28話
灼熱の熱波が頬をよぎり、シンは現実に引き戻される。
(俺は……息吹と戦っている最中だったな……)
首をあげて、浮遊するスマホに目を向ける。
【北里息吹 HP10】
【二宮シン HP65】
「そっか、俺は勝ってるのか……」
息吹との戦いに集中もせず、過去を振り返っていた。
過去に耽り、うわの空だったというのに、シンは優勢。
「どうしたんですか、シンさん。はやく、トドメを刺してください」
シンの片手には、美しくも猛々しく燃え上がる《灼熱剣プロミネンス》が握られていた。紅玉を連想させるほどに透き通った刃は、息吹の喉元に向けられている。
《シールド》も間に合わない。万事休す。息吹は、詰みだ。
しかし――
「……やめだ」
マジックギアの魔力供給を絶ち、《灼熱剣プロミネンス》が、魔力へと戻り、散り散りに綻んでいく。
「どういうつもりですか、シンさんッ!」
「……気力が湧かない。お前の勝ちでいい……」
当然、息吹は激怒した。
落ち着いた物腰から、想像できないほどに表情を歪め、整った相貌が赤く染まった。
「譲られた勝利に価値はない! そんなこと、あなたが一番理解しているはずです。シンさんッ!」
「……」
「あなたはいつも自分勝手だ! 幾度となくあなたに挑んでも、僕は一度も勝利を掴めなかった! 僕は自分の全てを出し切って、あなたに挑んだッ! 正直、負けても悔いはなかった! また次に繋げようと思っていた――それなのにッ! この勝負を汚す真似をしないでくださいッ!」
息吹の双眸は、鋭く吊上がり、己の持つ意思と敵意を宿す。
ただ、シンの瞳は、息吹と相反するかのように、失意の底に沈み、冷え切っていた。
「だからなんだってんだ……? 俺には関係ないだろ……」
「関係ないわけないです! 僕はプロです。いつまでも、二宮シンに負けている北里息吹ではいられません! あなたに勝たないと、僕は永遠にプロであることを誇れない! 僕は成長するために、あなたに挑んだのですッ!」
「そうか……。お前も悩んでいたんだな……。すまなかったな、気付かなくて……」
シンの素直な謝罪を受けて、息吹の怒りは有頂天を迎えてしまった。
息吹の咆吼が、響き渡る。
「謝罪なんて不要です! 今すぐ、トドメを刺してください! 僕に敗北の苦汁を味わわせてください。それは、僕の成長に繋がるッ!」
「わかってくれ、息吹……。もう無理なんだ……。ツラいんだよ……」
シンの消沈とした雰囲気と、どこからか漂う哀愁に息吹は唖然とする。
「ここまで変わり果ててしまったんですか、シンさん……。何事にも一心で努力する、あなたに憧れたから、僕はプロの道を選んだというのに……ッ!」
息吹は、行き場のない怒りを吐き出して、地面を蹴り上げる。
沈黙。
互いに一歩も動かず、なにも喋らない。
永遠とも感じれる、長くもあり、短い時間が過ぎていく。
……
……
……
「あーッ! なにやってるの!?」
そんな、つまらない静粛を打ち破ったのは、幼い黄色い声だった。




