21話 プロ選手との再会
時刻は昼過ぎ。
駅まで徒歩で移動したシンは、バスで隣街までやってきた。
寂れた商店街の街角。そこがシンの目的地である。
「もうこんな時間かよ。随分と品定めしちまったな」
店を出ると、シンは店主から受け取ったカタログを鞄に片付けた時だった――
「――殺気ッ!」
射貫かれるような鋭い視線を感じて、シンは、周囲を見渡した。
(勘違い……か?)
どれだけ見渡しても、寂れた商店街には、老人と主婦しかいない。
「平和な日本で殺意剥き出しなヤツなんていねーよな。この歳になって、中二病を再発症させちまったか?」
勘違いだと気付くと、恥ずかしさがこみ上げて、シンは頭を掻いた。
ぐーっ
「へんな勘違いを起こしたのは、空腹が原因だろ」
飢えた腹を抑えるシンの目に入ったのは、ハンバーガーで有名なジャンクフードショップだった。
外出することが少ないシンにとって、ジャンクフードを食す機会が少ない。
物珍しさも相まって、ここで昼食を取ることを即座に決断する。
食事時から時間が経っているからか、客は少なく、店員はまったりと仕事に取り組んでいる。
シンはハンバーガー、ポテト、ストロベリーシェイクを注文して、店員から受け取ると、カウンターテーブルまで移動して、ドスッと腰を降ろした。
「歩き回って、疲れたぜ」
愚痴を溢しながら、シンはハンバーガーに喰らいついた。
「ハンバーガー喰ったのなんて、高校の時以来だな」
頬杖を突いて、スマホで最近のニュースを確認しならが、モグモグとハンバーガーを食べていると、周りが騒がしくなったことに気づく。
ふと、気になったシンは黄色い声のする方へと視線を向ける。
女子大生くらいの2人組が、1人の男に握手と写真を求めているようだった。
反応からして、その男は有名人らしい。
「大物YouTuberでも来てんのか? 女にモテるとは、羨ましいことで」
この手の有名人に興味がないシンは、食事に戻る。
ファンの対応を終えた有名人が、トレイに食事を載せて、シンの隣の席に座ってきた。
「隣、失礼します」
「あ、はい。どうぞ――」
礼儀正しく対応され、シンは、思わず返事をしてしまう。
他に席は空いているはずなのに、何故わざわざ俺の隣に座るんだ――と疑問に思いながら、男の顔を見た。
「久しぶりですね、二宮シンさん」
シンの名前を呼ぶ青年。
年齢はシンと同じくらい。清潔感溢れるブラウンの毛髪。すっきりと整った顔付き。ゆったりした目つき。服装はライトブラウンで統一。
ファッションに疎いシンですら、アウター、トップス、インナー、パンツ、シューズに至るまで全てが、ブランド物であることを理解する。
女性受けするには充分過ぎるほど、彼は魅力を秘めていた。
しかし、身長は男性にしては高くなく、長身のシンに比べると、やや小さい。むしろ、それが、彼のカリスマと可愛さを掛け合わせて、相乗効果を生んでいる。
「ったく。こんな所でおまえと出会うとはな」
「はい。僕も驚きました」
互いに、親しさを含んだ受け答え。
これは勿論、互いに面識があるからこそ、出来ることである。
「――北里息吹。一年ぶりだな」
そこには先日、テレビで見かけたプロの姿があった。