34話 愛那の償い
風呂から上がり、さっぱりしたシンは、リビングに移動する。
そこでは、瑠偉と、相変わらず覇気のない愛那が話していた。
会話内容は、腕の怪我のことらしい。
区切りも良さそうだと思ったタイミングで、シンは愛那に声をかける。
「雨もあがった。今のうちに帰れ」
「そうね……。そうするわ」
「暗いからな。送って行ってやる」
物臭なシンが、こんなことを言うとは思わず、瑠偉は驚いた顔をする。
「明日は、雪でも降るのか?」
「酷い言いようだぜ。まあ、俺にも色々あるんだ」
「……そうか。では、頼んだぞ」
~ ~ ~
湿ったアスファルトの匂い、ジメジメとした空気。
街灯が道路を照らす夜道に、人通りは一切ない。
カツカツと、シンと愛那の足音だけが、響き渡る。
相変わらず、愛那は俯いたまま。
シンは、愛那の数歩先に出ると、くるっと振り返った。
「悩んでいるようだな、聞いてやる。言ってみろ」
「な、なによ。藪から棒に……。それに、あなたに相談することなんて……」
たじろぐ愛那をよそにシンは、グイグイと顔を寄せる。
「お前の言う通りだ。俺とお前の関係なんて、その程度だぜ。だがな、お前のことを、第一に心配する底なしのお人好しから頼まれたんだよ。だから、さっさとぶちまけろ」
「聞き方ってものがあるでしょ……」
「そんなモノを守って、お前が素直に喋ると思わないんでね。上から目線と罵られようが、デリカシーがないと貶されようが、お前が悩みをぶちまけるまで、離すつもりはない」
「うぅ……」
シンの気魄に押され、愛那は押し黙る。
「いつもみたいにガンガン、俺を責めろよ。調子が狂うぜ」
シンは頭を掻くと、話題を変えることにした。
「右手首のやけど痕は、痛むか?」
愛那が、右手首の包帯をギッと掴む。
目が長い前髪で隠れて、表情が見えないが――あんな掴み方をすれば痛みが走る。
――わざとやっている。
鈍感なシンでも、愛那の行動は簡単に理解できた。
「……医者に、古傷になると言われた……」
「女子中学生の身体に、生々しいやけど痕か。気の毒に」
「いいの……。戒めみたいなモノだから……」
右腕を掴む力が強くなる。
傷が開き、激痛が走るというのに、まるでそれが、自分の罪への償いとでも言っているかのように――
「自傷はやめるんだな。痛みに救いを求めてるんじゃねーよ」
見ていられなくなったシンは、愛那の左手を掴む。
「悩みもない溜め込んでないヤツが、そんな自虐するかっての」
「……」
「いいから話してみろ。お前、俺のこと嫌いだろ?」
「だから、なによ……」
「俺も、お前のこと嫌いだ。だからこそ、気遣わずに、話せることもあるはずだぜ。だから、言ってみろ」
数秒間の沈黙。
偏屈な理屈だった。
しかし、今の愛那には、シンの理屈が不思議と納得できて――
「……あたし、マジッカ―部を崩壊させた」
口は自然と開いていった。