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落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
34/65

34話 愛那の償い

 風呂から上がり、さっぱりしたシンは、リビングに移動する。

 そこでは、瑠偉と、相変わらず覇気のない愛那が話していた。

 会話内容は、腕の怪我のことらしい。

 区切りも良さそうだと思ったタイミングで、シンは愛那に声をかける。


「雨もあがった。今のうちに帰れ」

「そうね……。そうするわ」

「暗いからな。送って行ってやる」


 物臭なシンが、こんなことを言うとは思わず、瑠偉は驚いた顔をする。


「明日は、雪でも降るのか?」

「酷い言いようだぜ。まあ、俺にも色々あるんだ」

「……そうか。では、頼んだぞ」



 ~ ~ ~



 湿ったアスファルトの匂い、ジメジメとした空気。

 街灯が道路を照らす夜道に、人通りは一切ない。


 カツカツと、シンと愛那の足音だけが、響き渡る。

 相変わらず、愛那は俯いたまま。

 シンは、愛那の数歩先に出ると、くるっと振り返った。


「悩んでいるようだな、聞いてやる。言ってみろ」

「な、なによ。藪から棒に……。それに、あなたに相談することなんて……」


 たじろぐ愛那をよそにシンは、グイグイと顔を寄せる。


「お前の言う通りだ。俺とお前の関係なんて、その程度だぜ。だがな、お前のことを、第一に心配する底なしのお人好しから頼まれたんだよ。だから、さっさとぶちまけろ」

「聞き方ってものがあるでしょ……」


「そんなモノを守って、お前が素直に喋ると思わないんでね。上から目線と罵られようが、デリカシーがないと貶されようが、お前が悩みをぶちまけるまで、離すつもりはない」

「うぅ……」


 シンの気魄に押され、愛那は押し黙る。


「いつもみたいにガンガン、俺を責めろよ。調子が狂うぜ」


 シンは頭を掻くと、話題を変えることにした。


「右手首のやけど痕は、痛むか?」


 愛那が、右手首の包帯をギッと掴む。

 目が長い前髪で隠れて、表情が見えないが――あんな掴み方をすれば痛みが走る。


 ――わざとやっている。


 鈍感なシンでも、愛那の行動は簡単に理解できた。


「……医者に、古傷になると言われた……」

「女子中学生の身体に、生々しいやけど痕か。気の毒に」

「いいの……。戒めみたいなモノだから……」


 右腕を掴む力が強くなる。

 傷が開き、激痛が走るというのに、まるでそれが、自分の罪への償いとでも言っているかのように――


「自傷はやめるんだな。痛みに救いを求めてるんじゃねーよ」


 見ていられなくなったシンは、愛那の左手を掴む。


「悩みもない溜め込んでないヤツが、そんな自虐するかっての」

「……」


「いいから話してみろ。お前、俺のこと嫌いだろ?」

「だから、なによ……」

「俺も、お前のこと嫌いだ。だからこそ、気遣わずに、話せることもあるはずだぜ。だから、言ってみろ」


 数秒間の沈黙。

 偏屈な理屈だった。

 しかし、今の愛那には、シンの理屈が不思議と納得できて――


「……あたし、マジッカ―部を崩壊させた」


 口は自然と開いていった。

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