30話
「あー、疲れた。旧友に会うと、疲弊するぜ」
嫌味を吐くとシンは溜息を吐いて、背伸びをする。
シンにいつ話かけようかと、愛那はモジモジしながら口を開く。
「ねえ……あの……さ……二宮さん?」
「んだよ、気持ち悪い呼び方すんな」
「どう呼べばいいのか、わかんないのよ……」
昨日の出来事から、すっかりと覇気を失った愛那の姿に、シンは頭をかいた。
愛那の無自覚な暴走なので自業自得とはいえ、やり過ぎた感は否めない。
「好きに呼べ。シン君以外は認めてやる」
「その呼ばれ方に、抵抗でもあるの……?」
「シン君と呼んでいいヤツは、この世で1人だけなんだよ」
「それなら、ボクは、これからコーチと呼ぶね。部活指導員さんだし、それにとっても強かったから!」
「いいぜ。それで、お前は、俺をどう呼ぶんだ?」
「考えておくわ……」
相変わらず、意気消沈とする愛那。
普段、鬱陶しいと感じていた減らず口でさえ、今のシンには恋しかった。
愛那という女は嫌いだが――あいつの言葉は聞いてると、どことなく活力が湧く。
自分と悪い箇所だけ似ていて、まるで鏡を見ている気分になった。
心底、イラつく。
しかし、おかげで活力が沸き、昨日はマジッカ―を最後まで続けられた。
息吹の時ですら、途中で投げ出したというのに。
「話題が逸れたわ。さっきの人、プロの北里息吹選手よね。勝利してたみたいだけど……。あなた、いったい何者なの……?」
「他人の空似だ。そんな大物に、俺が勝てるわけねーよ」
「……」
自分でも呆れるくらい、見え見えな嘘。
人を見る能力が劣っている愛那ですら、疑問を持ったようだった。




