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落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
25/65

25話 シンの過去 ー 好きなのに好きと言えなくて ー

 ――それから、しばらく経って。


『ここがシン君の学校か。男子校だからかな。あたしの学校の文化祭とは、雰囲気が全然違うね』

『男子校と女子校は、全然違うだろ』

『来週、あたしの学校で文化祭あるんだよ。来てみる?』

『女子校なんて、お淑やかな女子しかいなさそうな空間は、肩身狭いぜ』

『ふふ、そんなことないよ。むしろ、男の子がいないから、血気盛んだよ』


 聖華とのたわいもない会話。これが俺の、最高で、最愛の時間だった。


 これまで幾度となく振り絞った勇気を、再び振り絞って聖華を高校の文化祭に誘った。


『シ、シンさん……!』


 ふと、背後から名前を呼ばれて、振り返る。


『息吹じゃねーか。こんな所にきてどうした?』

『シンさんと一緒に文化祭を回ろうと思って、探しにきたんですよ。そ、そしたら変な女が……』

『あはは……、変な女か。酷いなぁ』

『シンさん、わかってるんですか! 男子校で、彼女を作るのは禁忌です!』

『バ、バカ! か、彼女じゃねーよ』

『女と一緒に文化祭を回っているのは事実です! クラスのみなさんにバレたら、なんと言われるか――』


 うおおおおおおお! 殺せ! 

 強いからって調子に乗りやがって!


『マジな殺意を向けるな! 聖華、逃げるぞ!』

『シン君は賑やかだね』


 にこやかに笑う聖華の手を握って、校内をドタバタと逃げ回った。

 そういや、このとき初めて、聖華と手を繋いだんだっけ…… 


 ――それからさらに経って。


『あたし達も高校三年になっちゃったね。ずーっと、シン君と練習してきたけど……、とっても強いよね。羨ましいよ』

『……』

『シン君は、これからどうするのかな?』

『それは……』


 この頃からだ。

 俺は何を目指しているのか、わからなくなっていた。

 なんのために俺は、マジッカ―をしているんだ、と。疑問に思うことが多くなった。


『もしかして、プロを目指すの?』

『プロ……か』


 マジッカ―で、金を稼いで生活したいかと言われたら……素直に頷けなかった。

 子どもの頃は、魔法に憧れてマジッカ―をしていた。しかし、聖華と過ごすうちに、子どもの頃の夢は、薄れていった。


 原因は、わかっていた。俺の中の一番が、すり替わったからだ。

 昔は、一番がマジッカ―だったが、いまでは――


 俺がマジッカ―を辞めたら、聖華との繋がりが無くなるかもしれない。

 そんな恐怖心と焦燥感に駆られて、マジッカ―を続けていた。


 前は、あんなに楽しかったマジッカ―も、俺の中で、聖華に強いことを褒められるためのお遊戯と化していた。


『プロを目指すなら、あたしと練習するのも、学生の間だけになっちゃうのかな……』

 この言葉が決め手だったな。


 聖華と一緒にいれないなら――そんな人生は価値があるのだろうか。

 俺は、プロになりたくないんだなと悟った。


『そうだ、シン君。あたし、来月誕生日なんだよ』

『知ってるよ。毎年プレゼントしてるじゃねーか』

『今年もプレゼントちょーだいね』


 当時は、あの満面の笑顔を見るために頑張っていたというのに――今では思い返すと涙がこみ上げ、俺の心は砕ける。


『マジッカ―フロンティアの県代表戦を勝ち抜けたらな』

『やったー! それなら、全力で頑張っちゃうんだから!』

『張り切りすぎだろ』

『覚悟しておいてね。シン君から、とびっきり高いプレゼントを貰っちゃうから』

『どーんと来い。なんでも買ってやる』


 今思えば、これは実質、告白だ。

 聖華に好きとは言えなかったのに、気前良い男を演じて――聖華に「あなたが好き」と言ってもらえないか…?と刹那に願っていた。


 受け身な童貞の思考である。

 今思い返すと恥ずかしくて死にたくなる。


『それで何が欲しいんだ?』

『マジックギアだよ』

『なんでそんな物を? 持ってるじゃねえか』

『お金持ちから財布を貰うと、金運が上がるって言うでしょ。あれと同じ。シン君は、マジッカ―強いから』

『願掛けかよ』

『…………………それ以外の理由もあるけどね』

『ぼそぼそ言わないでくれよ。聞き取れない』

『なんでもないよ。さ、練習の続きしよ』

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