表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
24/65

24話 シンの過去

 ――。

 ―――。

 ――――。


 不快で、それでいて尊い思い出が蘇る。

 それは、今では、ほど遠い過去。


 俺が高校一年の頃の記憶だ。

あの頃の俺は、とにかくマジッカ―に熱中していた。日祝日を返上して部活に明け暮れて、少ない時間と小遣いをやりくりして試合観戦にも行った。チケットが取れなかったときは、本気で落ち込んだ。


 金が足りずに、何度も何度も、両親と姉貴に頭を下げた。

 この時から、俺は不出来な弟だった。姉貴には感謝しきれない。


 俺が通っていた男子校は、良くも悪くも実力主義だった。特に運動部においては、それが色濃く現れており、屈強な者以外は部活を辞めていく。

 当然、全ての部活が、毎年のように甲子園や全国大会において、結果を残していた。


 そんなある日、他校から、運動部全てに交流戦の申し出があった。

 強豪校として名を馳せていた俺の高校では、特に珍しいイベントではない。


 いつもなら『またですか、はいはい』と面倒そうな空気が流れるが――今回の交流戦が決まったとき、俺の学校は大いに盛り上がった。


 理由は、単純明快。

 申し出をしてきた高校が、近所でも有名な()()()だったからだ。

 女に飢えた男子校生が、盛り上がらないわけがない。


『彼女を作るぞ!』

『連絡先交換する!』

『童貞を――』


 様々な欲望をチラつかせる男子校生達。

 正直、俺は、校内に漂う浮かれた雰囲気に、イラついていた。


 ――真面目に取り組めよ、そう考えていた。


 ()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 こいつらとは違う。俺は出来るヤツだと、心の何処かでつけ上がっていて――

 

 そして開催される交流戦。

 そこで1人の女子生徒と対戦を行った。

 

 ピンと伸びた背筋、落ち着いた立ち振る舞いから、行き届いた教育がうかがえる。

 目麗しいほどに整った顔立ち。大きくも精緻な瞳、薄くも細緻なピンクの唇。 黒曜石のように、美しく透き通った黒髪を腰まで伸ばした髪から、ダランと垂れる()()()()()()が異彩を放つ。

 

 本人曰く、メッシュを入れた原因は、両親に対しての不満の表れだったとか。いわゆる、反発らしい。

 お淑やかなだけではない彼女の魅力が、そこに現されていた。

 

 ――美人。

 

 自分の語彙力のなさに呆れるが、それ以外の言葉が思い当たらない。

 浮かれた連中を蔑んでおきながら、容易く心を射貫かれて、一目惚れした自分が情けなかった。

 

 高鳴る動悸が止まらない。

 

 しどろもどろしてしつつも、俺と、彼女――高橋聖華(たかはしせいか)とのマジッカ―部、交流戦が行われた。

 女と油断していたが、俺は存外に追い込まれ、互いのHPも一桁という、接戦に持ち込まれる。

 他の交流戦をしていた人達は、いつの間にか、俺達の戦いに魅了されいたらしく、観戦に回り、声援を送っていた。

 

 これまで経験したことのない楽しい時間だった。永遠に続けばいいのにと願った。

 しかし、俺達のような部活生は、勝つことに貪欲である。

 

 ――結果は、俺の勝利。

 

 勝利をもぎ取った嬉しさと同時に罪悪感が、俺の心を刺す。

 彼女は今まで負け知らずだったらしく、薄らと涙を浮かべて項垂れていたのだ。


『あはは……。君、強いね』

『そ、そうか……?』

『あのさ……、学校違うけどさ、明日から一緒に練習しない?』

『え……』

『おねがい。あたし、強くなりたいの……』


 断れるはずがない。

 それから俺は、部活が終わると河川敷に行き、夕日を背に練習する日々を送った。


『あははー、シン君、前より強くなってるね。あたし、敵わなくなってきてる』

『そんなことないよ、高橋さんは、強い。きっと俺なんかより……』

『せ・い・か』

『え?』

『あたしは、シン君って呼んでるだから、聖華って呼んで』

『う……、わ、わかった』


 ここまで親しくされたら、「こいつ、俺のこと好きなんじゃね?」と勘違いするのが、恋する童貞の思春期というもの。


『あのさ、聖華……。そのーあのー』

『どうしたの、シン君?』

『今度の日曜日さ、気分転換も兼ねて……、どこかでかけないか……?』

『ごめんね。その日は家の都合があって……』


 悶死。

 その日は、ベッドでゴロゴロと転がって、本気で泣いた。

 それでも諦めきれなかった俺は、童貞のへたれ心に鞭を打って、トライする。

 途方も無い苦労の甲斐あって、なんとかゲットした2枚のチケット。


『せ、聖華……。知り合いから、プロマジッカ―選手の試合のチケットを2枚貰ったんだけど……、一緒に見に行かないか?』

『いいの!?』


 勝利。俺は心の中で狂喜乱舞のガッツボーズを取る。

 目を爛々と輝かせる聖華に、俺は更に惹かれていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ