愛那が、羨ましくて、少し嫉ましかった。しかし、不快ではない。
むしろ、誇らしかった。
「隙は少なくなった。お前は成長している」
「そ、そうですか。えへへ」
シンに褒められ、愛那は照れくさそうに頬を掻く。
不覚にも可愛いと思えてしまい、余計な考えを払うために、シンは首を振った。
「だが、それは《ソード》による攻撃においてだ。次は、魔法の頻度を上げて、攻撃する」
「は、はいッ!」
「それと、今から俺は、戦い方も変えるぜ。マジッカ―フロンティアは、多くのヤツを相手にするからな。俺が今まで戦ってきたヤツの動きを真似をしてやる。大会前の参考にしておけ」
「わかりました!」
疲労が溜まっているというのに、愛那は立ち上がる。目は輝いており、一心にシンを見つめていた。
(燃えすぎだぜ)
眩しすぎる。シンの瞳が焼けるほどに、今の愛那は眩しすぎた。
しかし、沸き立つ。
シンは、口元を緩めて、フッと笑った。
(面白いッ! これが教えるということかッ!)
14という若さ故か。ここ数日、愛那の成長は著しい。
注意した箇所の改善、伸ばす箇所の指摘と様々なことを教えてきた。その結果、今の愛那は先日とは、まるで別人だ。
だが、当の本人は、強敵のシンしか相手にしてないせいで、自身の実力に無自覚である。
(何故、俺は一年も気付かなかったんだろうな。俺を倒せるヤツがいないなら、そんなのは、自分で育てればよかったんだ)
聖華に負けたかった願いも、今では叶うことがない。
しかし、聖華を追う愛那にならば、負けることも可能だ。
愛那とのマジッカ―で全てを出し切って、悔いがないほど、楽しんだその先で負ける。
――わるくない。
愛那には才能がある。
才能と言っても、腕のことではない。
愛那は格段に強くなったとはいえ、まだまだ素人に毛が生えたレベルである。
しかし、愛那は、誰よりも優れている箇所があった。
それが熱意だ。
真っ直ぐだ。ただひたすらに前を見ている。
この調子で、毎日教えていけば、きっと誰よりも強くなれる――と思ったとき、シンは、あることに気付いた。
「そういや、明日は土曜か」
「そうですね。部活も休みになってしまいます……」
肩をガクッと落として落ち込む愛那を見て、シンは顎に手を当てる。
「ちょっとトイレに行ってくるぜ。大きい方だから遅くなるぜ」
「まったくもう…品がないんだから」




