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落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
32/65

32話 寝たふり

 バスを降りて、空を見上げる。

 ゴロゴロと黒雲が唸り、ポツポツと雨粒が降り始めていた。


「ちっ、これは本降りになるな」


 シンが降りた洛咲停留所前は、設置された時刻表とベンチだけが置かれた簡素なバス停だ。

 到底、雨宿りなんて出来ない。


「おい、起きろ、早くしねえと、俺が濡れるだろ」


 身体を動かして、振動を与えて見るが、愛那の目は開かれない。


「あー、めんどくせッ。送っていくのはいいが、こいつの家なんて知らねえよ。それに、風も強くなってきてるじゃねーか。どんだけ睡眠が深いんだよ、この女」


 やむを得ず、シンは、愛那を自宅に連れて行くことを決める。

 豪雨とも言える大雨の中、シンはぶつくさと文句を垂れ流しながら、自宅まで走った。


 ――走ることに夢中で、シンの背中で薄らと目を開けている愛那に気付かなかった。






「はぁ……はぁ……! 女を担いで、ランニングだと……! ニートの衰えた筋力を強制労働させるイベントとか……クソ過ぎるだろ……!」


 下着までずぶ濡れになったシンは、息を切らして、玄関の扉に手をかける。

 帰宅したシンを出迎えるように、玄関まで足を運んだ瑠偉の表情が、みるみると青ざめていく。


「シ、シン……。部活生を家に連れ込む……!? 問題行動だ! 教育委員会に、つるし上げられるぞ!」

「雨が強いってのに、外で放置させる方が問題行動だっての」


 シンの筋が通ったように見える意見に、瑠偉は、ふーっと息を吐いた。


「世間は、そういう理屈を理解してくれない。まあ、今回は目をつむっておいてやる。手だけは出すなよ」

「冗談はやめろよ、姉貴。俺が、こんなぺったんこに欲情するとでも――いてえっ!」


 ギュッという音と共に、背中に激痛が走る。

 背中に乗っていた愛那が、勢いよく、シンから飛び降りた。


「起きてやがったのか! 背中をつねるな! さっさと降りろ!」

「コンプレックスを弄るなんて最低!」


 弟と担任する生徒の騒がしいやり取りに、瑠偉は深く考えるのが、バカらしくなったようで、首を横に振った。


「風呂に湯を張ってある。さっさと入ってこい」

「気が効くじゃねえか、姉貴!」


「貴様は、レディーファーストを知らんのか?」

「勿論知ってるぜ。男を危険に晒さないために、真っ先に女を生贄をすることだよな!」


 いつもの調子のシンを瑠偉は、華麗にスルーすると、手に持っていたタオルで、ずぶ濡れになった愛那の頭を拭き始めた。

 元は、帰宅したシンのために用意した物であったのだが……


「風邪をひくとシンのようなバカになるぞ。菅原、湯に浸かってこい」

「いいんですか……?」

「風邪は学業に支障をきたす。はやくしろ、あとがつかえてる」


 遠慮がちな愛那の手を引いて、瑠偉は脱衣所へ案内する。


「なーなー。姉貴、俺も風呂に入りたいんだけど。風邪引いちまうぜ」

「生徒に風邪は、ひかせれない。あとでタオルを持ってきてやるから、我慢するんだ」


「俺、画期的なアイデア浮かんだわ。一緒に風呂入れば万事解決じゃね?」

「死にたいのか、シン?」

「滅相もございません」


 瑠偉に睨まれ、シンは借りてきた猫のように大人しくなる。

 愛那と瑠偉が脱衣所に移動して、シンは玄関に1人で取り残された。


(やっぱり、姉貴がいると、いつもの調子に戻れるぜ)


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